いつか書こうと思っていた小説
「本当にそれがプロポーズの言葉なの?」
「本当にこれがプロポーズの言葉さ」
「悪い夢を見てるのかしら、わたし。でもプロポーズされたんだからいい夢ね」
「僕と結婚してくれよ、すぐに」
「そのつもりだったのよ、でもそんな風にプロポーズされると思わなかったから……」
「君と出会えてわかったんだ」
「うん」
「君は僕がいつか書こうとしてた小説なんだって」
「う、うん、なんかありがと……」
「転さ、起承転結の」
「え?転なの?えー」
「転にちがいないよ、今のこの瞬間は」
「わたし、ごめんなさい、転で結婚したくはないわ」
「僕がいつか書こうとしてた小説のなかでもたしかそう言われたよ」
「でしょうね」
「長編なんだ」
「うん」
「大長編」
「はい」
「全部これから書けるって素敵だろ?」
「ハッピーエンドにしてくれるの?」
「もちろんさ。僕が書くんだからね」
「そうね、じゃあ……、結婚するかはそれを読んでから決めるわ」
「わかったよ、でも読み終わる頃にはきっと家族も増えてるだろうね」
「ふふ、そうなのね」
僕らは婚約した。
まるで小説の書き方にルールがほとんどないみたいに、婚約のルールをほとんど無視して。
僕のはじめて書く小説だから
もちろんハッピーエンドにするつもりさ。
終
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