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ネコ代行サービスの男(それからのこと 前編)


ネコの眠りにはレム睡眠が非常に多いといいます。

夢を見てるんだそうです。

ネコ代行サービスの初仕事の日に不審者と間違われて捕まった僕としては、

もしもこれが夢ならば覚めて欲しい限りです……。

🐈  🐈  🐈  🐈

警察のひとによる、まったくオープンクエスチョンじゃない長い取り調べが終わり、疑いが晴れて、青天白日。ようやく僕は釈放された。

「よかったね」と言って署員の方たちが送り出してくれた。

あらぬ疑いをかけられただけなのに僕の中に“ありがたいな”という思いが多少なりとも浮かぶのがなんだか癪だ。

警察回りをしていて聞きつけた地元記者が面白いケースだから話を聞かせてくれと言って近寄ってきた。

僕「ネコを飼ってますか?」

記者「犬なら大きいのを飼ってます」

僕「そうですか」

うちの会社のサービスを世間に知ってもらうチャンスかもしれないと思い、上司(元ノラ)の許可を得た上で話をした。

録音してもいいか?と聞かれたので、別に構わないと答えた。

ただ僕は研修で特殊な訓練を受けているので、録音してもネコの声にしか聞こえないだろうし、写真を撮っても猫としてしか写らないだろう。そうでなきゃ、飼い主さんに喜んでいただけないから……。

後日、僕のことがネット記事になって、反響を呼んだ。その波は凄まじく、僕は有名人になってしまった。

あまりの反響に、SNSの会社公式アカウントの外のひとを任されてしまい、それってクビってことなのかなと真剣に悩んだりもした。

とにかく、フォロワーも激増し、会社の売り上げも上がってよかった。

その後もネコ代行としての僕個人の人気はとどまることを知らず、猫雑誌の表紙モデルネコ代行を皮切りに、ネコ駅長代行、果てはドラえもん代行まで、どんどん表舞台へと出ていった。

ある時などは、権威あるキャットショーに代行で出場して、グランドチャンピオンを獲ってしまい、『僕』という名の血統ができてしまったくらいだ。

あまねく猫フィールドに『僕』が行き渡り、いやはやではあるが、少なからず社会のお役に立ったようで、それまでAIによって仕事を奪われていたたくさんの人たちがこぞってこの業界に足を踏み入れてくれるという社会現象が起こせた。一大ムーブメントというやつだ。

今や、サラリーマンたちは皆んな、やりがいを持って猫として働いている。

順風満帆かと思われたその矢先だった……。

想像もしていなかった事態が僕を襲ったのだ……。



                 後編へ つづく



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