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#ミステリー小説が好き 引き立て役だって時には主役になる

名探偵、あるいは名刑事には、引き立て役が必要だ。

ホームズにはワトソン
杉下右京には亀山薫(あるいは歴代相棒の誰か、私はやっぱり亀山君推し)

そしてエルキュールポワロ
イギリスミステリー界の女王、アガサクリスティが生んだ名探偵
見事にカールした髭と卵型の体型の紳士、そして灰色の脳細胞からずば抜けた推理を発揮する名探偵にもまた、相棒(そして友人)がいる。

それがヘイスティングズ大尉
ケガで、前線を離れた軍人。
いい意味で当時の英国紳士の騎士道精神を完璧に体現し、悪い意味で、偏見と融通の利かなさを持ち合わせている。
そして金髪美女に弱い(ポワロに何度もたしなめられている)
愛すべきキャラクターだ。
ポワロが登場するすべての作品に出てくるわけではないし、他の人物が相棒を務めているパターンも存在するが、ほとんどが、ヘイスティングズが’相棒兼引き立て役’を務めている。
素直で、人を信用しやすく、しょっちゅうポワロにからかわれたり、真相を最後まで教えてもらえなかったりして、我々読者は「ひどいじゃないか、ポワロ!」というセリフ(あるいは書いてないけど、そう思っているんだろうなと感じる場面)を何度も読むことになる。

今回紹介するのは、アガサクリスティ著 「ゴルフ場の殺人」      原題 MURDER ON THE LINKS だ。

正直、この本を紹介したくない。
なぜなら、先にポワロ作品をたくさん読んで、ヘイスティングズを知ってから読んだほうが、この本の良さはぐっと増すからだ。でもすごい好きだから紹介してしまうことにする。

私は、ヘイスティングズはいつも紳士だけど、どこかどんくさいな~(ちなみにヘイスティングズはたしか30代~40代ぐらいである。めっちゃ年上なのに、こんなこと言ってごめんヘイスティングズ)と思っていた。でもこの本のとある場面を読んで、彼に対して、文字で書き表せられないほど感動した。

やるときはやる男じゃんヘイスティングズ。
かっこいいよヘイスティングズ。
いつもやっぱヘイスティングズはダメじゃん、とかいってごめん、ヘイスティングズ。
スマートなやり方じゃなかったけど。
彼なりのやっぱりめちゃくちゃ不器用なやり方だったけど。

でもすごい、すごいカッコよかった。見直したよ、ヘイスティングズ。


今何回私ヘイスティングズって書いたか教えてもらっていいかい?ヘイスティングズ。

あらすじをすっとばして、ヘイスティングズ愛を語ってしまいました。
すいません。ちゃんと紹介します。

この物語は、ヘイスティングズがとある女性と出会う場面からはじまる。
その女性にヘイスティングズは’シンデレラ’というあだ名をつけるのだが、この’シンデレラ’が物語の重要なカギを握ることになる。

あらすじ
ポワロは、ある一通の手紙を受け取る。
依頼主は、ポワロに生命の危機と助けを求めていた。
さっそく依頼主の住む郊外の小さな町へ向かう一行だったが、到着するやいなや依頼主の死を知ることになる。被害者はゴルフ場でナイフで刺殺されていた。犯人はいったい誰なのか?


ありがちといえば、クリスティ御大に失礼かもしれないが、
推理小説にはありがちなシチュエーションではある。

しかしさすがはミステリーの女王、読者を飽きさせることはない。ミステリアスな未亡人、消失する凶器、そしてなぜ被害者はゴルフ場(しかも自分で掘った穴の上で)で殺されていたのか? 次々と明らかになる事実。一体全体、犯人は誰だ?あいつのはずだ!いや、こいつではないのか?そう惑わされながら読み進めているうちに、いつのまにか結末にたどり着いている。

しかし私がこの本を推薦するのは単に、トリックやストーリーが良いからだけではない。そう、「ヘイスティングズ」この本は彼が主役だからだ(少なくとも私はそう考えている)。私は、今作の彼の行動が、この本の最も読者に感銘を与えるシーン、そしてこの本の最大の特徴、他のポワロ作品と一線を画す部分なのではないかと思う。

物語終盤、ヘイスティングズはとある人物に立ち向かうことになる。
結果的に彼は失敗に終わるのだが。
その場面で、私は初めてヘイスティングズに強い感情を抱いた。
抱きしめてあげたくなった。悲しかった。切なかった。
ヘイスティングズ、でも君はよくやったよ。感動した。
登場人物に(ましてや主人公以外に)こんな感情を抱くのは初めてのことだった。

普段、引き立て役に焦点が当たることはあまりない(だからこそ’引き立て役’なのだが)
そんな愛すべき引き立て役、名探偵たちの才能を際立たせる彼らもまた、物語を確かに動かし、人の心を動かすのだ、それを読者は忘れがちである。

だからこそ、この作品をより多くの人に読んでほしい。
いやいや、クリスティ作品読んだことない人に、最初にこれ勧めるの?という人がいるかもしれないが、すまない。私はどうしてもこの作品が好きなのだ。
クリスティ作品は、映画化やドラマ化がされたオリエント急行殺人事件が最も有名だが、このゴルフ場の殺人も、マイナーだが引けを取らぬ名作だ。

ぜひこの作品を読んで、ヘイスティングスの活躍を読み、普段スポットライトの当たらない引き立て役たちへも、視点を向けて読んでみることを始めてみてほしい。ヘイスティングスが出てくる作品は、他にもスタイルズ荘殺人事件がおすすめだ(というか、これがポワロシリーズ第一作なので、本当は最初にこれを読んでほしい)。

クリスティ作品を読んだことない人も、読んだけど、この本は読んだことない人にも、この本をおすすめしたい。もう読んだよーという人はもう一回読もう。

あとこれを書いて重大なことに一つ気づいた。
私ずっとヘイスティングスだと思ってた!!
ヘイスティング’’なんだ!
めっちゃ勘違いしてた!
ごめんヘイスティングス!




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