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YAYACO YONEYAMA|苦艾酒香水《2》ルタンスの文法

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上写真セルジュ・ルタンスドゥースアメール スペシャル リミテッド〈ドミノ〉(霧とリボン所蔵/Photo: Mistress Noohl)

セルジュ・ルタンス|ドゥースアメール
アブサン(ニガヨモギ)、シナモン、ティアレ、マリーゴールド

 ドゥースアメールのパウダリックな質感はモロッコの石灰を塗った粉白壁のよう。斬りつけるような強烈な日差しから濃く影を落とす館に逃げ込む。回廊を巡り古びた調度品と書物が無限に並ぶ書斎に誘われる。ひんやりと薄暗い部屋には煙草の残り香も漂う。埃にまみれた古い本には魔法や毒薬が染み込んでるような気がして少し怖い。
 白い肉厚の花々が絢爛と咲き誇り百合の白い花弁には花粉がこぼれている。銀色の棘をもつアルテミシア・アブサンの苦味が肌を刺す。アニスとシナモンとバニラは甘く艶めかしく深い夜の帳の静寂に沈みこむように。

 甘さと苦み。相反するイメージの危うい均衡から生まれた淑女のためのアブサン調香のフレグランスです。

 アルフレッド・ジャリにとってアブサンを飲むことは絶対性へたどり着く唯一の方法でした。夜と昼の区別もなく、覚醒した見る夢を持続させるべく「真の幻覚」を追い求め、人生と芸術の隔たりをなくし両者を融合しようとしました。

 狂気に近い完璧な世界こそ。私の美の世界。

 セルジュ・ルタンスは、自身の中に東西文化の美の概念を融合した稀代のアーティスト。最初の香水であるノンブル・ノワールのコピーには「その輝ける一滴を身に纏うとき、女の美しさにひとつ、謎が加わります」とあります。
 絶対的な美を追求するセルジュ・ルタンスの作り出す香水は荘厳で高貴で
自分でも知らないどこかに誘っていってくれるもの。

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「あなたの星座はなんですか」
 太陽星座に魚座、上昇宮に獅子座をもつセルジュ・ルタンスおきまりの質問です。
 資生堂がヨーロッパに進出するにあたりイメージクリエーターとして白羽の矢が立ったのはセルジュ・ルタンス。1980年からの20年間、資生堂はプレステージブランドとしての地位を確固たるものとしました。
 当時の国際部長であり現名誉会長である福原義春氏とルタンスは同じ3月14日生まれなのです。

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上写真|セルジュ・ルタンス  パレ・ロワイヤル店
入口のディスプレイ(Photo: Mistress Noohl/撮影許可確認済)

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上写真|セルジュ・ルタンス  パレ・ロワイヤル店
スペシャルルーム(Photo: Mistress Noohl/撮影許可確認済)

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上写真|セルジュ・ルタンス  パレ・ロワイヤル店 ファザード(Photo: Mistress Noohl/撮影許可確認済)

 1974年よりルタンスの住まいはモロッコ・マラケッシュのメディナ。元コーラン神学校を買い取り数十年かけて改装し創り上げた美の迷宮です。モロッコという国はイヴ・サンローランに色彩を授け、セルジュ・ルタンスには香りへの思いを伝染させました。

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 ビジュアルで表現することはもうやめたのだというルタンス。美の探求者である彼のいまの表現方法は書くこと。イスラム建築は形象美術でなく幾何学文様や文字文様で装飾されています。文字で封印された神殿で文章を綴る詩人のよう。

 ルタンスの調香師クリストファー・シェルドレイクはインド・マドラス生まれの英国人。幼少期にであった香辛料の思い出がルタンスでのクリエーションに生かされているのだといいます。
 「香水は詩であり、分子のフォーミュラは文法のようなもの」と表現しました。言葉を重ねて詩が出来上がるように、香りはエッセンスの組み合わせから生まれるのです。
 セルジュ・ルタンスとクリストファー・シェルドレイクとの間で交わされる調香の往復書簡はさぞかし魅惑的なことでしょう。

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上写真|かつて訪れたフェズのブーイナニア神学校。少しでもメディナの空気を感じていただけたら。

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