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KAYOKO TAKAYANAGI|妖|喪失と再生

 妖といえば、隅々まで書き込まれたモノクロームの細密な作品がすぐに浮かぶ。情報量が多い画面には、スカルや奇妙な魚、食虫植物などがそこかしこに隠れている。幻想的な世界に住む少女たちは、前髪を真っ直ぐに切り揃えて美しいロリータドレスに身を包み、何かを探すような表情でこちらを見つめている。
 身体の一部が魚の骨格や植物に変化した少女たち。長い睫毛とくっきりしたアイラインに彩られた透明な瞳に映るのは、失われた何か。
 そう、妖が描くのは「喪失」ではないだろうか。

 『Gothic&Lolita Bible』や『KERA』などの雑誌で、ゴシックロリータを代表するイラストレーターとして活躍した妖の作品は、その深い陰影に彩られたモノクロームの画面がとても印象的だ。
 どこまでも細かく丁寧に描かれた一本一本の線は、原画を目にすると一層驚嘆すべき美しさであることがわかる。迷いのない線が迷いを表現する、その断絶によって心の闇がよりはっきりと彩られるのだ。
 無くしてしまった何かをずっと抱いたまま生きていく。その喪失感さえも愛おしく。

霧とリボン企画 妖個展《白と黒と菫の森(2018)》DM

 菫色の小部屋で開催された個展『白と黒と菫の森』のあと、妖はしばしの休止期間に入る。その間「K-Z TOWN DOLL」という布製のドールの制作や、「メアリの葉日記」というなんとも愛らしい連載をツイッターで行なっていた。
 そして2020年。その連載に登場したうさぎのLigneをアイコンにしたファッションブランド「Rouge Ligne」を、Princess Dollデザイナーの綾と共に立ち上げ、妖は再び我々の前に戻ってきた。

 今回「モーヴ街のクリスマス」のために、5点の作品が描き下ろされた。Rouge Ligneの特別なプリントにも使われたこの原画たちは、どれもブロカントをイメージした白い額と霧とリボンを象徴する菫色のマットで額装されている。
 松ぼっくりと共に机に置かれると、そこだけクリスマスの聖なる空間が現れたかのようだ。素敵な写真は妖直々の撮影である。

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 丸顔の天使たちがクリスマスの到来を告げるラッパを吹く。
 本から抜け出した悪戯な天使は、どこに飛んで行こうかと企んでいるようだ。

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 敬虔な面持ちで天使が支えるのは、重厚なクロス。
 天辺にはうさぎのLigneが真面目な面持ちで収まっている。

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 パーティの主役といえば豪華なご馳走だ。
 大きな肉の塊がまるで宝飾品のように鎮座した周りには、柘榴や薔薇が花を添える。

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 聖心からは華やかな星やラインストーンのピックが伸び、生命力溢れる薔薇が再生を約束する。
 取り巻く帯には燦然とRouge Ligneの文字が光り輝く。

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 最後のお楽しみはプレゼントだ。
 リボンを解き箱を開けて包み紙からこぼれ落ちるのは、花々やジュエリーと共に、祝福のロゼッタを掲げる右手。

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 失った何かは取り戻せないかもしれないが、痛みや悲しみは穏やかに時が癒してくれる。
 今宵クリスマスの夜、妖から手渡されたパーティの欠片が、きっとその喪失を埋めてくれるだろう。
 また前を向く力を与えてくれる、細くともぶれない筆致で、きっと。

妖|イラストレーター HP
「心の闇を彩るモノクロ」をテーマに独自のモノクロ世界をペン画で展開。2020年ファッションブランド「Rouge Ligne」を立ち上げる。
Twitter|@Illustrator_yoh
instagram|@yoh_monochrome



作家名|妖
作品名|秘密のパーティ・シリーズ(5種)

ペン・上質紙
作品サイズ|17.8cm×12.6cm
額込みサイズ|21cm×16cm
*スタンド額

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