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『愛と希望の街』について

ㅤ大島渚の『愛と希望の街』を観た。
ㅤ貧乏な少年は、路上でつがいの鳩を売っていた。それを弟への土産に買って行った女子高生は、大会社の令嬢である。
ㅤ少女は一匹の鳩が逃げ出したので、少年に鳩の行方を尋ねるも、彼は知らないと言う。
ㅤ隣に居た先生から少年の生い立ちを聞かされた少女は、少年に「困ったらいつでも」と何かと目をかけるようになるが、少年の態度はどこかよそよそしい。
ㅤ少女と先生は協力して少年を少女の父の会社の採用試験へ送り込むが、結果は不合格。少年が鳩の帰省本能を利用して、同じ鳩を何度も売っていたことが原因だった。詐欺である。
ㅤ少女は激怒し、また逃げ出した鳩を路上で売っていた少年から鳩を買い取ると、射撃が趣味の兄に撃たせる。
ㅤ先生は少女の兄と付き合っていたのだが、この溝は埋められないとして先生の立場へ戻ることを決意し破局。
ㅤ少年の母が「就職させたくない」と嘆いていた街工場で働く少年の姿で物語は終わる。
ㅤ面白いのは、少女とその兄は絶対に少年の鳩売りを許さない、ということ。つまり、少女が欲しかったのは自分の差し伸べた手に従順にお手をする犬であって、逃げ出す鳩や裏切る少年では無かったんだな。
ㅤ少女は確かに純粋な気持ちで少年に手を差し伸べていたけれど、結果としては寧ろ溝を深めている。
ㅤ冒頭で少女が鳩を買った際に、余りのお釣りを受け取ることを頑なに拒否する少年。
ㅤ彼にとって鳩を売ることは、れっきとした仕事であって、仕事なのだから余計な施しは無用であるどころか彼への侮辱ですらある。
ㅤ少年は鳩を売ることで金銭を得ると同時に、「鳩売り」という役割を演じ、アイデンティティを獲得していたんだな。それを奪わんとする少女に対して、少年がよそよそしく接するのは自然なことである。
ㅤと同時に、少女もまた、少年を助けることによって、ブルジョワの役割を演じているとも言えるだろう。この悲劇たるやいなや。
ㅤ善意で振るわれる暴力こそが、この世で最も悲惨な暴力であることは、誰もが知っている。
ㅤしかし、先生は少年を許す。鳩売りを怒ろうと少年の家を訪れるも、怒れなかった、仕方ないと思ったと少女の兄に告白する。
ㅤ兄は先生と階級違いの結婚を夢見るも、やはり無惨な結果に終わった。階級は交えない。
ㅤこれが62分なんだから凄い、しかしこんだけ暗くてこのタイトルは流石に無いだろう(笑)ㅤ

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