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これからの人員削減(リストラクチャリング)|第3回.希望退職のオモテとウラ、実効性を握るカギ

2020年以降、戦略・事業ポートフォリオに最適化された組織の実現、また、健全な人件費構造の実現に向け、多くの企業が希望退職、退職勧奨など人員削減を積極化しています。今後も劇的な経営環境の変化が見込まれる中、人員削減を使いこなすことの必要性が高まっています。

この潮流を踏まえ、「人員削減」や「人件費コントロール」に焦点を当てた記事を複数回にわたってお届けします。

前回のコラムで触れたように、本年は昨年を大幅に上回るペースで人員削減が上場企業によって進められ、その手法は「希望退職」となっています。

今回の記事では第3回目として、人員削減の方法の1つとして新聞紙面でも頻繁に取り上げられる「希望退職」の実務をご紹介します。
 〇 希望退職の概観
 〇 実態は退職勧奨に近い希望退職
 〇 自由意思に委ねる希望退職は機能しない

 〇 インセンティブが応募数に与える影響は限定的
 〇 コミュニケーションプランの設計と準備がカギ

希望退職の概観

多くの企業で人員削減時に用いられる希望退職とはいったいどのようなものでしょうか?

一般的な希望退職の定義は、『会社が特定の従業員層に対して、インセンティブを含めた退職条件や概要に関する「希望退職実施要領」等を社内で公示し、説明会や個別面談を経て、希望退職に手を上げる従業員を募り、双方合意による退職を導く制度』とされています。

公示から退職までのステップまでに限れば、2.5~3ヵ月という短期間で行われます。

実態は退職勧奨に近い希望退職

希望退職はその名に希望と付くだけあって『従業員の自由意思に委ねて退社を募るもの』と捉えられがちですが、実務は文言通りではありません。

制度としては従業員の希望を募りつつも、会社が退職してほしい従業員に対しては応募の勧奨(応募するように働きかける)を伴うことが大半です。希望退職という名目であっても、実態は退職勧奨にかなり近い内容であることも多々あります。

そもそも、希望退職は”応募”がなければ成り立ちません

応募されあれば、あとは応募対応の中で会社としては個々の社員を柔軟に峻別できます

会社が退社してほしい従業員については勧奨を通じて退社に誘い、退社させたくない従業員は会社に残ってもらうべく異なる対応を運用の中で行います。これで想定する削減人数や削減内容の実現を目指すことになります。

図.説明会・面談における「勧奨」、応募対応における「応諾・拒否の使い分け」

なお、応募に誘う勧奨強度は会社の状況、目的、狙いに応じて様々であり、希望退職の都度、勧奨強度を設計・運用することが必要です。
他社の単純な模倣が馴染むことはほぼありません。
ブライツパートナーズがご支援する際も、その会社の状況、社員の流動性、社員の労働市場における評価などを複合的に評価し、勧奨強度を設計しております。

自由意思に委ねる希望退職は機能しない

近年に希望退職を行った上場企業において、上記のような応募の勧奨を行わない事例(従業員の自由意思に委ねた事例)もわずかながら存在します。
ただし、この方法は求める削減人数や削減内容を果たせずに応募期間を終える可能性が高くなるため、お勧めしません。
とりわけ、生え抜き社員が中心で転職経験者が少ない企業、または従業員が労働市場で高く評価されていない企業、こういった企業は従業員が能動的に応募することが起こりにくく、結果として上記の傾向が顕著です。流動性が低い地方の製造業はこの典型例です。
こういった企業の場合、応募の勧奨を対象者にしっかり行うことが特に重要となります。
インセンティブが応募数に与える影響は限定的
希望退職の論点の1つは退職割増金などインセンティブの設計です。
そこで、希望退職の実効性を高めるため、退職割増金を上げてインセンティブを魅力的にすれば勧奨を行わずとも、希望退職の応募が増えるのではないか、と考えがちです。
しかし、実務としては退職割増金などインセンティブが多少変わったところで応募数はさほど変わりません
例えば、退職割増金を50%増やせば応募数も50%増える、ということにはなりません。
むしろ、退職割増金が増すことで結果的に1人あたりの希望退職に要するコストも上がることになります。
経営環境が悪いにもかかわらず、希望退職の実効性を高めることを期待し、退職割増金などインセンティブを厚くするケースがあります。
往々にして、結果として実効性が上がらない一方、コストが重くなり、さらに経営を圧迫してしまう事態も観られます。
インセンティブ自体が応募数に与える影響は大きくない点は留意が必要です。

コミュニケーションプランの設計と準備がカギ

上記の通り、希望退職で想定する人数や内容を実現するうえでは、説明会・面談における勧奨強度が重要です。
小規模の企業でなければ、希望退職を設計するご担当者自身が説明会や面談に出向き、勧奨強度を反映した運用を行うことは稀です。
基本的には対象者の上長に説明会や面談を委ねることとなりますが、その場合、勧奨強度が徹底されなかったり、設計時の趣旨からずれた運用に陥ることも起こります。
そのため、希望退職の実効性を担保するためには実行前のプロセス、特にコミュニケーションプランの設計、また、準備の段階がカギになります。
この段階で入念に検討を行うことが望まれます。

今回、第3回目の記事として、人員削減の方法である「希望退職の表と裏、実効性を握るカギ」として実務の視点をご紹介させていただきました。

今後も、人員削減に関して経営陣・担当者の方々の実務にお役にたてる情報を複数回にわたってお伝えいたします。

ご関心、ご要望、またコメント等がございます場合、お問い合わせページからご連絡ください。


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