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" 選択 " 問題は選択だ

フミオはドアの前に立ち、
鍵を差し込んだ。

ドアが光り輝く。

その部屋は、壁一面に天井まで
敷き詰められたディスプレイの数々が
際限なく映像を映し出していた。

少し離れたところに
白いスーツを着た老人が一人、
肘掛け椅子に深々と腰かけてる。

「やあ、フミオ」

「あんたは、誰だ?」

「この世界を創った設計者、
アーキテクトだ。君を待っていた」

フミオは無数のディスプレイを
一瞥し、尋ねる。

「この画面に映った人々は何だ?」

「この国に生きる民たちだ。
彼らは所得によって階層化され、
不公平な世界を受け入れながら、
自分なりに生きようとしている。
ディスプレイは彼らの人生を
映し出している」

「一体、この人たちが、
俺と何の関係がある?」

「君には超人的な力が与えられた。
アノマリーによって。それは、
この世界に不安定をもたらすものだ。
私はそれを修正すべく、君をここへと
導いた」

「どういうことだ?
俺に何をしろと?」

「君には、二つの選択肢がある。
一つは、減税することで、
この世界に存在する全ての民を救う。
君は救世主となり、後世にその名を
刻むことになるだろう」

「もう一つの選択は?」

「もう一つは、増税だ。それにより
民たちは死滅し、君だけが生き残る。
無論、将来世代は存在しない」

「救世主になるのと引き換えに
俺は死ぬのか?」

「いや、死なない。
これまで以上に素晴らしい人生を
送ることになるだろう」

「俺がここで宣言すればいいのか?」

老人は指先で視線を促す。

「左のドアは、増税、すなわち、
全ての民たちが死に絶えた世界へと、
右のドアは、減税、救世主と栄光を
手に入れる道へ通ずる」

「増税と・・・減税・・・」

「容易い選択だ。
さあ、どちらかを選びたまえ」

フミオは左右のドアにゆっくりと
目をやり、その場に立ち尽くす。

左か・・・ 右か・・・

フミオは意を決し、踏み出した。

「待ちたまえ、なぜだ?」

ドアノブに手をかけながら、
フミオは振り返る。

「・・・よく分からんが、
何か減税とかじゃない気がする」

そう言い残し、
苦笑いを浮かべ、首を傾げながら、
左のドアを開けると出ていった。

老人はそれを眺めながら、呟く。

「あの男は、馬鹿なのか?」

ディスプレイが閉じられていく。

「私は、とんでもない
バグを作ってしまったようだ・・・」

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