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小学5年の時、ブラウニーを作りたいと母に言ったらインスタントコーヒーと天ぷら粉を使えと言われた話。

毎年バレンタインの時期になると思い出す話です。
せっかくなので、料理ネタのひとつとして書き残しておこうと思います。

作るきっかけは某少女雑誌から。

昭和から平成になって少し経った年の1月。

当時小学5年生だった私はとある少女雑誌(現在は廃刊)を愛読していたのだが、その時に買った2月号の読み切りマンガに目が釘付けになった。

話の内容は『主人公の女の子が手作りのブラウニーを作って好きな男の子にバレンタインの日に渡して告白する』という典型的なラブストーリーだが、私が釘付けになったのは話ではなく「ブラウニーのレシピ」の方(補足だが、当時の私にチョコを渡したいような男の子はいない)。

少女雑誌に掲載する内容を考慮したのだろう。材料も比較的少なく、あまり料理をしたことのない子でも簡単に作れそうなものだったのも大きかった。

「これだったら私もできそう」

そう思った私は、材料が書かれたページに目を走らせる。
たまご、薄力粉、ココア、牛乳、無塩バター、砂糖、板チョコ、くるみ。たまごと砂糖はそこそこ使うのと、牛乳は父が毎朝飲んでいるのでストックがあるのは知ってたが、それ以外は記憶にない。ひとまず食材ストックの棚を調べてはみたが見つからなかった。

「足りない材料どうしよう」

ここで母親に相談…といいたいところだが、我が家ではここのハードルが異常に高くて厄介なのだ。

節約命の母との交渉。

我が母親は筋金入りの超絶節約主義者。とにかく何が何でも1円でも安いものを買い、無駄なものは徹底的に買わないことに使命感を燃やす人物。財布の紐は家族全員呆れるほど堅かったので、その点から見ると我が実家の家計を守ってくれたのは非常にありがたい存在ではあった。

ただ、あまりに縛っている紐が堅すぎて融通が効かず、他の家族が少しでもお金を使えば親の仇をとったかのように30分〜1時間(下手すれば数日間)怒りの感情をオブラートもないままガンガン愚痴を投げつけてくるのは苦痛でしかない。なので、お金が絡む話は『学校からの伝達』など逃げ道やどうしようもない理由がないもの以外は言わないようにしていた。

一応、他の家族や人に頼むことも考えた。
しかし、父は仕事事情により近隣の店には行きたがらなかったのと、何より料理の才能がほぼない(当然食材の知識もない)ので無理と判断。
祖母はいわゆる「ハイカラ」なものの知識がまったくないので論外(ばあちゃんすまぬ)。
実際に自分でトリュフを作って家族にプレゼントしたという従姉に相談も考えたが、こちらと家事情が違うことと後々両家で面倒なことになりそうな予感がしたのでこれも却下。

だったら自分のなけなしのこづかいで買いに行こうかと思いはしたものの、田舎住まいゆえスーパーに行くには隣接の市内にいかねばならず(ちなみに一番近いところでも自転車で30〜40分程度かかる)また、当時通ってた小学校では『大人なしで町外に出てはいけない』という決まりがあった。大丈夫だろうと思って行くと大抵密告されて先生からの叱責が待っていることを考えるとやりたくはなかった。

あれこれ悩んだが、やっぱり母親に相談するのが一番だろうと判断。また何か言われるやろなと覚悟の上、身構えながら相談してみた。

すると、予想通り感情の赴くまま愚痴の投げつけが始まった。

コーヒーとココアは別物なんですが。

「あんたぁ、そんな金も時間もかかるものを何で作るん?!ココアなんかそんないつも使うわけないやろ。前にもらったやつ(森永ミルクココアのこと)やって全部飲まんかったやろがね。薄力粉やって結局ちょっと使っただけで使わんなるのにもったいない。バターも買うたら高いのに。冷蔵庫にあるマーガリン(ちなみに有塩)じゃダメなん?!。お菓子買った方が手間もかからんし簡単で美味しいのになんでわざわざ手間暇かけて美味しくないもん作るん?普段使わん泡立て器とか洗い物増えるし。そしたら水代もかかるし手間やしお金がもったいないー。そんな余計なことに使われん(使うな)。それに、どうせ粉とか使うんやったらそこらやねこい(「面倒な」の方言)ことになるんやし…」

これを立て板に水のごとく言いたいことをズバズバ止まるまでずっと言ってくるのだから溜まったものじゃない。しばらくは我慢していたが、流石にキレてしまい、小学生なりの頭で応戦。すると、

「そこに(ネス◯フェのインスタント)コーヒーと日◯の天ぷら粉はよけ(いっぱい)買うとんやけん、それ使やええやん」

補足すると、我が家では家にある食材は自由に使って短時間の調理をするのはOK(洗い物、片付けは必ずする前提)というお許しだけは出ていた。だから、いつも常備しているインスタントコーヒーと天ぷら粉が出てきたわけだが、とはいえ、コーヒーとココアは別物だし、天ぷら粉だと天ぷら用に合わせてるから小麦粉以外にも何かが混ざっているわけだし、そもそもレンジでオーブンと同じようにできるんか?!マーガリンはわかるとしても塩入ってるし!!

いきなりの提案にびっくりしながらも再度応戦するが、所詮は小学生。
どうにも刃が立たず、結局しぶしぶ引き下がった。

結局どうしたか。

(なんとかできんかな)

悔しい気持ちを抱えながらも、やっぱり作ることを諦めたくなかった私。ひとまず家にある材料で、母が仕事に行く日で帰って来る時間までに調理と片付けまで含めて完了するようにスケジュールを練ることに。

色々考えた結果、土曜日の午後に作ることに(当時は土曜日は半日登校。そして母は終日勤務だったため)

そして、汚れ対策としてテーブルと床全面に自宅に大量にあって使い放題だった古新聞を敷き、使う調理器具は最低限にする。

調理時間はレシピと脳内予想では1時間半〜2時間程度。試食時間を考えても帰ってくるまでに十分片付けまでできる。材料は天ぷら粉、コーヒー、砂糖、マーガリン(有塩)。鉄板に敷くクッキングシートはないのでラップで代用。

そう考え、後は黙って予定していた土曜日。学校から帰ってきてさっとご飯を食べてから計画を実行に移した。

計画を練っていざ実行。

もちろん当時の小学生の私が脳内シミュレーションで立てた計画なのと、初めて作るものなので予定通りにはいかない部分はあった。そんな中でも新たに発見したのはオーブン機能はないと思っていた電子レンジが、よくよく見るとオーブン機能があるいわゆる「オーブンレンジ」だったことが判明したこと。これは嬉しい誤算だった。

母はメカには弱く、自分が理解できる機能しか使わない(何かわからないことがあっても自分から調べたりすることがない)。オーブン自体を「ないもの」と思っていたのだろう。

母の性格に呆れつつも、いざ説明書はどこにあるかというと、母が管理してるのでそれはわからない。探す時間も惜しかったので仕方なく自分で手探りで操作。すると意外にもどうにか操作方法がわかった。偶然にもオーブンで使う器具類は食料棚の奥の方にあるのを発見したので、予定を変更してレンジ使用からレシピ通りオーブンで焼くことに(なお、同時に鉄板に敷くシートはラップからアルミホイルに変更)。

そして予熱をしてからオーブン機能で焼くこと20分。コーヒー主体のブラウニー「もどき」が完成。一応レシピ通りに作ったけど端が焦げてしまってる。ちなみにココアの分量通りで調理してるので、コーヒーの香りの方ががっちり充満してしまってる。

そりゃコーヒーなんやからそういう匂いするよね…と思いつつ、いざ試食。

お味は当然…。

見た目もヤバいけど、味はコーヒーなので苦さががっつり出て、現代風に言うと「控えめに言って美味くない」。とてもじゃないけど人にプレゼントできるようなものではなかった。甘いものが嫌いな祖母は別として、父にもとてもじゃないけど渡せない。肩をがっくり落とした。

とはいえ、落としたままでもいけない。気を取り直して、焼いたものは切り分けてビニール袋に入れて自分のお菓子箱の中へ(まずくても全部自分で食べるつもりだった)。オーブンをいじったことで調理時間は少しオーバーしたが、予想よりも早くに片付けを終わらせ、オーブンレンジの設定を元に戻すことができたので、そこだけには満足した。

その後帰宅した母からは何も言われなかったので、うまく行ったなと安心した(天ぷら粉とコーヒーの量が少ないので気づいたかもしれないが)。

ちなみに後日談として、春休みに板チョコを少量買ってもらえたのでもう一度いない時を狙って作ってみた。とりあえず表面にチョコが塗ってる分、少々は甘かったけどやっぱり苦かった(で、全部自分で食べた)。

あと、代用品として言われた天ぷら粉についてだが、とあるきっかけでベースは薄力粉だと知り、「だから代用品として使っても大丈夫だったのか」とそこは納得した。

現代で改めてレシピを探ってみると。

そんな苦い記憶のあるブラウニーだが、数年前にふと「あの時は材料揃えられんかったけど今なら自分でできるやん」と思い直し、改めてレシピを検索。すると、多種多様な作り方が多数出てきてびっくり。
材料の配分も違えば、板チョコで作る方法、米粉やおからを使ったレシピもあったりとバリエーションの豊富さに心底驚いた。

その中でも一番驚いたのはレンジで作る方法が出てきたこと。自宅にレンジしかない人、オーブンを準備するのが煩わしい人のために、レンジで美味しく作るレシピを考えられたんだろう。ブラウニー好きな方々の貪欲さ、恐るべし。

私も色々と試させてもらったが、その中でも一番感動したのがコレ。

実際の調理時間は15分(冷やす時間を除く)。なのに信じられないくらい美味しかった。もしもタイムマシンがあるなら、これなら土曜日じゃなくても学校から帰って来てもすぐ作れるよ、と当時の私にこのレシピ教えてあげたいくらい(いや、オレオとくるみないやん!と突っ込まれそうだが)。

事情理解と工夫は必要とはいえ。

さて、一応母の弁護しておくが、生い立ちと経験、そして昭和末期〜平成初期の当時の母自身の稼ぎを考えると、節約志向になってしまうのは理解できる(後年、当時母親が勤めていた頃の給料明細を見せてもらったが、現在の労働基準法から見ると信じられないほど低い金額で驚いたことがある)。その他、祖母(姑)との折り合いや日頃の疲れなど、私にかまう余裕がなかったのだろう。そのあたりも理解はできる。

おそらく天ぷら粉に関しては、天ぷらの衣が余ったときにサータアンダギーもどきを作っていたので、それでいけるだろうとしか考えてなかったんだと思う。

…と母の事情を考えはするものの、だからといって、その『お金が減る不安』と『日頃の溜まった不満』をごちゃまぜにして、娘(私)に一気に投げつけてきたのだけは未だに納得してない

この件だけではないが、こちらが相談すると事情を聞かずに否定と決めつけから始まるので、母に対して一切相談することをやめたが、本人は未だに娘(私)が相談してこないか理解していない。おそらく「そうやって(心配)することが当たり前」と思い込んでいるからではと予想している。

私としては、それは「娘(私)ではなく自分(母親)に降りかかることを心配してるだけじゃないのか」と言いたいが、おそらく頭の中で区別がついていないのだろう。

私なりに何とかしようと考え、試みた際に何時間も無限ループになってしまったことがある。私も未熟だ、と言われればそれまでだが、本気で解決したかったらそれこそ年単位の時間と忍耐が必要だと気づいたので、それをするくらいなら自分が色々経験して幸せに生きる道を模索して見せた方がいいと考えて、母に対して何かをしようとは現時点では考えていない。
ただ、孫(娘)の存在ができたことによりどう反応が変わるか。そこはちょっと気になるところ。

娘に対してはどうする?

さて。現在、2歳の娘も大きくなったら自分でチョコ作りたい、と言い出すだろう。夫向けなのか、友チョコなのか。それとも好きな男の子か…???

まあ、それは後々の楽しみ(?)として、私としてはひとまず話を聞いてあげて、その上でできる限り協力はしてあげることだろう。本格的な作りの方がいいのか、それとも簡単で短縮バージョンでもいいのか。どういう希望を持ってくるのかはわからないが、少なくとも「インスタントコーヒーと天ぷら粉を使って作れ」とは言わないようにしようと思っている。

そういえば、その頃になればブラウニーももっと進化してるかも…?
それはもっと楽しみである。

※タイトルバックの写真は2021年に作ったおからブラウニー。今年作った分は時間の都合で撮影できなかったのでこの写真を使いました。

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