理由のない涙があってもいい
恋人は飲み会に行っていた。
夜遅くに誤字まみれのLINEが来る時、大抵彼は泥酔している。「あぁ、また酔い過ぎたのね」と思う。飲み会の帰りは、いつも「電車が来るのが遅い」という理由で歩いて帰って来る。それは彼の口実な事も、何となく察していた。
「だって、電車じゃ電話できない、声聞きたかった」
そっか、と強がってみたけど、下唇を噛み締め口角がふっと上がってしまったことは彼には秘密にしておこう。
「今日も一緒に寝たい」
そう言われて、私は強がり「でも酒臭いもんね〜」と素直にいいよと言わなかった。
すると彼は「そっか、酒臭い俺となんて寝たくないよね、一緒に寝たいと思ってるの俺だけなんだ」「うわぁ、俺面倒臭い…」
すると「なんか涙出てきたんだけど、なんで??」という声。電話越しに聞こえる鼻をすする音と、泣き声。すぐに泣き止むだろうと思ったが、一向に泣き止む気配がない。
あぁ、珍しいなと思った。すぐにでも抱きしめたい思った。迎えに行こうと決めた。
人の目を気にする彼が、私を見つけると人目を憚らず、「あ、いた!」と大きな声を出して駆け寄ってきて抱きしめられた。
スっと繋がれる手。2人はお家に向かって歩き出した。
その道中で彼の涙が最高潮になった。ちゃんと泣いていた。雨ではなく、しっかりと涙と分かるくらいに。場所も気にせず抱きしめながら声を出して涙を流し続ける彼を見て、私は最後まで傍にいてあげようと思った。
「ここだと濡れちゃうから、おうちで泣こう?」
家に着いてすぐに床に突っ伏して泣き続ける彼。スっと頭に手を伸ばして彼の頭を撫で続けた。
「なんで俺泣いてるのか分からない」
「理由のない涙だってあっていいんだよ」
ずっとずっと、彼は1人で頑張っていた。みんなに沢山気遣いと優しさを配って、平気な顔をしてニコニコしていた。
そんな彼が、無防備に涙を零し、その涙を私の手で拭いていた。そんな子供みたいな側面に、私はまたキュンとした。
「こんなに泣くのは5年ぶりだよ、人前で泣くのは初めてだよ」「○○(私)といると安心して、顔を見ると涙が溢れちゃう」
「優しくて面倒見がいい、こんな素敵な女の子が俺のこと好きでいてくれるなんて、幸せ者だな、○○(彼の名前)!」「自慢の彼女だよ」「かわいいね、ほんとにかわいい」
「○○(私)と付き合えてよかったよ」
大量の愛の言葉に、私は辟易してしまった。心がじわじわと温まる感覚を覚えた。
ブスだ、デブだ、誰がお前のこと好きになるんだ、そんな過去の言葉達に傷つけられた痛みはまだ私には存在していた。そんな痛みをやさしくまあるく包み込んでくれるような彼の優しい言葉に
私は心の底から彼を好きでいてよかったと、思ったのだった。
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