茶丸に逃げられた

小学4年のとき
我が家に茶丸がやってきた
茶丸は犬
父がもらってきた

茶丸は
段ボールの中に入っていた
父の職場の敷地内に置かれていた

茶色くて丸顔
故に茶丸と名付けた
名付けたというほど
仰々しい名前ではないが

我が家にやってきたときには
名前はない訳で
仮に誰かが名前を付けていたとしても
名付けた人と私が知人関係でもない限り
その犬の名前を知る由もない

ましてや
前飼い主は
誰にも気付かれることなく
その犬を手放したかったため
とある場所に段ボールに入れて
置き去りにした訳で

そういう状況を俯瞰して見るにつけ
やはり以前の名前を知る由もない

君の名前は茶丸でいいのかい
と聞けたらいいのだけれど

いやそもそも
名前に固執したり
それに意味を持たせようとしているのは
私なのであり

茶丸はそんなこと
気にはしていないだろう
茶丸は何を一番に
気にしているのだろう

今度の飼い主はいいヤツでありますように
これに尽きるか

いや
自由でありたい
これに尽きるか

茶丸が我が家で暮らすことになった
と聞くと大抵は
茶丸よかったね
という幸せストーリーが続くものと
想起されるところだろう

しかし
幸せストーリーは続かないのである
なぜなら我が家には
犬心が分かる
犬と暮らす知見を持つ
そんな人間がいなかったのだ

茶丸は逃げた
我が家にやってきて
4日目で逃げた
私は捨て犬に逃げられたのだ

捨て犬という表現
何とも傲慢さが滲み出ている表現

私は捨て犬に逃げられた
というこの話を
笑い話のネタとして
これまで時折使ってきた

犬の飼い方が分からなくて
室内で首輪から鎖を外さなかったこと

お風呂の際は
人間と同じボディーソープを使い
獣臭さとフローラルの香りが混ざり
より悪い匂いを放ってしまったこと

家にきたときから暴れて落ち着かず
怖くてあまり近付くことができなかった

散歩の仕方が分からず
意を決して散歩に連れ出そうと
ドアを開けたとたん

茶丸は鎖を引きずったまま
どこかへ走り去ってしまった

茶丸を探し続けらること1か月
近所の公園へ遊びに行くと
ゴルフの素振り練習をしている男性がいた

いつも見かけるその男性

いつも見かけるその男性のそばに
どこか見覚えのある犬がいた

茶丸

男性のゴルフの素振りに
楽しそうに付き合っている茶丸

私は暴れて落ち着きのない
茶丸しか知らなかった

一緒に暮らす人間によって
こんなにも変わるものなのか

幸せそうな茶丸を見ることができ
本当に良かったと
心の底から安堵した

逃げられたのではない
自ら逃げのだ
自由と安住の地を求めて

#創作大賞2024 #エッセイ部門 #犬

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