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「一〇三歳になってわかったこと 人生は一人でも面白い」篠田 桃紅(読書感想部)

まえがき

図書館で薄い文庫本を見つけて手に取りました。篠田桃紅さんはよくNHKの特集で取り上げられており知っていましたので、本を読んでみたいなと思っていました。
読んでみて、篠田さんの作品を見たくなったのですが、岐阜県にある美術館に所蔵されているようです。作品も下のリンクから見ることができます。機会があれば訪れてみたいです。

正月の帰省のお供にして、実家で親とともに読みましたが、母親は「いつも私が思っていることばかり書いてある。」と言っていました。私の感想を後述していきます。

著者について

著者、篠田桃紅さんは墨を用いた抽象的な表現作品を多く遺した美術家です。2021年に東京都内で亡くなりました、御年107歳でした。
篠田さんは若いころは書の先生だったのですが、書に専念するうちに、文字はこう書かねばならない、という制約を窮屈に感じていった結果、墨による抽象表現にたどり着いたようです。作品はニューヨークで高い評価を得て、今では世界各国で評価されています。
当時は戦前、戦時中でしたので、女性はお見合いを経て嫁ぎ先で家庭仕事を務めるのが一般的な中で、生涯結婚をせず美術に没頭し自分の道を貫いていったのは、現代の女性の生きる道を体現した第一人者と言えると思います。

感想

50ページくらい読んでみてまず思ったのは、(全170ページくらいです。)
この方は人生を”私”として生きてきた人で、時代や他人になびかず、”1人で”生きている人だ。そしてこちらの本には、篠田さんが「こう生きてきた、こう思う」という事実を淡々と描かれているんだなと感じました。
で、申し訳ありませんが、ちょっと説教臭いなと感じてしまいました。

最後になってわかりました。
148ページ 「どうして傲慢になれましょうか」の章で書いてあったのは、
篠田さんが若いころに兄弟を何人も亡くし、人間は運命には抗えないと悟ったことでした。
あぁ、この人は大きな悲しみを経験して、自然の摂理の中で生きていくことを知ったんだなとわかりました。それがこの本で一貫して表れている、”他の誰でもない自分の生き方”で、自然は自然、自分は自分として共存すること、だと思います。それは周りの環境に流されることでも、自分勝手に生きる事でもありません。
そのことが伝わってきて、ようやくこの本を理解できたと思いました。

他にも、私が好きだと思ったのは、次の部分です。

  • 真実は伝えられない
    真実は言葉にしえなくて、感じる心の中にあるもの。究極としては伝えられないものである。

  • 人生を楽しむためには、人間的な力量が要る
    死ぬときに思い残すことを減らすには、やりたいと思ったことを出来る限りやっておくこと。単純に見えるけど、それには人間的な力量が要る。

  • 未来永劫、人類が存続する限り尊いもの、それは母
    その通りです。私は30手前にしてやっとこのことが心からわかるようになりました。

これら3つの内容をとっても、篠田さんが、自分と周りの境界線を理解しているからこその感謝や考えに至っていることがわかります。

さいごに

読み終えてから篠田さんの102歳の頃のお写真を拝見しました。見るまでは、想像で、ちょっと気難しく視線の鋭いおばあさんをイメージしていましたが、違いました。楽しそうに笑う、ちょっとか弱く頼りないようなごく普通のおばあちゃんでした。https://www.nhk.or.jp/etv21c/archive/150530.html

文面からは強そうな女性を感じていたけど、お写真を見て、普通の人なんだなぁと感じて妙に親近感が沸いてしまいました、笑。
総じて(評価するのはおこがましいですが、)良い本であったと思います。
読んでいると梅の香りがしてくるような、そんなこちらの本でした。



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