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《連載ファンタジーノベル》ブロークン・コンソート:魂の歌声

前回

3.新たなる出会い-(3)

「なぜ親父が、ベネズエラのデモ現場にいるんだ。君は、自分はアメリカに殺されたって言ったじゃないか。親父が君を助ける訳がないだろ!」
 ジミーは声を張り上げた。
「アメリカに殺されたのは事実さ。でも、そのアメリカに生き返らせてもらったのも、事実だ」
 ジミーの顔が凍りついた。
「意味がわかならい」
「君のお父さんは、僕たち反政府活動の協力者だからだよ」
 マイケルの返答がジミーの表情を一層硬くした。
「ベネズエラの反政府活動の協力者だって? 俺の親父が?」
「いや違うよ。反非有人事業促進派の協力者ってことさ」
「人一倍、失敗や損失を嫌う親父が、政府が推し進める事業に反する行為に加担するわけがない」
 そう言ってジミーは眉を吊り上げた。
「まあ、落ち着いて僕の話を聞いてくれよ。美味いコーヒーを入れなおすからさ」
 気がつけば草原の中は、すっかり陽が落ちていた。
 
 マイケルの説明に困惑しながらも、ジミーは少しづつ家族に起こった事柄が理解できた。
【AI至上主義党】が政権を握った十余年前、各州の大学や企業などに様々な圧力がかかった。とくに様々な人種・思想を有するカルフォルニア州に対する思想監視強化が始まった。それは純粋に、AI技術の発展を願う科学者をも困難な状況へと追いやる事態になっていく。とくに医療業界では、医師不足の過疎地や貧困層へ向けた医療AIの導入を拒む形になっていた。
【AI至上主義党】の根本理念が、非有人事業促進つまりは人件費の削減であり、国益を上げるための施策だったからだ。
 ともに外科医としてその名を轟かしているジミーの両親は、医療AIのデメリットを払拭できないでいた。そのためAIロボットだけでの手術には批判的で、連邦議会の承認を受けずに自ら執刀していた。そして、事件は起きてしまったのだ。
 それは、ジミーが音大に入学して数ヶ月後に起きていた。大統領予備選のさなか、遊説先に向かっていた【AI至上主義党】候補者ユージン・コックスが交通事故による脳挫傷でジミーの母ジャネットが勤務するメディカルセンターに緊急搬送された。当時、すでにAI外科医ロボットマッケンローが配属されており、生身の人間外科医は補足要員として常駐していた。
 搬送された候補者ユージン・コックスの執刀は、当然のごとくAI外科医マッケンローが行った。開頭手術を開始して数時間後、プログラムのバグが生じてしまった。手術室から連絡を受けたジャネットがマッケンローのあとを引き継いだが、時すでに遅しの状態だった。次期大統領候補のユージン・コックスは遊説先のカルフォルニア州で亡くなった。
 手術を引き継いだジャネットはAI外科医ロボットのプログラムバグが原因だと主張したが、受け入れてもらえず医療過誤で医師免許を剥奪された。

「ニュースではユージン・コックスは即死だったと報じていた」
「ユージン・コックス陣営は事実を隠蔽したのさ。【AI至上主義党】の大統領候補者がそのAI外科医のプログラムバグによって命を落としたなんて有権者に知れたら、まずいだろ」
「それに、母が医師剥奪されたことも、知らなかった」
「悪いね。僕たち活動家だけが知っている事実なんだ」
 ジミーは明らかな嫌悪の表情を浮かべた。
「僕も君と同様、ジェームス・オステルマン教授を尊敬していたから、知れたんだよ」
「俺は、父さんを尊敬していたんだろうか」
 そうジミーはささやくと、マイケルの瞳を捉えた。
 
 


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