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ベッドを入れたー遠距離介護記録6



 ベッドは普通、介護保険でレンタルするのだと思う。しかし、私と妹は相談して、介護保険認定前に両親のベッドを購入して、寝室を1階に移すことにした。理由はいくつかあった。

 両親は2階の寝室で布団を並べて寝ていた。母が入り口側だ。
夜間、父がトイレで布団から立ち上がるのが不安定で、転倒のリスクが高い。すでに時々転倒している。そのつど母が起きなければならず、疲れてしまうこと。

 さらに布団の管理を減らし、疲れやすくなっている母の家事負担を減らすため。
 まとめると、母の負担軽減だ。

 この先、ポータブルトイレを使うにしてもベッドが必要だ。認知症の進行を考えると、早いうちに習慣を変えておきたい。少しでも早く新しい寝床に慣れてもらう必要がある。

 そして、父だけがベッドで母が布団という変更に父の抵抗が予想され、また、危険だ。ふたりでおそろいのベッドにすれば導入しやすいと考えていた。ふたりが一緒に寝ることは変更不能で、今のところその必要もない。
 隣のベッドを見て父が自分もベッドだと気づきやすい、これは後付け。

 1階の床の間を片づけないとベッドが入らない。モノの片付け先がない。母にそんなところではと言われながら、とりあえず隣室に押し込む。私達がその隣室で寝るから、布団が敷けるスペースは確保して。

 母にネット通販サイトを見せて、ベッド探しをしたが、目も悪いし、写真ではイメージがわきにくいようだ。

 私の説明に母は納得しているものの、1階に寝室を移しベッドを入れることに細かい難癖をつけてくる。

 ベッドなんか置けないでしょう、跡が付く、箪笥の引き出しが開けられなくなる、隣の音が聞こえて眠れない、テレビが観られない。

 ベッド足の下に何か敷けば跡はつかない。箪笥は寸法図って開き戸は開くし、下引き出しはすでに痛んで引きにくくなっているのだから、あまり使わなければいい。テレビも観たければ観れるようにできると、言うと「そこまでして観たくない」。じゃあなに?と、心の中だけで思う。

 生活習慣を変えることへの抵抗だろうか。私も強引だったけれど、自分達の生活を娘にコントロールされるのは嫌だろうと思うから、辛抱して進めた。

 結局、ちょうどセールしていた電動リクライニングのお手頃なベッドを見つけた。現時点でリクライニング機能はいらなかったが、ついていないものと価格があまり変わらない。店頭の方がお得だったので、妹と車で買いに出かけた。箪笥の転倒防止突っ張り棒や、ベッドのキャスターを置く丸い台を買った。気休めだけど、母の納得が得やすい。発送日指定など、すべてセルフレジで行うのには苦労した。

 数日後ベッド到着、組み立ても頼んであった(これが無料期間!)
 黒しかないと言ってあったのに、母はやっぱり、マットレスの色が黒は嫌だとか言うのだ。結局白っぽいカバーをかけた。その上に、もともと布団の時に敷いていた腰痛予防パッドを敷くと、寝心地は布団とあまり変わらない(ためしてみた)。


 ここから半年以上、父が「寝る」と2階へ上がろうとするのを、「今は下のベッドだ」と、言ってふすまを開けてベッドを見せた。「どっちがお父さんだ」もしばらく続いた。

 本当にベッドにしてよかったのか、運動の機会を奪ったのか、と考えることもあるが、もう考えても仕方ない。長く使えばレンタルより安い。慣れてしまった今、母は楽になったと思う。


 良かったのは、ふすまを半分開けた隣の和室で、娘の私たちが寝るようになったことだ。

 2階では、部屋違いでどうしても父がトイレに入る直前にしか気づけなかったが、今は父母の寝息が聞こえる場所で眠れる。異変に気付ける、かもしれない。お互い見えないように半分閉めて、エアコンの風は通るように半分開けて。

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