オレンジの絆(5)
「部活どうする?やっぱり祐希ちゃんはバスケ?」
帰り道、楓ちゃんが唐突に聞いてきた。
「あ、うん。一応バスケの予定だけど、仮入部は色々回ってみようと思って。」
「え?そうなの?それだったら私も一緒に回っていい?」
「うん、一緒に回ろう!」
と私たちは明日から仮入部で色々な部活を回ることにした。
中学校は、野球部が毎年県大会に出ていたり、ボクシン部があったりなかなか部活動は盛んだ。森下くんは、外部のサッカー部に属するので、活動が少ない美術部に名前だけ入部していた。
バスケをすることが嫌ではない。ただ、ミニバスの引退試合で、集中できずに捻挫をし試合にも負けるというトラウマがあって、あれからバスケを本気でやりたいと思えなくなっていた。
晩御飯を食べて、机に向かってため息をついていると
ピロロン
携帯の着信がなった
え?相良くん?
ピロロん、ピロロんと着信は鳴り続けている。
私は慌てて通話ボタンを押した。
「おー、やっと出た。久しぶり!」
といつもと変わらない相良くんの声。
「ひっ…久しぶり。」
となぜかドキドキする私。
「お前のことだからどうせ部活悩んでるんじゃないかと思ってさ。」
と、図星なことを言われ、びっくりして携帯を落としかけた。
「あわわわ。」
と手から離れた携帯をおろろとキャッチして受話器に耳を当てた。
「ぉーぃ。どうした?大丈夫か?」
とおろろと携帯を遊ばせている間にも、彼がたくさん話していたらしい。
「あ、ごめん。携帯落としかけてた。」
「はぁ?俺の予想が当たったって感じだな。」
「当たってないわよ!ってか、相良くん部活どう?」
「あぁ!晩御飯食べてから就寝の時間だけ携帯触れるんだけどさ、もうハードだよ。でも、先輩も同期もレベルが高いから楽しい。この間の練習試合で3Pきめたんだぜ!」
「すごいね!(私よりいつも1歩。ううん、2歩…どんどん遠ざかってる)」
複雑な気持ちで返答すると
「ありがとな!森下と連絡とったんだけどお前ら同じクラスらしいな!楽しめよー!」
「うん、そうなんだ!楓ちゃんも同じクラスで毎日ワイワイしてる。」
「そうか!それはよかった!ってか、お前バスケ部入れよ!」
「なんで、そんなゴリ押し?」
「…いやっ。…なんとなくだよ。今まで一緒にやってきただろ?お前とはライバルだから。俺だけになると寂しいじゃんか。」
「…明日仮入部に行くからそのときに決める予定。」
「や、決める予定じゃなくて、入部しろ!」
「なんであんたに決められないといけないの?私のオカンか!もう電話切る!」
と言って向こうの返事待たずに切った。
(もぅ!何あいつ!うっざ!)
電話してきてくれて嬉しかったのに、こっちの気持ちも知らないで、入部しろってうるさい!もう寝よ!
と布団に入った。
ーー次の日、仮入部
美希ちゃんは、バスケ部と決めていたので、バッシュを履いて先輩たちとお話をしている。
「あー!祐希きたー!」
と美希ちゃんが言うと先輩に紹介してくれた。ミニバスの時の先輩はみんなもうひとつの学校に行ってしまってこっちの学校は知らない人ばっかりだった。
「先輩〜、この子、ミニバスでキャプテンしてたんです。」
「えー!?じゃあ入部確定ね!よろしく!」
と先々に話を進められて何もいえない。
練習が始まった。
楓ちゃんは、なかなか筋がいい。相良くんを見てたからかな?シュートも2本に1本は入っている。
「祐希ちゃーん、見て!意外と私上手いかもしれない。」
「本当!楓ちゃん、上手だよ!」
「私バスケ部入る!」
「えぇ?!まだひとつ目だよ?」
「いいの!!決めた!」
と言い、楓ちゃんは練習を終えて入部届を書いていた。
(えー!どうしよ。私決まってない…。)
楓ちゃんが入部届を書いてるところに先輩がやってきた。
「祐希ちゃんは書かないの?」
「あ、はい。実は迷ってて。」
「何に迷ってるの?」
優しい先輩が話を色々聞いてくれた。
「そっか。それは辛かったね。まだ仮入部期間だしゆっくり悩めばいいよ。」
「(な、なんて優しい先輩!!)ありがとうございます。」
優しい先輩がいるならありだよなーと考えていた。その夜、相良くんからLINEが来た。
【昨日、なんで切ったんだよ?バスケ部に決めたか?】
うわ、めんど。無視しとこう。
無視してると、ピロロん
【おーい、無視すんなー】
とまた立て続けにLINEが来た。
暇なんかな?強豪だから連絡はほとんど来ないと思ってたのに。これで私がバスケ入らなかったら、もう連絡来ないかな。楓ちゃんバスケ部入ったし、それは報告しとこう。
【気づかなかったんだよ!あ、今日楓ちゃんがバスケ部入部したよ】
と返信すると
【え?まじ?なんか意外だね。で、お前は?】
もう、なんで私のことばっかり。
【まだ考え中。】
と返信して携帯の電源を切った。
ーー次の日
楓ちゃんはゆきちゃんと一緒にバスケ部にいってしまった。私は、今日はバレー部に行く予定だ。どきどきしながら体育館シューズを履いていると
「2組の高坂さんだよね?」
「…は、はい。」
「私3組の合田です。」
と初めて声をかけられた。
合田さんは隣の小学校で、3組にさつきちゃんと同じグループで私のことをたくさん聞いているらしい。
「なんか恥ずかしいね。」
「うん、でも話聞いてるから私は初めての感じがしないわ。私はバレー部に入部届出したんだ。」
「そうなんだ。今日はよろしくね。」
といって、バレー部に参加した。バスケと違って編み越しなので、動く範囲が狭いのもあって、体力的には余裕。ただ、横の人との距離が近くてぶつかりそうで怖い。
1時間の練習が終わって感じたこと。
(身長が少し低いけど、できないことはない。)運動神経が功を奏して、形は初心だが、ボールへの執着や感覚がバスケをやっていた経験を生かしていた。
「お疲れ様〜!めっちゃ上手だね。」
合田さんが声をかけてきた。
「うん。バレーを初めてしたんだけど楽しかった。」
「よかった〜!一緒に入ろうよ!」
と合田さんの熱烈のアピールもあって揺らぎかけている。
「う〜ん。この1週間はいろんな部活回りたいからそれで決めるね。」
「うん。いつでも待ってるよ。」
と言葉を交わして校門で別れた。
バスケじゃなくても私が咲けるところはあるのかもしれない。明日は、バドミントンにいってみよう。
ーー1週間後、バドミントン、卓球、陸上…5日間いってみたけどどれもしっくりこなくてバスケかバレーかの2択になった。入部期限は残り1週間だけど、同期から遅れたくなくてもう決めたい。
「祐希ちゃん〜どこにするか決めた?」
「う〜〜〜ん。決められない〜〜!」
頭をかかえて机に伏せている。
「5月のGWに隣の松本高校と練習試合するみたい。みんなと会えるよ。」
と美希ちゃんが話しかけて来た。
「うぇ〜〜ん。そんな〜!揺るがさないで〜!」
「ってか、なんでそんなに迷ってるの?」
と美希ちゃんが聞いてくるので、相良くんのことは伏せて、ミニバスのトラウマを話した。
「でもそれって、自分が集中してなかっただけじゃん?今は集中できるでしょ?まだ何かひっかかってるの?」
(突いてくるなぁ〜…)
「う〜ん。違うこともしてみたい気持ちもある。」
「祐希ちゃんの人生だからね。ゆっくり決めなっ。」
(美希ちゃんは男気がある。ミニバスのときから肝が座っているというか、芯が強いというか…。楓ちゃんがピンときてなかったらいいけど。LINE交換してることも話してないし、あいつが携帯持ってることも知らないんじゃないか。)
そんなことふと考えながら、楓ちゃんと美希ちゃんは部活の話をしている。
あいつが強制的に入部しろと言ってくることが原因で決断できない。お母さんが子どもに「早く宿題しなさい。」と言われなくてもやろうとしていたのに、言われたことでやる気を阻害してしまう。そんな気分。
今日もう一回バレー部に行ってみよう。そう決断して、放課後バレー部に行く。
「あ、祐希ちゃん来てくれた〜。」
と、合田こと陽子ちゃんが迎えてくれた。
「バスケと迷っているんだけど、体験して決めようと思ってる。」
「うん、今ね1年生は7人いるよ〜。こちら1組の田中さん、坂田さん…」
と1年生の紹介をしてくれた。みんないい子で活発な感じがする。
練習中は、ボールに必死にしがみつく。
「そ〜〜れっ。」と掛け声もなんかしっくりきていた。自分が3年間やっていけそうな気がした。
「私バレー部に入る。」
そんな決断をした夜。相良くんからLINEが来ていた。
【決まったか?】
【うん。私バレー部に入部する】
【そっか。頑張れよ。】
と相良くんからそれ以来、連絡はなかった。
ーー次の日
美希ちゃんと楓ちゃんにバレー部に入ることを伝えると2人は「頑張ってぇ!一緒の部活じゃないのは悲しいけど、試合見に行くね。」と言ってくれた。
ーー中学2年生の6月頃
部活も慣れて来て、先輩と一緒に試合に出れるまで成長した。時期キャプテン候補じゃないかと言われるようになって来た頃、記憶の片隅にもなかった相良くんから連絡が来た。
【久しぶり。元気?】
(そう言えば、楓ちゃん試合会場で相良くん見たってテンション上がってたっけ?)
【元気だよー。そっちは?】
【変わらず頑張ってるよ。先輩は冬の大会までいるから、まだまだ自分たちの代にはならないけど、俺も試合出れるようになったんだ。】
【え?すごいじゃん!こないだ、楓ちゃんが試合会場で相良くんみたっていってたよ】
【そうなんだ。声かけてくれたらよかったのにな。】
(ちょっともやっとした。)
【で、どうしたの?】
【いや、高坂がバレーに飽きてバスケに返り咲いてないか確認しただけ。】
【んなわけないでしょ。私時期キャプテンって言われてるんだから。】
【さすが、運動神経いいのだけは変わんねぇな。彼氏とかできた?】
(え?急に何?そんなこと興味あるんだ。)
【いないよ。バレーひと筋ですから。】
【ってか夏の大会ってどこでやるの?】
【教えないー!】
そんなやりとりをしながら小学生時代を思い出していた。
(好きな人かぁ。本当にバレーのことしか考えてこなかったなぁ。特に男子から好かれるわけでもないし。)
2年生に上がってクラス変えがあり、美希ちゃんと楓ちゃんとは違うクラスになった。その代わり、陽子ちゃんと一緒のクラスになり楓ちゃんとはほとんど話さなくなったのだ。たまに廊下ですれ違うと、声をかけてくれる。相良くんの話も廊下でたまたま会ったときに教えてくれた。
さつきちゃんは、茶道部に入部して、品を磨いているそうだ。2年でも同じクラスにはならなかった。橘くんとは、クラスも別になったので発展はなく気持ちも消滅したらしい。
陽子ちゃんは、男子バレー部の和田先輩のことが好きで、いつも先輩の話をしてくれる。私は全く興味がなく、何がいいのかもわからなかった。
ーーある日の部活の帰り道
「祐希ちゃん、聞いてー。バレー部の和田先輩に彼女ができたんだってー。ほら女バスのキャプテンの…」
陽子ちゃんが悲壮感漂わせてこっちにやってきた。倉庫で片付けしていたら、手を繋いで一緒に帰っていくところが見えたらしい。
「あー。キャプテンね。」
私が仮入部で迷っている時に声をかけてくれた先輩が今、バスケ部のキャプテンで、美人さんだ。後輩からも一目置かれている。ただ、楓ちゃんももともと美人だが、バスケで人気が開花している。最近、彼氏もできたという風の噂が聞こえてきていた。
「楓ちゃんとも連絡とってないなぁ〜。今日連絡してみるか」
と、独り言をいってその日の晩連絡してみた。
【楓ちゃん〜!久しぶり。元気?】
【祐希ちゃん!!元気だよ〜!連絡ありがとう。どうしたの?】
【ううん。クラス離れてから連絡とってなかったし、楓ちゃん、最近彼氏できたって風の噂で聞いて…】
【ん?あぁその話はデマだよ。私はいつだって相良くん一筋!】
(えっ。すごいなぁ。楓ちゃんは…あいつに相応しいのは楓ちゃんだよ。)
【楓ちゃん、相良くんと試合会場で結構会う?】
【ん〜どうだろう。大きい大会のときくらいかな。あ、でも山田中は強いから、私たちが試合負けてもこっそり見に行ってる。こないだ、ラスト3分に相良くん試合出て、3P決めてたよ〜〜〜。もぅかなりかっこいいの。で、美希に言ったら、「は?どこが?私は5番が好みだわ。」って。ひどくない?私たちの相良くんにケチつけるんだよ〜】
と、熱量のあるLINEがきた。ってか、結構試合見に行ってるんだ。連絡とってるのかな?と気になった。
【そうなんだね。美希は面食いだし、私たちの相良くんって(笑)相良くんとは、連絡とってるの?】
【ううん。こないだ、試合会場で声かけたら、すっごい笑顔で話してくれて。連絡先教えてって言ったら、校則が厳しいから携帯もってない。って言われてしまって。でも、ないならしょうがないし、寮だしね。高校、私も山田高校にいけるようにバスケ頑張ってるんだ。】
なるほど。楓ちゃん。バスケ部に入ったのも山田高校に行くつもりだったからなんだ。山田中学校はエスカレーター式で大学までいける。山田高校も毎年インターハイ出場しているので、相良くんもそのままエスカレーター式で進学するだろう。
【やーーーん。楓ちゃんすごいっ!時期キャプテンだね。】
【うん。もちろんよ。キャプテン兼エースになって、県大会ベスト4に入らないとスカウトの目はつかないみたいだから私頑張るね。】
楓ちゃんの変わらない相良くんの気持ちを聞けたところで、私は安心したとともに、相良くんのことで、なにも感じないのだ。正直、相良くんのことが好きすぎる楓ちゃんのそばにいるのもしんどかったし、相良くんの気持ちも重たかった。私は、畑を変えたかった。
だから、バレー部に入って、陽子ちゃんと楽しくやっているときが心地よい。私は高校でも2人とは離れて県立高校でバレーをしていこう。もう連絡先も消してもいいかもしれない。そう思って、相良くんの文字をスライドさせて、「消去」した。
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