オレンジの絆(終)
ーー3年の夏
女子バレー部キャプテン高坂祐希。毎日暑い体育館の中で、ボールを追いかけている。夏の大会は明日に迫ってきた。明日負けたら引退だ。
「集合〜〜!!」
と私が声をかけて部員を集める。
「明日から連日大会が続いていきます。体調管理と気持ちを切らさないように頑張りましょう。」
「はい!!!」
と部員の声が体育館に響き渡って最後の練習は終わった。
中学3年間、特に恋愛もせずにボールだけ追いかけて終わったなぁ〜と制服に着替えながら考えていた。
陽子ちゃんは、明日頑張ろうね。といって部員たちと握手をしている。陽子ちゃんは、人たらしだ。
試合会場では、他校の選手と連絡先を交換して、知らない間に輪を広げている。そして、明日対戦する学校も、陽子ちゃんの友人がたくさんいる。
「対戦相手の学校の副キャプテンが怪我してるから試合に出れないみたい。1年生にいいのが入っているから試合に出るだろう。」と情報を仕入れてくれた。そのアドバイスから私たちも作戦を立てる。
「明日のスタメンは…」3年5人と2人1人でいつも通りのスタメンを組んでいた。そのとき、陽子ちゃんから1年が出てくるんだったらこっちも1年入れたら?と提案してきた。
初心者の1年を使うなんてもってのほかだ。しかも背が高いわけでもない。それはできないと話すと陽子ちゃんは少し機嫌悪くした。3年最後の試合だし、3年中心に出したいという思いがある。1年を使うより3年を使いたい。そう伝えると陽子ちゃんも納得してくれた。
ーー試合当日
体育館でアップをしていると「頑張れ〜〜〜〜!」と女バスのみんなが応援に来てくれた。私は一切知らなかったので、「え!!!!!」と驚きが勝ってしまい、思うように身体が動かない。
その状態で試合が始まってしまったので、ボールに身体が追いつかない。小学生のときのトラウマがふっと脳裏をよぎる。
(ダメダメダメダメ。今は試合に集中。あのときの私を超える!!!)
勝ちたい気持ちが勝り、いつも通りのプレイができた。相手チームは1年生で170cmの大きい人がいたが、陽子ちゃんの事前情報のおかげで冷静に対処できた。
「いい〜よ〜。ナイスぅ〜〜!」
こちらの流れで1セットを先取。
「みんな、いい調子だね〜」
とベンチに戻って選手たちに声をかける。
「いけそうだね!」
と気の抜けた発言をする選手たち。そこからセットをひっくり返され、最終セットまでもつれ込んだ。
(実力ではウチが上なのに。)と苛立ちを隠せず焦りがプレーに出る。
「そーーれーー!」
とサーブをしてアウトになる。
ピッ!
「あ"〜もう!」
と私は集中を欠く。
「祐希ちゃん、落ち着いて!」
と陽子ちゃんが声をかけてくれる。その掛け声も自分にとっては苛立ちになる。陽子ちゃんの励ましを私は無視をした。
5-8でコートチェンジが行われる。
「これで負けたら私たちは引退だよ?このままでいいの?」
とベンチに座った出場メンバーに声をかける。
「祐希ちゃん、焦りすぎだよ!」
「は?!何を…!」
と持っていたタオルを投げつけようとしたら
ブーーー
タイムアウトのブザーが鳴った。
何も作戦を立てられず、私たちは最悪の空気で試合をしていた。
ピッ!
相手チームのサーブがラッキーなことにアウトになる。
「ひっくり返すよー!」
と声を出す。誰も声を出してくれなかった。
(そ。そんな…)
私はもうどうすればいいのかわからなかった。謝ればいいのか。焦ってる?私が?パニックになってしまってミスを続出。
5-10でどんどん点差は広げられて相手のチームの流れになっている。
「おいっ!!またあんときと同じことするのかよ。」
と体育館中に低い声が響き渡った。
「え?誰あれ?」
ザワザワ…観客たちは低い声の主を見ている。
「さ、相良くん?」と楓ちゃんが目をハートにして見ている。
「お前、いい加減にしろよ!バレーも出来なくするつもりか!」
(うるさいわよ!!!ってかなんであんたが来てるのよ。)
体育館の観客席にジャージ姿の相良くんが、人目関係なく叫んでいる。私は恥ずかしかったけれど、応援に来てくれて嬉しくて苛立ちから冷静さを取り戻した。
「よーーーしっ!」
連続得点を決めて9-11まで追い上げた!
相手チームのタイムアウトとなった。
「祐希ちゃんいつも通りのプレーになった!」
と陽子ちゃんが背中を叩いてきた
「さっきはごめん!最後まで頑張ろう!」
と陽子ちゃんとハイタッチした。
ピピーーー
15-12でなんとか一回戦、勝利。
「ありがとうございました〜。」
挨拶をしてみんなで円陣を組む。
「今日はごめん!!!明日からまた頑張るからよろしくお願いします!」
「はい!」
と言って私たちは、また明日に繋げられた。客席をみたら、相良くんはいなかった。楓ちゃんが残っていたので「相良くんは?」と聞くと練習があるから帰ったと言った。
(相良くん…ありがとう。)
そのあと私たちは、相良パワーのおかげなのか、準決勝まで駒を進めることができた。私はずっと相良くんにお礼が言いたかった。
ただ、自分から連絡先を消してしまったので、自業自得だった。(またどこかで会えるかな)
「明日は準決勝!思いっきりやろう!」
桃山中学は前年の優勝校だ。私たちにとってはここが大山で、勝ったら決勝は、おそらく山田中学。そう、相良くんの学校だ。
相良くんの学校はスポーツが強い学校なので、バスケとバレーはもちろん、ラグビーやバドミントンも強い。
私は、あれから毎日、試合に集中でき、チームの状態もいい。メンバーも勢いに乗ってて明日150%が出れば勝てる見込みもある。
「明日は、桃山と!絶対勝つぞ!」
「おーーーー!」
と言って解散した。
連日試合があるので、疲労が溜まっている。それでもみんな怪我はせずに、ここまで来れている。
私は相良くんの言葉を胸に試合に挑んでいた。いつも私が弱ってるときは駆けつけて声をかけてくれる。背中を貸してくれる。相良くんにとてつもなく会いたかった。ううん。今は試合に集中。と首をふって明日に向けて意気込んだ。
(明日は、悔いが残らないように頑張る。)
私は、眠りについた。
ーー準決勝当日
円陣を組む。
「ここまできたら当たって砕けろよ!全力でぶつかっていこう」
「やったるぞー!!!」
「おーーー!!!」
いつも以上に、メンバーに気合いが入っている。
ピッ!
「お願いします。」
試合が始まった。
毎日試合をしていると会場の雰囲気が慣れてきて、今日はいつも以上にリラックスできていた。初日の緊張は本当になんだったのか。いつも通り動けるのだが、連日の疲れがどっと出て、飛びついてもボールに触れない。
ピッ!
0-3
相手チームは175cmが3人前にいる。チームで最長身は172cmの陽子ちゃんだ。その次が170cmの私と続く。なので、身長からしても私のチームは不利になる。
「ブロックアウト取ってくよ〜!」
陽子ちゃんが声をかける。
「あーい。」
チームはまだ諦めてはいない。
サーブが入る。相手がアタックを打つ。鋭利角で入るので、拾えない。
ピッ!
どんどん突き放される。
3-15
みんな今までの疲労が一気に出てきたようで、集中力に欠けてきた。
タイムアウトを取る。
「みんなまだ、1セット目だから、大丈夫大丈夫!」
「こっからだよ!!」
と3年生が声を掛け合う。誰もまだ諦めていない。
(いいチームになった)
ピッ!
タイムアウトが終わった。
セッターの子のトスが上がって、天井に手が届きそうなくらい跳んで、アタックを打つがどうしても跳ね返されてしまう。
ピッ!
「どんまい、祐希ちゃん。」
と陽子ちゃんが声をかけてくれた。
「あい!」
と気合いを入れる。
4-25
ピーーーー
1セット取られてしまった。どうしても壁が攻略できない。3枚並ぶときに攻撃はほぼ不可能だ。ブロックアウトを取るしかない。
「3枚が前にこないときにバックアタック打つか、前を使ってどんどん攻めていこう。」
「はいっ!!」
みんな気合いが一段と入っている。
ーー2セット目が始まった。
サーブが私のところに飛んできた。綺麗に返せた。そこからバックアタックにもっていく。いつも以上に高く飛べている気がする。身体が軽い。
ピッ!
「きっ…決まった!!!」
「わぁああ!」
チームで円陣を組んで回っていた。
「よぉーーーしっ!」
向こうのチームは豆鉄砲を喰らったかのような顔をしている。そこから相手のミスが目立ち、2セット目を取った。
「行けるよ!行けるよ!」私たちのチームは士気が上がっている。
3セット目
前年覇者は、さすがだ。すぐ調子を戻してくる。
あっという間にセットを取られた。次のセットを落としてしまうと私たちの負けだ。そんなことを考えたらだめなのに頭をよぎってしまう。
「全力を振り絞っていこう。」
「はいっ!!」
4セット目
私たちも食らいつく。バックアタックで先取。ブロックで点は取れないものの少しでもボールにかすって、その後のフォローをしっかりする。向こうが怯むのを待つだけだ。そんなじわじわ粘りのバレーをすること4ラリーが続き、向こうがやっとミスをしてくれた。
2-0
流れはこっちにきている。このままいけば逃げ切れる。そう思っていた矢先だ。
ピー!
相手チームも動く。交代だ。元気な選手たちが出てくる。元気があるから俊敏な動きでレシーブをとる。
2-1
その後も熾烈な攻防が続き、接戦となる。ベンチで見ている選手たちも息を呑んで手を握っている。
23-24 マッチポイント
タイムアウトをとってベンチで話し合う。
「いけるよ!いけるよ!」と手を叩いて鼓舞した。
サーブは私からだ。手に勝ちたいという気持ちを乗せる。向こうのコートを目がけて思い切ってジャンプして手を振りきる。
ピッ!
向こうのチームがレシーブをミスり同点に追いついた。
「きゃーーーーー!!!!」
みんなで円陣になって喜んでいた。もう一回サーブを打つ。ここで、決められたら私たちのチームが4セット目をとって、最終セットに持ち込める。気合いを入れてサーブの位置につく。
ドッキンドッキン…今までここまで高鳴ったことがない心臓の音を感じながらサーブをする。
ピッ!!!!
「わぁーーーー!!」
相手選手がレシーブしたボールが後ろに飛んでいき、私たちの点となった。
「祐希ちゃーーーーーん!!!」「キャプテン!!!!」
チームのみんなが半泣きでこっちに寄ってくる。
「やったーーー!!」
25-24で連続先取。これはたまらず相手チームも焦っている。相手はこれでセットを取れば決勝に駒を進められる。まさかここまで手こずるなんて思ってもいなかっただろう。
相手チームの監督も罵声をあげている。それに伴い、先ほど余裕ぶっていた選手の顔がだんだん暗くなっていた。
私たちの顧問の先生は、素人だったので、いつも笑顔で監督席で座って見ていた。今日も癒し顔で、手を叩き喜んでくれている。
「祐希ちゃん、ここ取ったら最終セット持ち込めるよ!いこう!!」
「うん!!!」
私は3本目のサーブ位置にたつ。
ピッ!
小学生の自分を超えたくてバスケでなくてバレーをすることにした。これは逃げではない。私の中でバスケをしても、ワクワクする気持ちが芽生えなかったからだ。新しい競技をすることで、私のワクワクは格段に増えていった。毎日楽しかった。どんどん上達していくし、新しいルールや覚えることもいっぱいあった。
たくさんの気持ちを乗せてサーブを打つ。私は初めて「ゾーンに入る」を経験した。勢いが止まらなかった。私のサーブは、誰も拾えなかった。
ピーーーー!
「よっしゃーーー!!!」
みんなで円陣になって回る。
「最終セットも取るぞ〜!」
「おーー!」
最終セット、さすが優勝校。ひと筋縄ではいかない。選手層が厚い。温存されていた主力メンバーが元気な状態で出てくる。私たちは決まったメンバーでしか戦えないので体力は限界にきている。
「最終セット何がなんでもボールに飛びつくよ!」
「諦めない」
「よーーーしっ!」
と3年筆頭に声をかける。3年間一緒に頑張ってきた8人。誰も退部することなく楽しいときも辛いときも肩を組んできた。8人最後の大会。やりきりたい。勝ちたい。思いが前進する。
お互い一進一退の攻防戦となった。挑戦者の私たち。絶対負けられない前年度の覇者。
5-7
7-10
14-15
私たちも負けていない。誰も負けたいとは思っていない。後輩も引退させたいと思っていないので、火事場の馬鹿力とはこういうことをいうのかかつて見たことのないファインプレーが飛び出す。背の高い壁もだんだん見慣れてきて、ブロックアウトを取れるようになってきた。
「よしっ!」
その流れで一進一退のラリーと激しいやり取りが続き
15-15
いける!!!!チームのみんながそう思っていた。
サーブは舞香。舞香は努力家ということもあって、芯が強い。
(舞香大丈夫だよ)
舞香とアイコンタクトをとって頷いた。
舞香のサーブはすごいスピードで頭上を通り過ぎていった。
ネット上部にあたった…が、ボールが相手陣地へ落ちた。
ピッ!
「舞香〜〜〜〜!!」
16-15
舞香はいつも落ち着いている。せった試合でもミスはほとんどしない。それは彼女の強さである。彼女がジャンヌ・ダルクに見えた。
舞香はいつも通りサーブする。
相手が拾ったが崩れている。よし、こっちにボールが戻ってきた。Aのサインがでていたのでみんな持ち場へ動く。アタックは私だ。練習通り。レシーブをあげてトスがあがった。私が飛んだ瞬間、目の前に2枚壁が見える。
タイミングをずらしてフェイクする。拾われた。まずい。すぐさまブロックの準備をする。向こうもエースが飛んでいる。私たちも2枚ブロックだ。指先にボールがかすった。
「あ…」
リベロが走り抜けていく。拾った。それを繋いで相手に返す。ラリーが続く。相手チームもエース陣はずっと出ているので私たちと一緒だ。肩で息をしている。相手も同じ中学生。
また同じエースで来るだろう。2枚でしっかりブロックの準備をする。ブロックもたくさん練習してきた。陽子ちゃんと息を合わせて飛ぶ。相手はトスのタイミングが合わず、威力がないアタックが返ってきた。よし。チャンス。
しっかり拾ってトスをあげる。私が飛ぶと3枚ついてきた。後ろから隠し球だー!いけーー!!舞香のアタックが相手のコートに刺さる。
ピッ!
17-15
「やったーーーーー!!」
「きゃーーーー!」
ベンチにいたメンバーもコートに入ってきて、円陣でみんなで回った!私は涙で前が見えなかった。
「ありがとうございました」
相手チームはコートから立てずに座り込んで、泣き叫んでる。
私たちはコートを後にした。更衣室でもう嬉しすぎてみんなで騒いでたら、顧問の先生にうるさいと注意された。浮き足立っていて、これは嘘なんかじゃないか。陽子ちゃんにほっぺを引っ張ってもらったが、非常に痛かった。
現実なんだ…勝ってしまった。でも今日は舞香がMVPだ!彼女はこの試合で花開いた。何かが憑依したみたいだった。本当に素晴らしかった。
会場の外で集合して、私は、みんなに「気を引き締めて明日勝って気持ちよく終わろう」と伝え解散した。
次の日、昨日の試合で疲労困憊でミスがミスを呼び集中できずあっという間に試合が終わってしまい準優勝で終わった。昨日泣きすぎた分、全く水分が出てこなかった。
準決勝の試合で達成感を味わいすぎて、決勝で思う存分コートで走り回れなかった。どこか昨日の試合で満足して会場を後にし、家の近くまで歩いているときに聞き慣れた声が聞こえた。
「よう!久しぶり!」
相良くんだった。ずっと会いたかった人物を目の前にしたら言葉が出てこなかった。
「…あ、久しぶり。」
「テンション低いな。もしかして試合負けた?」
「うるさいわね。こちらは優勝校を下しての準優勝よ!」
「やるじゃん!おめでとう!」
「ってかなんでここにいるの?」
「明日試合は、家からが近いから帰ってきたんだよ。」
「そうなんだ。あ、試合見にきてくれてありがとうね。相良くんのおかげで勝てた…」
「…ってか、お前見ないうちに可愛くなったな。」
「はっ…?」
と試合の疲れなのか頭が働かずぼーっとしてきた瞬間、相良くんに手を引かれた。
「え?どこいくの?」
「いいからついてきて!」
私たちは仲良く手を繋ぎながら、夕日の中に消えていった。
(終)
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