見出し画像

マンデラ小説「M.e」第8話「周波数」

「周波数?」

お昼をご馳走になったので、珈琲を彼女に淹れてやり皿洗いを買って出た。

フライトジャケットを脱いで、白のロングTシャツの裾を捲っている時、不意に背中越しに声をかけられた。

彼女は、俺が淹れ直した珈琲を両肘を着いて飲んでいる。

「周波数って知ってるよね?

スマホやラジオや電波のアレね。

で、

この世界にある物質…私達の身体も含めて様々な物は原子で出来ていて、これらの原子は特定の周波数で振動し合いしたりしてエネルギーを生み出してるんだって。

面白い事に、人間の身体にも周波数があって病気になったり亡くなったりすると周波数が大きく変わるんだって。

その逆に周波数を整えると健康になったりで、不思議よね。

エネルギーが変化するから周波数も変わるのかなぁ?」

ホルスターバッグもジャケットの上に置いて、シンクに向かい背中で聞きながら洗い物にも集中する。

事務所だけれども、ココは普通の自宅のようで勝手がいい。

勢いよく水を出した。

「それでね、さっき話してたスライドの話なんだけど、この周波数と関係があるんだって。」

手を止めて彼女の方に振り返る。

「タクシーの中で俺に渡したネックレスの事か?」

既に俺の首にかかっているネックレスだ。

事務所マンションに到着する前。

タクシーの中で、彼女は黒のアウターのスーツジャケットを開け斜め掛けポシェットからシルバーの何かを取り出す。

鮮やかなシルバーのネックレス。

手渡されたネックレスは、昨日に見た叔父の開発中のバッテリーと同じ素材と似たような幾何学模様が刻まれていた。

割とゴツくて、好きなデザインだった。

思ったより重くて、常時身に着けるように促された。

「人の周波数を変えるみたいよ」

何を言っているのか?

うっかり呆けてしまった。

問い質そうとすると、タクシーがマンションに到着し、俺が因縁のマンション前で驚いて話が終わっていたのだった。

白のロングTシャツの下に、身に着けていたシルバーのネックレスを見せた。

「それね。私達の周波数を偽れるらしくってアチラ側の人間には見えなくなるって。

最初はお呪いの類かな、と思ってたんだけどね。実際に結果は出てるから大したものね」

彼女は珈琲を一口飲み

「美味しいわね。同じ豆なのに何かコツがあるのかしら」

と感心してくれた。

当たり前だ。珈琲には拘った時期があった。

海外では、うんざりするほど不味い炭酸水を飲んでいたから、どの国でも置いてある珈琲だけは美味しいモノが飲みたかった。

淹れ方さえハマればどの国の珈琲も美味しくなった。

野営でも味は落ちるが旨く淹れられる。

火の加減が大事なのだ。

自分の首にぶら下がる、少し重いネックレスをまじまじと見つめる。

彼女は続ける。

「そのね、周波数を変える技術がスライドと関係あるみたいなのよ。

空間全体の周波数を変えると、所謂マンデラエフェクト現象が発生したみたいなの。

で、アチラ側の何かの都合で、空間全体にソレを周波数を変質させるモノを照射して見えなくなったり干渉できなくする事が出来るのよね。

その空間のに居る人間は、同じ着地地点に戻るはずが、コレを身に着けていると別々の地点に分かれるの。

コレは先生の専売特許?て言うのかしら、小型でコンパクトな物を作れる知識と技術は先生だけだって。

私もスライドした時に本当なら、アイツ等と同じ場所にスライドをするはずなのに、別々に別れたのは私も身に着けているネックレス効果みたいなの」

俺は洗い物を再開し、サッサと手際よく終わらせた。

2人分だから時間はいらない。

手拭きのタオルで濡れた手を拭きながら

「そうなると、俺の最初のスライドはマスタングの奴等と離れていたから作用しなく別々になったのはなんとなく分かる。

今日のぶつけられ発砲された時のスライドは君がソレを身に着けていて、バイクでタンデムして引っ付いていたから作用した?」

うーん、困惑しながら2人見つめ合って笑った。

「叔父に聞くのはやめよう」
「先生に聞くのはやめよう」

ハモった。

ダイニングに暖かい空気が流れる。

緊張感が無いのは、何故か慣れっ子な自分達に驚かなくなった。

彼女は続ける

「でね、この周波数の空間照射装置は昔から存在していたらしいのね。

基本は同じだけど、もっと大まかで細かい調整は出来なかったそうよ。

そして、その照射する周波数を絞ったり変化させると兵器になって街を丸ごと破壊できる武器にもなるそうなの。

落雷?今で言うレザービームかな?

他にも不思議な高度なテクノロジーは、大昔から、ある民族のグループが持っていてソレを利用しようと覇権争いがすごかったらしいのよ。

その周波数を操って国を一瞬で破壊してた過去もあったようよ。

で周波数を変えて人だけを入れ替えたりとか…。

異国では、そのグループは神様として崇められてた存在になっていて、驚く事に現在にも一族の末裔らが居るんだって。

アチラ側の人間達は支配者グループとして末裔を囲って世界を自分達の好きなようにコントロールしてるのよ」

叔父の又聞きなのに彼女は顔を紅潮させている。

俺は、彼女の前に座って、自分で淹れた珈琲を飲んだ。

「その支配者層達はコントロールして何がしたいの?」

紅潮させたまま彼女は

「人の欲望の全てよ。お金に権力に永遠の命…果がないの。

その恩恵を受けたい、ぶら下がる様々なグループや宗教団体、組織や会社が出てきてピラミッドのような構図が今の社会のあり方よ」

「あと、私達の日本のトップの企業や政府もね。日本も海外の支配者連合にいいようにされてるわ。」

「その実行部隊、俺達を襲わせたのが怪しげな宗教団体なんだな」

「そうね、宗教団体を隠れ蓑にした組織の一部になるわね」

見つめ合った。

「あれよね、こんな話しを外でしたら笑われちゃうわよね」

彼女は紅潮しながら珈琲を飲み干した。

それから肝心の質問に、彼女は真摯に答えてくれた。

衝撃の内容過ぎる。

「質問はあらかた答えたとは思うけど…貴方の考えは尊重するし、これからの行動も応援するわ。

選択をするのは貴方だから」

彼女は壁に掛かっている大きな時計を見て慌てた。

「ごめんなさい。ちょっと待っててね」

叔父の手伝いの仕事、パソコンのルーチンワークの仕事をするようだった。

慌ててデスクに戻る彼女の背中を見ながら考えを纏める。

珈琲は3度淹れ直して水分は当分入りそうにない。

彼女と話しながら、思い出したかのように記憶が戻るモノもあれば全く反応しなかった話もあった。

ため息を付いて彼女がテーブルに置いていったタブレットを見つめ、指でトントンと軽く叩いた。

周波数の話をしている時に叔父との会話していた記憶を僅かながら思い出した。

その周波数の事を波動や波長とも呼んでいたのだ。

波動や波長を合わせたり逸らしたり調整する事で、人や動物、自然環境まで様々な現象が起きるのだ。

詳しい記憶は霧の中に隠れるかのように定かではなくなる。

そして照射とは?

衛星とか飛行機?舟とか車とか何処からからエネルギーを照射するシステムなのか?

彼女の即答に驚いた。

【月】

…空にある【お月様】だと言うのだ。

しかも【月】は1つでは無いらしい。

今も沢山の【月】が頭上に配置されているが周波数が違うので見えていないそうだ。

周波数で見えなくなる原理を思い出して理解はするが納得はできなかった。

確かに複数の平行世界が重なっていれば【月】も複数ある理屈はわかる。

彼女の話では…その平行世界・パラレルワールド。

現在での解釈は「あるかもしれない」程度の現象だが、周波数を変えることで別の世界が構築される事もあるようだった。

無数に無限に、平行世界はある訳では無く管理されてるとの事。

数に限りはあるようだった。

管理しているのは、アチラ側の人間と向こう側の別の人達でもっとも強い力があるそうだ。

それらは現在ポイントとされる今の世界の「リザーブ達」としてストック、管理されて存在しているらしい。

今、俺たちの居る現在にトラブルが出た時に「生物だけ」がスライドさせるシステムらしい。

人の魂は同じなのか?

これは全く理解できなかった自分と強く強く理解するもう一人の自分が居た。

リザーブ世界は、周波数が我々の世界と近い平行世界でありるので、多数重なっている事になる。

なので、勘の良い人は本来見えない筈の周波数を拾って、他の世界の人やモノを認識する場合があるそうだ。

「幽霊が見えたとか建物が現れたとか、逆に神隠しにあって違う平行世界に行っちゃうなんてあり得るそうよ」

叔父の又聞きにしては、詳しくってドヤ顔になっていた彼女にニヤついていた。

「後ね「野良」の平行世界もあるそうよ」

2杯目の珈琲を吹きこぼしそうになる。

科学的な話と「野良」と言う野性的なイメージが対極的でずっこけた。

何かの作用で発生し、管理されて無い平行世界の事を言うらしい。

そしてリザーブの平行世界達の生活はちょっとずつ違ってるそうだ。

文化や流行りや言語も歴史も違うようだ。

人々は同じように存在してるが、変わらないモノ大きく変わるモノもようだった。

例えば、俺と言う人物は当然リザーブ世界にも存在していている。

しかし、早くに亡くなっていたり、長生きしていたり、仕事や結婚や家族構成も少しずつ異なるようなのだ。

その周波数を、空間毎変えるシステムを受けた俺は、素直な疑問をぶつけたのが先の照射する装置のある場所だった。

「頭が痛くなるあの現象は何処から照射される?周りにそんな施設や変なモノはなかったようなんたが…」

彼女は真面目な顔つきで

「月よ。お月様からよ」

珈琲はもう溢さない。

もう慣れた。

「いやいや…昼間なのに月は出てないよ」

こちらをまっすぐ見つめながら淡々と話す。

「月が1つでは無いそうよ。

見えてないだけで空には月が無数にあって見えないのは周波数。

周波数が少しでも変われば見えないって言ったわよね。

それらのテクノロジーを操作できるのがアチラ側の一部の人間。

根拠もないけれど、体験はしたわよね」

それを言われてぐうの音も出なかった。

思い返す。

衝撃すぎる。これまでの常識や理が根本が破壊されている。

受け入れられない事柄。しかし体験した俺としては前に進むしかない。

腹を括る。

「それでね…タムラトシカズ君の話と私が助けに行けたか?…なんだけれど…」

これには本当に参った。

腹を括ったのに、さらに飛び越えてきた衝撃すぎる内容だった。

考えても簡単に整理が追いつかない。

何故、叔父が狙われ俺も襲われていたのか

彼女が言う真相は

叔父や俺、そしてトシカズ等、俺達の親族一族は、昔、アチラ側の人間を支配する向こう側の存在だったと言うのだ。

何を言っているのか…?

無意識に握っていた、両拳に力が入る。

俺達は沖縄にルーツを持つ平凡な人間達ではないのか?

俺達の一族は平和の時代が長く続き、徐々に存在意義や力が弱まって来た頃に、裏切られ乗っ取りにあい追放されたそうだ。

そうして混沌と欲望渦巻く争いの絶えない今の世界に書き換えられてしまった。

そして俺達は、再び秩序を取り戻す為に長い月日をかけて力を復活させたそうだ。

なんだそれは?

漫画じゃないか!

荒唐無稽、サイエンス・フィクションも真っ青な馬鹿げたお伽話だ。

しかし道理が通らないと憤る自分と、胸が熱くなっている自分もいた。

デスクで作業する彼女の背中を見た。

外の景色は冬の夕方の模様を映し出しオレンジ色が窓から飛び込んでいた。

彼女が言った「俺の選択」は決まっていた。

1900年前後に、向こう側とアチラ側の戦争と言う反乱。そして日本は乗っ取られ俺達一族は魂毎、追放され消滅させられた。

そして、それまで日本で続いてた高度な文明や歴史や常識を全てすり替えられた。

周波数を使われ飛ばされた。

高度な文明だった日本の明治時代。潤沢な油田にガス田、電気にと資源豊かな日本と言う国。

それを第1次世界大戦、第2次と戦争を仕組まれ、沢山の命と資源豊かな日本は吸い取られて、1番の宝の日本人の魂をも消滅させられた。

それでも戦後に日本人は立ち上がり、豊かな日本を作り上げる本来の力を見せた。

アチラ側の人間達が驚いた。

その繁栄も狙われ、泡を弾けさせ、富や人材を駆逐し蹂躙されて続けた。

その間にも、俺達は少数になりながらも力を取戻す準備をしていたそうだ。

再び平和な世界を取り戻す戦いを1999年と2000年の西暦が変わる瞬間にかけた。

地球の流れが大きく変化する瞬間だそうだ。

日本がミレニアムになった時…俺達は戦争を仕掛けた。

そして

結果、

俺達は勝利したのだった。

向こう側の力を借りられたのだ。

アチラ側の奴等を全て別の平行世界に閉じ込めることに成功したのだ。

日本が平和になると世界中が平和になった。

そして管理されていた多数のリザーブ平行世界を閉じさせ、アチラ側の平行世界も永遠に閉じさせた。

2度と平和が侵されぬように万全をきしたのだった。

だが

2010年に大きなトラブルが発生してしまった。

閉じた平行世界が復活し重なってしまったのだ。

結果、全世界が強制的に時間軸毎、1999年の世界に戻されたのだ。

そのトラブルは、想定しなかったタイムスリップ現象を起こしたのだ。

その結果、世界は時間軸に閉じ込められ2010年から先の時間を進めなくなってしまったようだ。

世界は、1999年から2010年の歴史を何度も何度も繰り返す事になってしまった。

その現象に、最初に気が付いたのは俺だったそうだ。

それを回避し2010年のトラブルを止める為に動いたらしい。

秘密裏に成功まで漕ぎ着けたが

バタフライ効果が起きていた。

アチラ側の人間達も気が付いたのだ。

油断していた俺は先手を打たれているのも知らずに止められなかった。

俺は失敗したのだ。

俺が死んだかどうかは、彼女は言わなかった。

だが失敗した、と言うのはそう言う事態をも含めて言うのだ。

そして時は動きはじめた。

今度は、アチラ側の支配する元の世界。世界中の沢山の人々が苦しむ最悪な世界に戻ってしまったのだった。

俺達は、また追放され消滅する筈だった

だったが、叔父であるシンジョウヒロシが手を打ってくれていた。

俺を助けてくれ、アチラ側の気付けない「野良の平行世界」に飛ばしてくれたようだった。

他の並行世界には俺は存在しなかったようだ。

そして、その平行世界で俺達一族がまた戦える、復活する為のエネルギーを溜める為に魂を集めだしたのだった。

そして、この現在の世界に、俺の身代わりにとタムラトシカズが名乗り出てくれたそうだった。

俺の代わりに2010年から、叔父を手伝いチームとして準備をしてくれていたそうだ。

小説か映画か漫画のような話だった。

俺の事なのに、その記憶がサッパリと無くなっている。

そして、

昨日に俺は野良の平行世界からこちらに戻ってきたと言う。

時が満ちて世界を取り戻す他に、叔父が俺を此方にスライドさせたのだった。

代わりにトシカズは俺と入れ替わりに野良の並行世界に飛ばされた。

昔、トシカズと葬式で会った時はアイツは、これらの記憶を持っていてワザと接触はしなかったようだった。

優しいやつだ。

合点がいく。

現在ポイント、この世界でもタムラトシカズは存在するようだ。

東京には居らず、大阪で実家の手伝いをしているそうだ。

勿論、これらの記憶は無いタムラトシカズだった。

元気で暮らしているならそれでいい。

頭の整理が追いつかない非合理な話だが、理解する俺がいた。

やる事は決まっている。

と、不意に声をかけられた

「貴方、凄い有名人になってるわよ」

彼女は、いつの間にか俺の前に座っていた。

ノートパソコンをテーブルの上に置き画面を俺に向けた。

テレビやネットニュースで俺の名前が出ていた。

テレビのニュース報道だ。

「本日の午前中に、深大寺派出所をレンタカーでぶつけ逃走。拳銃のような武器を所持し発砲。そして逃走中にパトカーにもぶつけたシンジョウアキラ容疑者は依然逃走中…

…犯行に使われたレンタカーは数年前に盗難にあった車両であり、借りた人物は当時の免許証からシンジョウアキラ容疑者が浮上し判明した模様…」

意を決した途端なのに、腰が抜けそうになる。

なんだこれは?

映像では半壊した交番。そして壁に激突しエンジンフードから煙を上げているパトカーだ。

俺は力が入っていた眉間のシワを擦る。

「さらに同容疑者は、襲撃前に八王子市の住宅街に放火したと事も判明した…」

ヘリコプターからの映像が出て、叔父の青色の屋根が映っていた。

叔父の家は無事そうだった。

呑気にそう思った。

だが両隣は空き地な筈なのに、

なのに、住宅の焼け跡があり、辺り一面が焼け野原のように映し出されて声を上げた。

「なんだこれは」

異様な光景だ。まるでその一角だけを狙ったように焼かれていた。

画面に顔を寄せた。

住民がインタビューを受けていた。

「背の高い男が、大声を上げ突然暴れだして、ガソリンを撒き散らし、火をつけたのを見た」

焼け残った叔父の家を指し示して自分の住まいは無事だったと言う。

誰だ、こいつは?

彼女が言っていた宗教組織の工作員の人形と言うヤツなのか?

視聴者からの映像としてスマホで撮られた録画が流れる

そこには、大柄の男が大声で威嚇しながらポリタンクらしきモノから液体を撒き散らしていた。

映像がブレる。

今度は、その大柄な男が火を着けて、停めてあった乗用車に乗り込みすごい勢いで走り抜ける映像だった。

その大柄の男が、シンジョウアキラ容疑者であり俺の事らしい…。

とんだ茶番である。

人形達が演じる劇を見せられている気分だった。

ガソリンを撒き散らしている映像では、犯人にも掛かっていた。

撒き散らして火をつければ犯人も無事では済まない。

簡単な話、雑に作られたフェイク映像なのだ。

憤るよりガッカリし、モニターから視線を落とした。

笑っている彼女が視線に入る。

不覚にも、俺も一緒に笑ってしまった。

「いや、実際に君のポルシェやマスタングのように、パトカーやレンタカーの事故が、無かった事になってないかなと淡い期待をしてたんだが…」

俺は、バツの悪い顔をし頭を乱暴に掻いていた。

その仕草をクスクスと笑いながら彼女は

「早速、周波数を絞ったレーザーで上空から焼かれたかもね。

あの拠点の一体は結界のように周波数を変えてあるから、見られなくってピンポイントで狙えなかったのね。

だから辺り一面やられたわね。

青色の鉄板製の屋根に、耐火レンガと対策をしてあるので建物は無事だったけど、焼けなくて逆にバレちゃったかもね。

あそこは、中央高速が真下にある崖のような立地で、ラブホテルが後から出来たせいで宅地の開発が止まった場所。

先生はダミー会社を重ねてあの辺り一帯を買ってあるので誰も住んでないのよ。

だから人の被害は無いから心配しないでね」

彼女は人差し指を口元に置いて、思案顔でこちらを向く。

「それでね、さっき先生から指示が来たわ」

そうだった。

俺は先ず叔父と連絡を取ってこれからの話し合いをしなければいけない。

叔父は今何処に居る?

彼女は俺の質問を遮るかのように、席を立ち上がりながら言った。

「これから、その話題の燃え残った先生の拠点に行くわよ。

貴方が間借りしていたガレージハウスね」

ピクニックにでも行くような軽やかで楽しげな声だ。

俺は座りながらため息を1つ付いた。

アチラ側の人間や武闘派の人形達が待ち構えて居るど真ん中じゃないか。

俺の顔はニヤついていた。

腹は括ってあるので後は行動あるのみだ。

窓の外はすっかり暗くなっていて、冬の夜が押し寄せてきていた。

■■■■■next

EPISODE1 最終話
https://note.com/bright_quince204/n/nfdfe90c35cd3

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?