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マンデラ小説「M.e」 EPISODE1最終話「再会と南極と月」

「あら、なかなか似合ってるじゃない」

俺の格好を見て、クスクスと笑う彼女。

事務所の奥にある叔父の寝床部屋で着替えて出てきた。

これから敵さんの人形達が待ち構えている場所に向かう格好としては如何なものか。

紺ベースの高級そうな生地のスーツスタイル。

白色のスタンドカラーのシャツに当然ネクタイは無し。

髪の色は脱色して金髪っぽくなった。

より目立つ格好だ。

「帽子や丸坊主にするより逆にこっちの方が目立たないわよ」

「貴方が昔によく言ってたわ」

椅子に座りながらはしゃいでいる。

ほんとかよ?

人が記憶が無い事をいい事に適当言ってるんじゃないか?

と、心のなかで毒づいてみた。

髪を染めたり抜いたりするのは仕事で慣れてる。

が、自分の髪を金髪…正確には色素を抜く脱色なのだが。

髪の色を変えるのは初めてだ。

ヘアメイクのインターン時代でも自分への毛染めは何故かやりたくなかったのだ。

「お爺さんの遺言なんで」

なんて適当を言って誤魔化した事があったのを思い出す。

事の発端は指名手配の有名人の俺が、このまま素顔でノコノコ出歩くのもいかがなものか?

変装するにも、帽子マスク姿は逆に怪しすぎるし髪を切るか…と冗談で話していたら彼女は何か閃いたらしく、事務所に「オキシドール液」が置いてあったのを思い出し持ってきた。

叔父の仕事用だ。

「これで髪の色を抜けば金髪になるて貴方が言ってたのよ」

ニコニコ笑う。完全に遊んでる…。

しかし一理あるのは確かだ。

金髪ではなく正確には色素が抜けて、黒色が金色っぽくなる脱色だ。

本来はそこから明るいカラーを乗せていく為の基礎なのだ。

置いてあった薬剤を俺は簡単に調合した。

水っぽいと頭皮に流れるのでダイニングにあった小麦粉を混ぜたのだ。

こうすると粘り気が出て垂れる心配はない。

だが…

染毛用ハケではなく発掘用のハケをここで使う羽目になるとは思いもしなかった。

口元がニヤけた。

劇薬なので頭皮に着けると炎症が出る場合があるのでフロント部分は自分でやる。

頭を下げて逆さ状態にし、頭皮に着かないようにやった。

後ろのネープ側は手が届かないので彼女に指示しながらやってもらった。

上手いもんだ。

住居用を改装した事務所だけれども風呂場は撤去されている。

ダイニングのシンクに頭を突っ込んで自分で洗い流す。

洋服は、叔父のクローゼットに俺用の洋服も何点か置いてあり、彼女が選んで持ってきたのはスーツだった。

額縁本切羽の手の込んだ仕立てだ。

「今日着ていたアメカジよりフォーマルぽい方が逆をついていいのよ」

笑っているから全く説得力がない。

靴だけは革靴では動きにくいので叔父の値段の高そうな白色のスニーカーを選んだ。

アウターのジャケットは同色のツイードを選ぶ。

例の周波数のネックレスは、違和感なく肌に馴染んでいた。

「なかなか似合ってるじゃない?モデルみたいだわ。

先生と同じで日本人には見えないわね。

六本木で出歩いていそうよ」

クスクスと笑う。

俺は、もう楯突つかなくなった。

行き先変更で叔父の八王子の家に行く前に空港に向かう事になった。

敵さんの人形達は大丈夫なのか?

「それより貴方はテレビで有名になったから一般人の人達の方がやっかいよ」

と、緊張感のない返答に戸惑いながらも気持ちは軽くなった。

ホルスターバッグの貴重品は身に付けない事にした。

勿論免許証もだ。

油断はしない。

家のKeyを1つと千円札を数枚ほど畳んで内ポケットに仕舞う。

逃亡犯だからな…現実感が無くニヤついた。

2人共、用意を整え事務所を出る。

外はすっかり日が暮れて冬の空に星達の光が溢れていた。

赤色のポルシェ993。

空冷モデルの最終型だ。

赤茶色マンションのコの字形の中庭部分にカーポートがあり、ヒッソリとうずくまっていた。

叔父の事務所に着た時からポルシェのKeyは目についていた。

借りる気満々で運転を楽しみにしていたからだ。

いきなり出鼻をくじかれる。

目当てのKeyを手に取り事務所を出た時に、彼女から書類の紙束と小型のLEDライトを渡された。

立ち止まり呆けた顔の俺に

「空港につく前に、この世界の出来事の摺り合わせと、私のチームが行っている事柄をチェックして頭に入れていてね」

それらを両手に乗せられ、小指に引っ掛けていたKeyを、彼女はニヤッと笑いながらスルリと持ち去った。

東京の空の星はこんなにも沢山輝いてるのか…見上げてため息を付く。

空港に向かう高速道路を走行中、運転席に向って大きな声を上げてしまった。

ライトを口に咥え、紙の資料の束を照らしながら読んでいたのだが

ポトリとライトが落ちた。

「うそだろ!

今は2024年なのか!?

まじかよ!?」

彼女は顔を此方には向けず

「えー!今、気づいたの?」

声を上げて笑らわれた。

「こめんなさい。何だか子供が驚いたような口振りたったので笑っちゃったわ」

俺は鼻息が粗くなった。

「いや、運転中に悪い。俺は未来に着てたんだ…」

「俺の居た所ではコロナ禍は大変な1年があったけど直ぐに収束したんだが…世界的には大きなパニックにはなっていなかったんだ。

アベ元総理の銃撃事件は驚いたし、ロシアとウクライナが戦争してるなんて…うーん…やっぱり食い違うことが多い。

日本は酷く貧乏になってないか?

他所の国の金銭の面倒や、果ては年金を建て替えに国民の税金をドバドバ流して国民には増税?

凄い世界になってるな…」

「そうなの」

と、だけ彼女は呟いて運転に集中していた。

腕前はやはり大したものだ。

タイヤへのトランクションの掛け方が上手い。

このポルシェは普通とは違い足回りが硬めてありキャンバーの角度もエグいから素人の運転なら車が跳ねてしまう。

そして、運転席、助手席共、フルバケットシートが装着してあり4点式シートベルトまで取り付けてある。

勿論、ロールゲージが取り付けてあり補強もものすごい。

街乗りなので、2人共、通常の3点式シートベルトを装置している。

彼女の運転は、俺が資料を読むのに車を極力揺らさないような高度な運転だった。

安定した走りをするには、アクセルワークだけではなく直線の多い高速道路では実はステアリングの操作が肝なのだ。

バイクの腕前でも分かった事だが感がいい。

落としたライトを拾う。

この2日間は驚いてばかりだ。

驚きすぎて、実は未来に来てました…なんて馬鹿な話も、簡単に受け入れられる自分に笑った。

ニヤつく。

ライトは左手に持ち直し資料の束を読み込む。

高速のオレンジ色の街灯が車内に規則的に飛び込んでくる。

ポルシェの空冷サウンドが本当に心地良い。

この世界の出来事はだいたい把握した。

驚いた事に俺が作戦を失敗し消えてしまった因縁の年は2010年。

このアクシデントは今も尾を引いていたようだ。

アイツ等は俺達の作戦を阻止して世界を取り戻したつもりだったが、並行世界が繋がる現象が止まらなくなったようだった。

そしてアイツ等が恐怖する向こう側の人達とは…。

資料を読み込んで叔父との会話を思い出す。

宇宙文明レベルだ。

科学技術レベルとも言えるモノで段階がある。

レベル1からレベル7。

現在の地球の科学技術レベルは0.7レベルで1にも満たない未熟な文明と言うらしい。

そしてレベル7は宇宙を創られる創造主レベル。

この向こう側の人達とは、宇宙文明レベル7の創造主ではないか?と思う。

そうであるなら、周波数を利用した様々な技術は容易なのかもしれない。

地球や月を作られる技術も当然あるだろうし、並行世界の構築も難しくないだろう。

しかし、俺達一族がその向こう側の人達と繋がりがあるなんて…漫画みたいな話で現実感が全く無い。

UFOやらで宇宙からやって来るのだろうか…。

ポルシェの助手席の窓から宇宙を仰ぐ。

高速のオレンジ灯が眩しいだけだ。

本当かよ。

毒づいた。

更に資料を読み込む。

向こう側の人達の暮らす世界は9個あり9大陸。

世界?大陸とは?宇宙の事か?銀河系とか9つもあるのか?

それとも周波数などで遠くの宇宙や惑星が地球と重ねられるのか?

スケールが大きすぎて深く考えるのは止める。

ページを捲る。

その創造主達が管理している並行世界はそれぞれ9個。

創造主グループが9個あり、管理している並行世界が9個なのか?

ややこしい。

9ばっかりだし…

数なんて適当でいいじゃないか?

また毒づく。

その並行世界は地球の人間達の歴史の世界。

9つ共、それぞれ独自の世界が育まれ文化や文明が大きく違うようだ。

全く理解が出来ない。

おとぎ話だな。

アイツ等が乗取った俺達の世界線はその1つのようだ。

そして、俺達の存在する世界の繋がる並行世界は9個ともほぼ文化文明は同じだが少しずつ違う世界のようだ。

あのアクシデントで、それ等の並行世界が重なる事が増えてしまったいた。

さらに厄介なのは管理されていない「野良」の並行世界もが重なると言う事態。

野良は無数にあるのか、無いのかはっきりしていない。

そうして世界が重なりあった結果おかしな事象が現れた。

マンデラエフェクトと言う現象だ。

死んた筈の人が生きていたり、芸術や文化が知らないモノが昔から存在したり、歴史が変わっていたりスライド変化してしまった。

しかし人の意識。スライドによる覚醒はアイツ等によって封じられたようだった。

アイツ等が一番怖いのは人間達の意識が覚醒する事らしい。

特に日本人達の覚醒がアイツ等が恐れていた。

どんな手を使って日本人達の意識をマインドコントロールするのか?

並行世界のスライドの重なりが止まらなくなった事に、アイツ等も叔父達も気が付いたのは2014年。

アイツ等には「日本人の覚醒」は危険な事態だが叔父達には奪回のチャンスになる。

そこでアイツ等の影の支配者の医療財閥チームが提案をした。

薬等で富を生む悪魔のシステムを利用する事。

それは、健康な人に薬を必要とさせるVirusシステムだ。

Virusを抑制するワクチンと薬剤で儲けるのだ。

これは1900年前後にアイツ等が世界を影から支配した時から、影の財閥が富の為に構築したのだ。

その一つが医療系の財閥だ。

全人類を病にし、全人類に薬を提供するお金を生む為のマッチポンプだ。

これを応用し、全世界の人間達の意識をコントロールする研究が開始された。

5年の歳月を費やして「考えない人」=「ゾンビ化」するVirusとワクチンを供給する準備ができ

そして

全世界に撒かれてしまった。

このVirusはあらゆる意味で失敗だったのだ。

更に並行世界や野良世界が重なりや離脱が止まらなくなり、様々な事柄も重なりに「おかしい」と気付いた人々が増えてしまったのだ。

なるほどな。

俺が居たとされる並行世界とは違っている。

叔父が管理しているからか?平和な世界だったような気がする。

そして、彼女のチームが行っている事。

ネットを介して情報を世界中の多方面に広げて流している事だった。

「おかしい」と気付かせる後押し、フォローのようなモノか?

勿論、日本にも情報を流している。

よく活用しているのはTwitterだ。

現在はTwitterとは呼ばなくなっているようだ。

確かに、メディアでの拡散はテレビや報道など敵の管理化だから無理だろう。

個人が情報発信できる大きな武器だな。

プロパガンダのような情報を、宣伝活動のように、多数のユーザーに流しているようだが…不思議なアカウント名に目に止まった。

「この、協力者と書かれている「マンデラエフェクト体験中」と言う人は何で動詞の「体験中」なんだ?体験中さんって名前なのか?」

彼女は前を向きながら笑う。

「ああ、その人はネット初心者ね。だから変な事になっているのよ。

だいたい、そんな方達はセキュリティが緩いからハッキングしてタイムラインを利用して彼等に「情報」を流してるの。

そうするとそれを拾って検索し、勝手にXでポストして拡散してくれるわ。

本人は知らないけれど優秀な協力者だわね。

その資料グループはマンデラエフェクト関係のXね。

他には世界的に…世界の真実、フラットアース、人身売買、幼児誘拐、人工地震、気象装置、例の周波数によるレーザー照射、政府の陰謀論、CIAの真実や世界にあるエプスタイン島の真実…とかアイツ等の支配者の本当の情報とかも流しているわ。

それの実行部隊は先生の作った米国のチームが積極的にやってくれているの。

私の仕事は彼等に先生からのそれらの証拠画像やらを提供したり行動の指示を出す事になるかな。

アカウント名は先生が勝手に付けたQUEENでやってるわ。

女王って、私、そう見られてるのかな?

あ、そうそう先生のサーバー?あれは異次元よ。

誰も発信元には辿れないわ。

米国のナンバーワンのハッカー集団が先生のチームに入るくらいだもの」

「それでどうなるんだ?」

「後は世界の同士に向けてのカウントダウンかな。

詳しい話は先生にでも聞いてね」

クスリと笑う。

同士とは?世界に仲間がいると言う事なのか?

「このネットを使ったプロパガンダみたいなのは一体何なんだ?」

彼女は前を見て話した。横顔にオレンジの街灯の光が差している。

「…前回のミレニアム時の戦争には時空?潮目?地球全体が大きく変化する時期を狙ってアイツ等に戦争を仕掛けられたんだけれども、今回はそれらの後押しを期待出来ないだって。

だから先生達は、この並行世界の重なりをチャンスと見て「人の意識、魂の覚醒」をさせて全世界の人達のエネルギーを利用する作戦らしいのよ。

言っている私も何言ってるか良くわからないんだけれども。

で、日本人の魂のエネルギーが1番重要なんだって…でもアイツ等が上手にその日本人達を長い時間を掛けて変えてしまったから…なかなか期待するような大きな変化は起きないのよね」

目線は前を向いたまま苦笑いした。

Virusの事か?

そんなモノを投与せずとも、日本人は変わらない。

「いや、無理だろう。昔っから日本人は保守的で変われない。

波風を嫌がる大人しい民族だ」

俺の本音だ。

政府や学校で習った事、テレビや新聞の言う事しか信じない。

おかしいと思っても声を上げたり、率先して立ち上がる事は絶対にしない。

従順な人達だからこそ争いがないのだ。

彼女は一瞬だけこちらを向いた。

「でも米国はひっくり返ったわ」

車内を沈黙が走る。

そうなのか?

「日本だけが情報を統制されていて何が起きているか知らされてないのよね。

昔の人達は、テレビを見たら馬鹿になるて言ってる癖に、テレビの報道やニュースには絶対的な信用を置いていて矛盾に気が付かないのかしら」

前を向きながらペロッと舌を出す

「言ってる私も、昔はテレビの報道や新聞は信用してた口だけれどもね。

その情報統制されているテレビや新聞やメディアは全部、アチラ側支配者の意向で操作されているから、情報統制出来ないNネットやSNS、Xを突破口に少しずつでもやるしかないのよ。

アイツ等の工作員も紛れて巧妙になって邪魔してきているわ。

でも、テレビだけしか信用してない日本人達も、今の不可解な政府の動きにおかしい、と感じていて流れは良くなってきているわ。

そして米国の人達も声を上げ始めていて流れが日本にも来ているわ」

ポルシェの速度が落ちウィンカーを着けてインターを降りた。

羽田空港の叔父が何時も使う駐車場にスルリと入った。奥まった場所まで移動した。

「どうしよう、約束の時間を過ぎちゃってるわ。

誰かが変装に手間を掛けさせるから」

笑いながらも、驚くほどスムーズな駐車をした。

此方を向いてクスリと笑いKeyを捻ってポルシェのエンジンを落とした。

停めた対面に踞っている緑色のボルボ240エステートが此方を向いていた。

叔父の車だ。

海外に行くときは愛用していた。30年前のモデルだが荷物がたくさん詰めて頑丈な車だからだ。

空港に叔父を迎えに来たのだった。

ポルシェのドアを閉める。

ドアを閉める音は少し金属製のような固い音が出るのでちょっと苦手な部分だ。

2人小走りに歩行者出口に向かう所で声をかけられた。

「よう、久し振り!」

緊迫感のない透明感のある気持ちいい声だ。

彼女と2人立ちすくんだ。

振り返ると、はにかんだ笑顔がまるで少年のような叔父が暗闇からスルリと現れた。

還暦を超えているのに、はにかんだ顔は少年のような輝きがあるかと思えば、時には酷く長生きをした疲れた老人の顔も見せる、年齢不問な男でもある。

歯の白さが眩しい。

映画のインディ・ジョーンズの様なハットを被り、アメカジの赤系統のジャケットとタブタブのジーンズに下にウエスタンブーツ姿だ。

全く叔父らしいファッションだ。

ツカツカと大股で歩み寄ってきた。

183センチの俺よりデカい。

「良く戻ったな」

近付くなり、俺の出で立ちを見て訝しい顔つきになった。

「金髪はどうした?六本木によく歩いてる外人さんみたいだぞ」

大きく笑って肩をバンバンと叩かれた。

不意に抱きしめらた。

叔父は華奢な体の癖に驚くほど力強い。

俺は、気恥ずかしさを感じると共に、胸に熱い感情も込み上げてきて目を閉じていた。

つい、この間も会って居たはずなのに、遠い時間を経たような不思議な感覚であった。

目を開けると、いつの間にか横の彼女と話していた。

「じゃ、私はペットを預けているからあの子の様子見と明日の用意をするから、今日はここでお別れね。また明日」

彼女は叔父からボルボのKeyを預かり

にこやかな笑顔を残して緑色のボルボに乗り込んだ。

手慣れた操作でエンジンを掛ける。

叔父の荷物は手に持っていたボストンバッグが1個だけのようだ。

俺と2人並んでいる脇を、ボルボは横切る。

運転席のウィンドウを開けて彼女は

「have a nice trip!」

陽気な声で笑顔を残し気持ちよく去っていった。

俺と叔父が、これから敵さんの人形が待ち構えている場所に行く事を茶化したのだ。

「さて、だいたいの話はナカダイラ君から聞いている。これから八王子に向かうけれど飯は食ったか?」

叔父はボルボを見送って此方を振り向いた。

ポルシェのKeyを人差し指でくるくる回している。

いつの間にかボルボのKeyと交換していた。

あぁ、今日はポルシェを乗る日では無いな。

「叔父さんは?食べたの?」

くるくる回るKeyを恨めしそうに見つめながら言った。

「大丈夫だ。時間も無いから早速行くぞ」

叔父は大股で歩き、ポルシェのドアを開けるとリアからドライビングシューズを取り出し履き替える。

フロントのトランクを開けて、置いてあった荷物の中身を確認していた。

独り言か「よし、よし」と確認し、こちらを見ずに手招きをして俺を助手席に乗るように促した。

インディ・ジョーンズの帽子は後部座席に投げ込んだ。

完全にいつもの叔父のペースだ。

懐かしくってニヤついた。

■■■epilogue■■■

「いけ!いけー!かまうな!全開で駆け抜けろ!」

助手席で叔父が叫ぶ。

折角ポルシェに乗れたのに、結局はこれだもんな。

俺はもう何も驚かなくなりステアリングを握りながらニヤついた。

……

八王子に向かう高速インターを降りずに料金所に向かった。

そこには、古来から影で日本を守る集団の人間が手引をしてくれた。

難なく叔父の焼かれたガレージハウスに侵入し目当てのブツを手に入れポルシェに乗り込む時

「おまえが運転しろ」

少年のようなイタズラな笑顔をした叔父はKeyを俺に向って投げた。

「4点ベルトを付けろ」

と、言ったまま叔父もベルトを器用に手早く装着し、鞄から出してあったノートパソコンのようなモノをカチャカチャしだした。

モニターを見ながら此方も見ずに、行き先を告げられて…もう一度聞き直した。

日本人が入れるのか?

ま、叔父だから大丈夫だろうな。

車内に叔父の好きな昔の歌手「ロバート・パーマー」のアルバムの「Riptide」が流れる。

スローテンポのバラードが場違いだが気に入った。

時速180キロ、国道16号線の大きな通り。

ポルシェのエンジンがいい音を出す。

フロントガラスの風景はビュンビュンと異常な速さで後方に流れる。

後方から赤色灯を回し、ハイビームで追いかけてくるパトカーは2、3台どころでは無い。

おまけにヘリが頭上からサーチライトでポルシェを照らしてくれている。

完全にハリウッド映画だな。

バラードのBGMが何故か心地良い。

ニヤつく。

ポルシェにぶつけようとパトカーが追いすがる。

このポルシェは無敵だ。

運転が楽しい。手足のように操れる。

前方を塞ごうが追いすがろうが、掠りもさせない。

バラード音楽を流しながらポルシェは緊張感無くスイスイと気持ちよく泳いでいく。

駄々広い国道16号線が右に大きくカーブする。

アレが始まっているので対向車やバイク、人が見当たらない。

信号も全部青だった。

時速200キロからギヤを5速から3速に落としトランクションを掛けながら130キロで右折した。

タイヤがグリップし大きな悲鳴を上げる。

ポルシェはブレーキングが奥まで取っても安定している。

10台以上に増えていた後方のパトカー達は大きく離れた。

しかしキリが無い。

3車線の広い道路をサーチライトが眩しく照らす。

時速は240キロを簡単に超えた。

ポルシェの調子は絶好調だ。

目の前は3車線の高架。

高架のてっぺんは左曲がりの3車線の下り坂だ。

高架の登り坂のてっぺんで120キロまで落とした。

エンジンと車体が唸る。

ジャンプして2車線ほど右に飛ばされた。

しかし読み通りに着地した。

4点式シートベルトだから俺達の身体はがっちり固定されているので問題ない。

「よしよし!上手くなったな!」

叔父がモニターを見ながら叫ぶ。

ラリーカーのナビゲーターだな。

ニヤけた。

「ここだ!第2ゲート!あの信号を右折!サイドを使ってリアから突っ込め!」

昔よく練習させられたアレだ。

信号機が迫ってきた。

速度150キロからフルブレーキを入れた。

タイヤから白煙が大きく上がり車内もきな臭くなる。

2速に叩き込み、40キロまで落とし大きく減速した。

間髪入れずサイドブレーキを引いてリアを降る。

ステアリングでカウンターを当ててスピンを防ぐ。

そのままバックギアにぶち込んでポルシェは後ろ向きのまま米軍「横田基地」のゲートに突っ込んだ。

車内はエンジンの焦げた匂いとタイヤの匂いが飛び込んでいる。おまけに白煙で前が見にくい。

タイヤが全てパンクしホイルも割れて壊れているはず。

ボティもボロボロだ。

残念ながらポルシェは廃車になるくらいに壊れてしまった…。

ゲートの2重バリヤーが車両の侵入を防ぐ為に作動したのだ。

速度が落ちたとは言え物凄い衝撃だった。

ロールゲージとシートベルトのお陰で俺達は無事だ。

ロバート・パーマーの渋いバラードがまだ流れていた。

運転席のドアが壊れる勢いで剥がされた。

ここは日本ではなく米国だ。

パトカーもヘリも居なくなったが、横田基地のサーチライトに照らされ、自動小銃を構えた兵士が周りを囲んでいる。

手を差し伸ばされ引っ張り上げられフルバケットシートから引き起こされた。

ごっつい手は叔父だった。

サーチライトの逆光で叔父が良く見えないが力強い声が響く。

「アキラ!

これから

南極に行くぞ!

壁を超える!

そこから月へ行く!」

俺はもう驚かなくなり口元だけがニヤけて頷いた。

■■■ EPISODE1 END ■■■

EPISODE2 第1話
https://note.com/bright_quince204/n/n3abf77378193

















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