野墓咲

主に短編小説を載せます。 大体ホラーです。 二万字を越える越える小説については、(中編…

野墓咲

主に短編小説を載せます。 大体ホラーです。 二万字を越える越える小説については、(中編)とタイトルに記載するので、時間があるときにでも読んでいただけたら幸いです。 好きな作家はリチャード・バックマンとハーラン・エリスン。 好きな漫画は「ジョジョの奇妙な冒険」です。

最近の記事

  • 固定された記事

見えざる者の家(短編ホラー)

その日は太陽が壊れていた。誰も彼もが災害の如く降り注ぐ陽射しに打ちのめされて茫然としていた。亡霊のような人々の群れの中で、黒田は生臭い匂いのする自分の汗をハンカチで拭きながら思わず呟いた。 「こんな日に外に出るなんて、正気の沙汰じゃない」  その日は休日だった。黒田は部屋でクーラーを点けながら昼寝をする事もできた筈だった。それなのに、わざわざ外に出て剥き出しの殺意を向ける日光を浴びているのは、5日前に届いたメールのせいだった。 「久々で突然こんなメールを送り付けてすまな

    • 赤ずきんと俺物語               

      注:この話は赤ずきんと俺物語プロローグの続きになります。 第一話 グリズリー・デイ 目を開けた途端、降り注ぐ日光が網膜に刺さって俺は呻き声をあげた。 もうとうに日は上がっていた。 目覚めの気分は最悪だった。 悪いジンでも喰らった後みたいに頭がガンガン痛むし、身体の節々も痛い。 そういやじっちゃんも「年を取ると岩棚で寝るのはきつい」って言ってたっけ。 俺も死へ近づきつつあるって訳か。やだやだ。 俺は体を起こして、背伸びをした。 寝起きの体調こそ悪かったものの岸壁から見上げる

      • 「スイーツに堕ちよ!」とハーレクインは言った。                   第二話「保健機関」

         愛国党が結成されたのは、2055年7月15日。 その歴史は日本が二度目の手痛い敗北を喫した翌年、中国の占領政策のもとで幕を開けた。  誰もが占領軍に従属する中、愛国党は抵抗を続け、国民たちから絶大な支持を受けた。 結成から5年後には支持率が90%を越えた。占領軍は情報操作を試みたが、あまりに支持が強く、誤魔化しが効かなかった。占領軍がでっちあげた罪状により党首が投獄されると、各地で反乱が勃発した。  そして結成から7年後の2062年。遂には占領軍が日本から撤退した。愛国党の

        • 赤ずきんと俺物語               プロローグ

           目を覚ますと、銃口が俺を狙っていた。  銃口の先には赤いスカーフの娘がいる。あどけない顔をしているが眼つきは狩人のようだ。 そういやあ、死んだじっちゃんがよく言ってたっけ。わしらにとって一番の天敵は人間だ、てさ。 「これから、あなたを殺すわ」  小さいお口から出てくるにしては随分と物騒な言葉だった。 「好きにしろよ」  実際、そう言う他ない。まだ意識はもうろうとしているし、手足はベッドに縛られている。おまけに鼻の先にはごつい散弾銃だ。本当はお嬢ちゃんに扱えるしろもんじゃない

        • 固定された記事

        見えざる者の家(短編ホラー)

        • 赤ずきんと俺物語               

        • 「スイーツに堕ちよ!」とハーレクインは言った。                   第二話「保健機関」

        • 赤ずきんと俺物語               プロローグ

          「スイーツに堕ちよ!」とハーレクインは言った                  第一話「コカ・コーラ事件」

           これから語られる話はいわゆる革命の話だ。  革命とは国家に向かって放たれた一発の弾丸だ。  その弾丸のもたらす効果は不可逆であり、破壊されたものは二度と元には戻らない。 ある男によって放たれた弾丸はこの国を変えてしまった。 男の名はハーレクイン。 自ら道化役者を名乗るその男は、異端者であり、革命者であった。 また、アナーキストであり、愛国者でもあった。 一部の命知らずの民衆は彼を英雄と称えた。 だがその破壊の結果について話す前に、まずは始まりについて話さねばならない。  

          「スイーツに堕ちよ!」とハーレクインは言った                  第一話「コカ・コーラ事件」

          花男(僕とおばあちゃんの話)

          二〇一二年の四月の初旬。僕は祖母の手伝いで桜堤公園に来ていた。 桜堤公園は福島市中心を流れる阿武隈川に隣接する公園で、春になるとソメイヨシノが一斉に咲き、辺りは花見客で一杯になる。 そんな四月の最初の週の日曜、公園で祖母が神主を務める神社の祭りが行われるのだが、前年度はあの大地震のせいで中止にせざるを得なかった。 今年の祭りも中止すべきだと祖母は考えていたのだが、祖母の意向を知った町長が二月の中頃、祖母に直談判しにきた。 「こだ時だからこそやっべきだ」  額を畳に押

          花男(僕とおばあちゃんの話)

          サイレン(こんな夢を見た)

           サイレンが聞こえて目を覚ます。 何とも不安になるようなあの音。 何かをせねばならないが何をしたらいいか分からない。  暫く布団の中でサイレンが止むのを待っていた。身の置き場が無い気がして寝返りをうったりしていると、本棚の上の時計が目に入った。 暗い部屋の中で、夜光針が僅かに光っている。1時35分だった。僕は布団から跳ね起き、部屋の電気を点けた。 間違いなく、1時35分だった。と言う事は、これは何時ものサイレンでは無い。ひょっとして、何か大変なことが起こったのかもしれない。

          サイレン(こんな夢を見た)

          列車(こんな夢を見た)

           波飛沫を浴びるすれすれの海岸沿いを、私の乗る列車は走っている。  列車を呑み込まんばかりの大波がやって来ては、海岸沿いの大きな岩場にぶつかって、列車を打ち砕くような轟音を立てる。 私のすぐ後ろでは、美しく穏やかな海の景色を走るこの列車の姿を映したポスターが、気まずそうしている。 私の実家は日本海側の港町の一つなのだが、私はポスターに映っているような、日本海の美しくも穏やかな景色を殆ど見た事が無い。晴れの日は美しい景色が見えるとポスターは謳っているが、私の見る日本海は何時も荒

          列車(こんな夢を見た)

          冥土(こんな夢を見た)

           薄暗い闇の中を私は裸で歩き続けていた。  湯桶を持っているから風呂に入りに来たのだろう。  とにかく私はひどく疲れていた。全身が風邪の引き始めのように怠い。  道の左右にある灯篭の僅かな灯りが床石に反射して、緑とも青ともつかぬ曖昧な色でぼうっと光っている。  突然、何処からか烏の鳴く声が聞こえた。それはやけに胸を打つ、恐ろしげな声だった。私はその身を守るように身体を縮こませた。  暫く歩いていると、再び烏の鳴く声が聞こえた。今度はハッキリと方向が分かった。前方からだ。  

          冥土(こんな夢を見た)

          笑うロボット(短編ホラー)

          「そして時は巡る」  暗い地下室でロボットは囁いた。  曇天模様の空の下、黒のミニバンがガタガタと音を立てて細い山道を上がっていく。この辺りの集落は殆どが空き家で、道を通る車は限られている。誰かがそれを目撃していれば、直ぐに異変に気付いただろうが、その日は天候も悪いため、畑に出ている人間はいなかった。  山道の先にはダムへ繋がる道がある。その一つ手前の細い私道にミニバンは入った。市道には家が並んでいて、どれも人の気配がない。車は三軒目の家の駐車場に入った。  中から降りてき

          笑うロボット(短編ホラー)

          大雪の日(僕とおばあちゃんの話)

           冬は苦手だった。特に雪は大嫌いだった。  TVドラマで観るように、しんしんと降るのなら趣があって良いと思うが、この町の雪は暴力的な荒れ方をする。轟々と吹きすさぶその姿は台風と変わらない。風が殴りつけるように窓や壁に当たり、朝起きると窓が雪で埋まっていたりする。  そして、酷く冷たい。  私は雪に触れると、心の熱まで奪われていくように感じる。  そんな雪で覆われる冬は、自分が死に向かって行くのを感じる。雪に埋もれていく町を見ていると、この町そのものが雪によって全ての熱を奪われ

          大雪の日(僕とおばあちゃんの話)

          新聞記事(こんな夢を見た)

           古い木造建築のその廊下は、昼間と思えない程に暗く、窓は何処にもない。天井にある蛍光灯は、光が弱くて全く用をなしていない。おまけに所々で切れた蛍光灯をそのままにしている箇所があるから、その部分は最早完全な闇であった。  闇を歩くのはあまりいい気分では無いから、足早に通り過ぎようとするのだが、長く続いているその床は強く踏み込むと呻き声の様なものを立てるため、余計に気分が悪くなる。  振り向けば真っ暗な闇があるばかりで、自分がどれほど歩いたかもわからない。私は果たしてから一体何処

          新聞記事(こんな夢を見た)

          獣の部屋(こんな夢を見た)

           気づいた時には、私は家の和室で一人、何をするでもなく座っていた。  何故か部屋の中は真っ暗で電気も点いていない。部屋の中は生暖かい空気に満ちている。  家中がしいんとしていて、物音一つしないし人の気配もない。半開きの襖の向こうのガラス窓からは、淡い群青色の空が覗いている。夜明け前のような気もするし、日暮れ前のような気もする。  1階建ての隣家の屋根がちらりと見えるが、そこからも人の気配を感じない。日暮れ前なら家の前の通りは、帰宅帰りの車が騒がしく往来しているはずだから、や

          獣の部屋(こんな夢を見た)

          花火(こんな夢をみた)

          夜勤明けに寝ていると、ふと異様な不安を感じて目を覚ました。何だかわけも無く怖い。起き抜けの頭でその不安の正体を探ろうとするが、上手く頭が働かない。 時間を確認しようして、本棚の上の時計が無くなっている事に気づいた。確かにあそこにあったはずなのだが、何処に行ったのだろう? カーテンから漏れた茜色の光の寂しさを見るに、きっと今は18時を越えた辺りだろう。夕暮れの明かりが薄暗い部屋をぼうっと照らし、カバーの無い本達が散乱する本棚に不気味な陰影を作っている。 僕は今日も夜から仕事であ

          花火(こんな夢をみた)

          思い出す(短編SF)

           私には昔の記憶が殆どない。  特に幼少期の思い出はさっぱりである。 流石に学生時代の友人の名前くらいは憶えているが、その他の家族の思い出等は何も覚えておらず、友人との思い出なども点々と離れ小島のように繋がりなく並んでいるだけだ。友人や家族にはその辺どうも薄情な奴と思われているようである。  妻には「私たちの結婚式の事は憶えてるわよね」などと言われる始末だ。  正直なところ、それすら曖昧である。  仕事上では特に問題はなく、取引相手の名前や顔はハッキリと覚えていられるし、仕

          思い出す(短編SF)

          予知能力の正体(「デビルズアワー 3時33分」感想)

           配信日:2022年10月。  全6話。  主演:ジェシカ・レイン  製作総指揮:トム・モラン ソーシャルワーカーのルーシー・チェンバーズは何時も午前3時33分に悪夢とともに目を覚ます。そんな中、担当していた家庭で殺人事件が起き、それから彼女は凶悪事件に巻き込まれるようになる。  と、言う話なのですが、このドラマ、最終話まで何が起こっているか分かりません。  このルーシー、その殺人事件を予知しているんですが、それが予知と言うより、「実際に体験したかのような記憶」としてルー

          予知能力の正体(「デビルズアワー 3時33分」感想)