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即興小説 3つのお題13 青い地図

 僕らはじっと川を覗き込んでいた。その横を、とんぼがツイーッと2、3羽飛んできて、また飛んで行った。
「……」
 川の流れを見ていると、なんだか無心になれる。いろんな悩み事が水と一緒に流れていくような気がした。
 僕とたっちゃんは学校の帰りに、途中の桟橋でよく話をしていた。ここに来る前に、僕の家の畑で成っていたきゅうりを2人でポリポリとかじる。冷やすともっとおいしいけど、採れ立てだからそのままでも充分おいしかった。

「このきゅうり、うまいな」
 たっちゃんがぼそっと言う。
「だろう? ばあちゃん、野菜を作るのがうまいんだ」
「へえ、すげえな」
 しげしげと野菜を見つめた。

「自家製だと、きゅうりって丸まったりするもんなんだけどこれはまっすぐだな」
「だろ? なかなかできないんだよ、こんな風に。
水分や肥料が足りないと曲がるらしい」
「なるほどねえ」
 たっちゃんは腕を組んだ。

「俺も何か上手くできる才能があるといいんだけどな」
「──そうだな」

 僕らは中学2年生だった。そろそろ進路を決めなくてはいけない時に差し掛かっている。
「俺、天文部に入りたいんだ」
 意外な言葉を聞いて驚いた。
「たっちゃん、星に興味あるんだ」
「うん」
「知らなかった」
「言ってなかったからな。天体望遠鏡も持ってる」
「へー」
「将来は天文学を学びたいんだ。みんながまだ知らない星を発見して、それに名前をつけたい」
「そんな事ができるんだ」
「第一発見者ならね」
「そっか…」

 僕はまた川面を覗き込む。ゆらゆらと、歪んだ自分の顔が見えた。たっちゃんもちゃんと進路の事を考えていたんだ。何だか僕1人だけ置いて行かれるようで、焦りを感じる。

「僕はまだ何も見つけられない」
「まあ、俺もまだ全然調べてないから」
と、17時のチャイムが鳴る。

「そろそろ帰るか」
「ああ」
 僕らはまた歩き始めた。分かれ道で手を挙げて、自分たちの家へと戻る。
 自分の得意なことって何だろう。
 そんな事を考えながら「ただいまー」と玄関のドアを開けた。

 以下の三つで即興小説を書く
「きゅうり」
「桟橋」
「天文学」

  了

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