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詐欺にあった父、崩壊する家庭(思春期)

皮膚科医師であった父は、病院勤務を経てから

民間の美容クリニックで執刀医として勤務、

「もっと自分の美しさに自信を持って輝く女性を増やしたい」と

日々仕事に精を出していました。ですが父は、

「雇われの身ではやはりベストは尽くせない」との考えで

自分の店を出すことにしました。

最初こそ独立への不安で家族や親戚にも反対する人はいましたが、

父の努力の甲斐あって僕は勉強をして私立中学に進学する環境を

もらうことができました。親に対する子どもらしい反抗心や

無茶な遊びなんかもあってよく怒られていましたが、

それはまあ健全な成長の範囲といえるでしょう。

家族は僕の中学の入学祝いに、

かわいいトイプードルも新しい家族として迎えました。

しかし運命の流れが決定的に変わったのはちょうどそのころでした。


ある日、父の帰りがやけに遅いと思って家族で心配していたら、

いままで見たことのないくらいやつれた顔で

生気のない目をして背中を丸め、肩を落とした父が

ゆらゆらと帰ってきたのです。

その様子に「お父さん、なにかあったの!?」と聞くと、

「だいじょうぶ、だいじょうぶ...おまえはなにも心配するな...」と

ご飯も食べず、ひとり自分の部屋にのっそりと入っていきました。

いつも明るく、しょうもない親父ギャグをかましながら

毎日笑顔で過ごしていた父のその姿に僕は大きなショックを受け、

どうしていいかもわからず、混乱しました。


そしてその日を境に父はしばしば冷たく据わった目をするようになり、

いままでではありえなかったような

激しく感情的な怒り方をするようになったのです。

優しかった母も露骨にイライラしたり、

突然泣き出したり怒り出したりするようになり、

学校生活がうまくいかず悩む兄と両親の口論も日常化し、

そして兄の言動は日々常軌を逸したものになっていきました。

突然叫び出して壁を蹴りつけて穴を開けたり、

目を白黒させながら柱に頭を何度も打ち付けたり。


僕が学校から帰ると家には毎日違う傷や穴があり、

壊れたものが散乱し、怒号と鳴き声が飛び交う家庭になっていました。

祖母は部屋に篭りっきりで必要最低限の家事の時以外は出てこず、

愛犬は居間の片隅で震えている。

家族のだれもがおかしくなり、なにが正常でどこがおかしくなったのか

もはやわからなかった僕は次第に家族とのコミュニケーションを

拒絶するようになり、朝は黙って家を出て、

帰宅すれば最低限の食事だけして自室に逃げる、極力外で友達と過ごし、

できるだけ家には帰らないという毎日になりました。


それでも家族が僕の部屋に入り込んでくることもあり、

そういうとき家族を拒絶する僕は

父や母、兄までもを激昂して殴るようになり、

使ったこともないような汚い言葉で彼らを罵るようになっていました。

その心はどんどんと荒んでいたのです。


そしてある日、母が神妙な面持ちで僕にある書類を持って来て、

泣きながらいままでの、僕の知らない出来事をつらつらと話し始めました。


聞けば、父は開業してから経営面で手を組んでいたパートナーに

裏切られ、膨大な額の借金を背負わされていたと。

そして、それは法廷で追求できる犯罪ではないと。

そして、今後の僕の学費も払えるかわからず、

僕は努力して入学し、高校まで一貫で卒業するつもりだった学校を

辞めざるを得ないことになるかもしれないと。

当時世間知らずの13歳だった僕はそのとき見せられた関連資料の意味を

すべて理解することはできませんでしたが、

少なくとも父が支払わなければいけないであろう金額は

数千万円に達していたこと、それが原因で僕は生家に

地獄絵図を見ることになったことを理解しました。


結論から言うとその後両親の離婚協議が進んで

僕が18歳のときに離婚することになるのですが、

すべてを聞いた13歳のそのときから、強く思うようになったのです。


「父は家族が嫌いだから怒っていたわけじゃない。

母が嫌いでケンカしていたわけでもない。ただ心に余裕がなくなっただけ。

その原因は、お人好しで人を簡単に信用して騙されたから。

だから、大切な家族を壊した。他人なんか信じちゃいけない。

世の中やるかやられるかなんだ。やられないためには強くならなくちゃ。」


そこで僕は、「だれにも負けない強さとはなにか」と

子どもなりに深く深く、考えるようになりました。

そして出した結論は、「暴力的に強くあること」でした。

小学生のとき、友達をかばって隣の学区の中学生5人組とケンカして、

ボコボコにされたのを思い出しました。

理不尽な学校の先生にも、叩かれたら勝てないことはわかっていて

悔しい思いをしたこともありました。


聞けば父を騙した男は一見すると人畜無害の優男で、

資格や学歴も申し分のない切れ者だったそうです。

だから僕は幼いながらに思いました。

「司法や警察が24時間人間を守れるわけじゃない。

そういうやつは犯罪はしていないから自分は安全だと思っている。

法で捌けぬクズを、人の人生を潰して利益を貪るような頭の切れる悪者を

叩き潰し身を守るには、腕っ節が強ければいい。」


当時は本気でそう考え、その男の名前も知っていたので

「いつか出会ったらこの手で引導をわたしてやろう」くらいの

意気込みで体を鍛えはじめ、チームワークも磨くために

ラグビーやアメリカンフットボールといった激しいスポーツに

好んで取り組むようになったのでした。



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