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届かぬ想いを乗せた白球(2)

現在、3回の表のマウンドに私は向かっている。
なんと、現在のところスコアーは、0ー0でお互いまだノーヒットである。予想外の展開に相手側の監督の檄を飛ばす声が投球練習をしているマウンドの私の所まで聞こえてくる程、相手の監督さんは
エキサイトしている。「あの程度のピッチャーも打てないのか?」と言っている声が聞こえて来た。
私は、心の中で《失礼だなぁ~》と思いながらも
予想外の展開に私は驚いていた(笑)

一回の表が終わった時点でキャッチャーの久保君に、「ストレートはどんな感じ」と聞いたら「なかなか良い感じでいつもより力がありますよ」という嬉しい返事が帰って来た。ひとまず三人で終わらせた事にホッとしていた。

今のところ緩急を使いながら上手くかわせてはいるが、このままで済む訳はない、とにかく5回までは投げきりたい。うちの監督もそう思っているはずだ。

相手のチームが私を攻略出来てないのは恐らく緩急をつけたピッチングとドロップ気味の落差のあるスローカーブを引っ掛けたりしてるのが原因だと思う。普通のカーブも微妙にスピードを変えたりして投げたりしながら苦心の投球をしている。
だから打てそうでなかなか打てないのだろう。
しかしストレートのスピードが落ちたら恐らく滅多打ちにされるかも知れない。そう思いながら投げていたら、この回も三者凡退で切り抜けられた。三回までノーヒット、上出来である。

うちも三者凡退で四回の表のマウンドに向かう。
打順がひと回りしたのでこれからは要注意である。1番バッターを内野ゴロに討ち取ったのだが
次の打者に高めのすっぽ抜けのカーブを打たれてスリーベースヒットを許してしまった。

ここで監督からの指示で私はレフトの守備位置に変更され、うちの一年生エース勝俣君にマウンドを譲った。もう少し投げさせて欲しかったが、久しぶりに投げてこれぐらい投げれたら上出来だと思うことにした。

その後、相手チームの打線が爆発して終わってみれば10ー0でまたもや惨敗だった。

うちの勝俣君は一年にしては良い球を投げるのだが投げるボールが素直すぎるのかも知れない。
経験を積めば良い投手になるとは思う。
勝俣君と久保君はポニーリーグでやってただけあって他の一年と比較すると別格である。


それからしばらくしてチョットした事件が起こる


練習が終わっていつもの様に山田君と会話をしながら帰り道を歩いていると前に勝俣君と吉田君が歩いていたが、突然建物の陰に消えて行った。
私達は変に思いその建物の方へ行ってみると
何と、二人とも煙草を吸ってるではあ〜りませんか
私と山田君は、まさかの光景にしばらくの間言葉が出なかった。

突然、山田君が両手で二人の胸ぐらを掴み、こう言い放った「お前らぶっ殺すぞ、ケンは煙草を辞めて一生懸命やっているのにふざけるな」と…

えっ!そっち?野球部に迷惑かかるとかの話しじゃないの?以外な展開に意表をつかれた気持ちだった。山田君が尋常ではなかったので私は、間に入って「俺の事はいいから、落ち着こう、気にしてないから」と山田君をなだめた。しかし、怒りはおさまらず、大声を張り上げ「ケンに謝れ」と二人は私に深々と頭を下げ詫びをいれてくれた。
私は「もう、いいから帰んな、でも、お前らが煙草バレたら野球部の皆に迷惑がかかるから気を付けろよ」と釘を刺しておいた。

山田君《ありがとう、めっちゃ嬉しかったと心の中でそっと呟いた》でも山田君 《俺は辞めた訳ではなく禁煙しているだけなのだよ…》とまた、心の中で呟いた。

この前の抽選会で相手も決まったし大会まであと10日たらず、1回戦突破は難しいとは思うが
私は、夏の甲子園に繋がる県大会にたずさわれる事に大きな意味があると考えている。だから
夢には届かないと思うのだが、しかし、届かぬ思いを乗せた白球に思いをこめて精一杯のプレーをしたいと思う。夢の欠片を拾い集めるように…

CHMISTRY / PIECES OF DREAM 2001年



♣最後までお付き合いいただき
           ありがとうございます。

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