【創作童話】フェルトねこのひなまつり
みいちゃんのおへやには、おひなさまがありました。
おだいりさま、おひなさまと3人かんじょの3段かざりでした。
みいちゃんが生まれたときに、おばあちゃんが買ってくれたものです。
みいちゃんは3歳になったとき、デパートでひな人形の8段かざりを見ました。
何回もお店を通るたびに、みいちゃんは大きな8段かざりをすっかり気に入って、
「いいな、いいな!」
と言うようになりました。
そこでお母さんは、フェルトで5人ばやしを作ることにしました。
おへやにある、3段かざりのおだいりさま、おひなさまと3人かんじょの下に、フェルトの5人ばやしをならべるのです。
お母さんは、手芸が大好きでした。
フェルトでなんでも手作りするので、家の中には、お母さんの作ったぬいぐるみや小物がたくさんありました。お母さんが作ったフェルトの5人ばやしは、きれいな着物をきて、楽器だってちゃんと持っていました。
お顔は、みいちゃんのすきなねこにしました。
しろいお顔には、ちゃんとおけしょうもしてありました。
きれいにできたので、みいちゃんは大よろこびでした。
それから何年もたって、みいちゃんは小学6年生になりました。
友達が遊びにくる前の日に、部屋にあるねこの5人ばやしを見て、みいちゃんはお母さんに言いました。
「もう 、フェルトねこも古くなったし、かざらないから片づけといて」
その夜‥‥。
みいちゃんがフェルトネコのおひなさまをながめていると、どこからか話し声がします。
どうやらフェルトねこの5人ばやしのようです。
5人ばやしは、それぞれちがう楽器をもっていました。
左から【たいこのねこ】
次が【大つづみのねこ】
真ん中が【小つづみのねこ】
そのとなりが、【ふえふきのねこ】
最後の【うたいのねこ】は、おうぎを持っています。
もちろん、この楽器もお母さんが手作りしたものなので、すべてフェルトで出来ていました。
いちばん左の、たいこを持ったねこは、
「たいくつだなぁ」
と、たいこをならしました。
すると、すぐとなりで大つづみを持ったねこが、
「ぼくは、おだいりさまになりたかったのに」
と言うので、
「おだいりさまは、そんな大つづみ持っているわけないよ」
たいこを持ったねこが言いました。
大つづみのねこが、
「おまえだって、たいこがあるから、おだいりさまじゃないな」
と言い返すと、
「なんだと?」
たいこのねこが、大つづみのねこをにらみました。
2人がケンカになりそうなので、うたいのねこが、おうぎをさしだして止めました。
「まてまて! われわれ5人は、5人ばやしなのだ。この楽器で、もりあげるのがしごとであって‥‥‥」
「じゃあさ、どっちがおだいりさまにふさわしいか競争してみたら?」
ふえふきのねこが言いだしました。
「おもしろそーう!」
と、たいこをもったねこがいいました。
みいちゃんが、フェルトねこたちをこっそりのぞいているなんて、まるで気づいていないようです。
「おい、やめてくれ! われわれは5人ばやしで‥‥‥」
うたいのねこがとめる声なんて、まるで届いていません。
「じゃあ、どっちがおだいりさまにふさわしいか対決だ! たいこVS 大つづみ! それでは、まずはたいこのねこから、はじめ!」
ふえふきねこの合図で、対決が始まりました。「ぼくがおだいりさまになったら、ここにメリーゴーラウンドをつくるよ。」
たいこのねこが言うと、あたりはあっというまに広い草原になりました。
パカパカと音がして、3頭の白い馬が、フェルトねこたちのまわりを並んで走ります。
「うわあ、本物の馬じゃないか!」
大つづみのねこは目をまるくしました。
みぃちゃんも、本物の馬を見るのは初めてです。
たいこのねこは喜んで、さっそく馬にまたがりました。
ところが、馬が急にあばれはじめて、ものすごいスピードで走りだしたからたまりません!
「うわぁ!たすけて!」
あっちへこっちへ、ぐるぐるまわって、
もう少しで大切な桃の木をおってしまうところでした。
たいこのねこは、必死に馬の首にしがみついていましたが、とうとう下におっこちてしまいました。
「こんなあぶないことをするのは、 おだいりさま失格!」
うたいのねこが、おうぎをさしだして止めました。
たいこのねこはガッカリました。
馬からおりると、目がまわって、足がふらふらして、たいこのねこはたおれてしまいました。
すると、草原も馬もあっというまに消えてしまいました。
みいちゃんが心配そうに見ていると、
「次、大つづみのねこ」
ふえふきのねこに言われて、大つづみのねこが前に出ました。
「ぼくが おだいりさまなら、ここをスキー場にするよ」
すると、目の前にまっ白いものが降ってきました。
「うわぁ!雪だ、雪だ!」
と、大つづみのねこは、よろこんでとびだしました。
けれど、ぜんぜんさむくありません。
「おかしいな。この雪、さわってもつめたくないぞ」
「わかった! これ、ひなあられだ!」
ふえふきねこは、白いものを手にとって言いました。
大づづみのねこがつくったのは、ひなあられのスキー場だったのです。
「わーい、 楽しいぞ!」
「かまくらは? あーくずれちゃった!」
大つづみのねこは大よろこびでした。
「ソリもスキーもなんでもできる! つかれたら‥‥‥モグモグ、食べられる。うん、おいしいな」
大つづみのねこは、あまりにもおいしいひなあられを、おなかいっぱい食べてしまいました。
「ちょっと、太ったんじゃない?」
ふえふきねこに言われるまで、気づかずに、食べすぎてしまいました。すっかりまぁるくなったおなかを見て、大つづみのねこは満足そうでした。
なんだか大つづみのねこのまわりだけ、雪がとけたみたいにひなあられがなくなっています。
「おいしかった。ごちそうさま。ふわぁ、もう食べられない。ねむくなっちゃったな」
大つづみのねこは、はちきれそうなおなかをゆらして、その場でゴロンと横になると、グーグーねてしまいました。
「まったく‥‥‥。太ってねちゃうなんて、おだいりさま失格!」
とうとう大つづみのねこも、うたいのねこに失格にされてしまいました。
と同時に、ひなあられのスキー場も消えてしまいました。
みいちゃんは、クスクスわらいました。
「ぼくもおだいりさま やりたい!!」
小つづみのねこが言いました。
「もうこんなことはやめましょう! われわれは5人ばやしであって‥‥‥」
うたいのねこはとめようとしましたが、
「ではでは続いて、小つづみのねこさんどうぞー」
とふえふきのねこが大声をあげたので、小つづみのねこは話し始めました。
「ぼくがおだいりさまだったら、ここにデパートをつくるんだ」
すると目の前に、ビルのように大きな、ひな人形の8段かざりがあらわれました。
真ん中のかいだんは、エスカレーターのように動いています。
「わーい!エスカレーターだ!一度でいいから乗ってみたかったんだ。みんなで乗ろうよ!」
小つづみのねこは、大よろこび!さっき馬に乗って目をまわした、たいこのねこと、ひなあられでおなかいっぱいの、大つづみのねこは、そのまま寝かせておくことにしました。
小つづみのねこと、ふえふきのねこ、うたいのねこの3人は、エスカレーターに乗りました。
みいちゃんも、うしろからこっそりついていきます。
本当にデパートみたいです。
「1かいは、ほうせき売場。2かいは 、おようふく。3かいは、文ぼう具。4かいは、ゲームコーナーと、おもちゃがあるよ!」
小つづみのねこが言いました。
「うわーい!ゲームやろ!」
ふえふきのねこは大よろこびです。
2人があそび始めたところで、うたいのねこは、
「だめだめー!失格!2人とも戻って!これじゃ、みんながあそんでしまうじゃないか」
と言いました。
「あー!わかった!」
と、ふえふきのねこが言いました。
「うたいのねこさんの好きな、デパ地下の食品売り場がないからダメなんでしょ?」
「そんなこと言ってないだろ!」
「知ってるんだからねー。さっきも、こっそりひなあられ食べてたでしょ」
ふえふきのねこが言うと、小つづみのねこも、
「無理だよー。8段かざりに地下なんてないもん」
と言いながら、まだゲームに夢中です。
「だから、そんなこと言ってないだろ!」
うたいのねこは必死でしたが、
みいちゃんは、またクスクスわらいました。
「それじゃ、今度はぼくの番!おだいりさまだったらどうするか、まだ言ってない」
ふえふきのねこが、考え始めました。
「ぼくだったらねー」
ふえふきのねこが話し始めたところで、デパートは消えてしまいました。
おもちゃもゲームコーナーもなくなったので、
「あー!ゲームのとちゅうだったのに!!」
小つづみのねこは、ふてくされてしまいました。
「ゲームより、もりあがることまちがいなし! ぼくがおだいりさまだったら、ここはライブハウスにするよ!」
あっというまに、目の前にマイクとドラムとギターとキーボードが出てきて、りっぱなスタジオができあがりました。
「カラオケも、演奏も楽しめるスタジオだよ。これなら、うたいのねこさんも、おもいっきりうたえるでしょ」
「なに?ライブハウス?とんでもない!」
「どうして? 歌がうたえるのに」
「ぼくらのうたは、そんなのじゃないだろう。ダメダメ!失格!」
うたいのねこは、やっぱりやめさせようとしました。
「えー? どうして?楽しそうなのに」
小つづみのねこは、つまらなそうな顔をしています。
「じゃあ、うたいのねこさんなら、なにするの?」
小つづみのねこが聞くと、ライブハウスは消えてしまいました。「ぼくですか? ぼくなら‥‥‥そうですね。ここは、静かな図書館にします」
「えー!つまんない!」
「そもそも、5人ばやしの仕事というのは、おだいりさまとおひなさまの結婚式をもりあげる役目であってですね。こんなふうに、みんなで遊んでいては、いけないと思うわけで‥‥‥」
「ちがう!!」
ふえふきのねこは、きっぱりと言いました。
「ぼくらはフェルトねこだ!だから、みいちゃんを楽しませる方がいいんだ!」
みいちゃんは、ドキッとしました。
「そうだよ」
馬から落ちて目をさました、たいこのねこが言いました。
「みいちゃんを楽しませるのが、ぼくらフェルトねこの仕事だ」
ひなあられでおなかいっぱいだった、大つづみのねこも起きてきました。
「みんな、どうやったら、みいちゃんが喜んでくれるかを考えていたんだよ」
デパートをつくった、小つづみのねこも言いました。
「ぼくらのアイデアで、みいちゃんが楽しんでくれるといいなーって思ったよ」
うたいのねこは、ハッとしました。
「そうか、そうだったのか。だからみんな、あんなに一生懸命にやっていたのか‥‥‥」うたいのねこは、にっこりと笑って、
「よし! それなら、ぼくもみんなと気持ちは一緒だよ。みいちゃんを楽しませてあげよう! みんなで楽しくうたおうじゃないか!」
「そうこなくっちゃ!」
すると、ライブハウスがあらわれました。5人ばやしは、みんな仲良くうたいはじめました。
ずっと見ていたみいちゃんも楽しくなって、いつのまにかフェルトねこたちといっしょに歌っていました。
ライブハウスでドラムをたたいているのは、大つづみのねこです。
まんなかでマイクをにぎって、いちばん大声で歌っていたのは、うたいのねこでした。
みいちゃんも、いっしょになってうたいます。
その歌声は‥‥‥。
いつのまにか、だんだんめざまし時計のアラームに聞こえてきました。
「みいちゃん、入るよ」
ママの声でした。
「お友達が来るまえに、かたづけるわよ」
ママは、フェルトねこのおひなさまの前で、大きな袋を広げました。
「もう、片づけていいのよね。ねこの5にんばやし」
そう言いながら、フェルトねこたちを袋につめ始めました。「あ、ダメ。 しまっちゃ!」
みいちゃんは、急いで止めました。
「あら、きのうはしまっていいって言ってたじゃないの」
「もうちょっとかざるの!」
みいちゃんが、自分で袋からフェルトねこを取りだしたので、
「まぁ、みいちゃんがかざりたいのなら」
と、お母さんも言いました。みいちゃんは、フェルトねこたちを元の場所にかざりながら、みんなががんばって楽しませようとしてくれたことを思い出しました。なにより、
『みいちゃんのために』
と言ってくれたことがうれしくて、クスッと笑いました。そして、
「来年は5人ばやしのだれかが、おだいりさまになってるかも」
そんなことを考えていました。
おしまい
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