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追放ざまあ系主人公なエンジニアの話

システムエンジニアをしている。
システムエンジニアというと、クリエイティブな仕事だというひともいるし、下請けのブルーカラーだというひともいる。

正解は両方。

所属会社と本人のスキルレベルと本人の適正により、かなーり仕事も給与もまちまちである。
私? 多分真ん中より少し下くらいで、代わりに割と育児関係で融通がきく方針の会社で、何でも屋をしているそこそこいるタイプのシステムエンジニアである。レア度でいうなら、都市部のリスかタヌキくらい。いるとこにはウジャウジャいるけど、全体としては不足気味といったところだろうか。いても目立たないけどいないと環境がやばい、ともいえる。

色々とやばい話も多い業界だが、ある程度突き抜けたスキルがあると対人能力や性格や見た目に難があっても「天才型なんだろ」とスルーされるため、高スキルほど割と自由に生きている業界でもある。
その中でも『なろうの追放ざまあ系主人公かよ』と思った高スキル強メンタルの伝説の主がかつて同じ職場にいたことがある。

とあるシステムの開発と保守をしている現場だった。基本パッケージなのだが、希望するお客様にはデザインからサービスまでなんでもカスタムしてご提供しますというのがうりであった。企業むけのサービスなので知名度は低いが、導入しているところはかなり多かったように思う。
規模の大きい仕事なので、弊社ふくめたくさんの中小企業が参加していたのだが、そのなかの小さなソフトウェアハウス(ソフト開発を専門にする小規模開発会社。ゼロ年代には沢山あったが、今生き残っているのはだいたい数人の凄腕プログラマー集団でなりたっているプロ集団)に、やたらとこのシステムに詳しいひとがいた。古参にしても詳しすぎる上に、なぜがそのシステムの大元を所有している会社のひとすらペコペコしている。
謎である。
謎すぎて、また別のソフトウェアハウスの社長と話してるときに、「何者なんですか?」と聞いたところ、「あの人は独立系プログラマーの夢だよ」とこんな話を語られた。

むかしのこと。その人は今やっているシステムを作った会社の社員で、このシステムのもとになるパッケージを開発し、会社は大儲けした。
それでその人は「自分の給料もあげてほしい」と交渉したが、会社はボーナスを一時的に上げただけで、その人の望んだ固定給を、払わなかった。
怒った彼は、最低限の納品物をのぞき、個人的な覚書やノウハウをすべて葬って、会社を辞めてしまった。
そしてしばらくして、会社は大混乱に陥った。
彼が握っていた情報はあまりにも多く、また彼は優秀で他のスタッフのフォローもしていたので、それがなくなって次々とぼろが出始めたのだ。
このままでは仕事が回らない。
会社が大損害を覚悟したとき、はじめて聞く名前のソフトウェアハウスがコンタクトを取ってきた。
そのソフトウェアハウスの社長の名前はやめた彼だった。
「そろそろ俺が必要になったころじゃありませんか?」
彼は社員時代に提示した給料の倍の額を払うなら、派遣として働くと宣言した。会社はその条件をのみ、なんとか仕事は持ち直したという。

「だから、彼は生ける伝説なんだよ」
「メンタルと自分の能力への信頼が強すぎて、聞いてるだけで胃がギリギリしてきますね」
やる方と受ける方も気まずさマックスだったであろうことは想像に難くない。
「そして彼が本社に居座るので、気まずくてかつて彼に報酬を与えなかった上司はよそに移動した」
「強すぎる」
昔話なみにきれいにオチがついていて、こわい。
ちなみに弊社も、同じ会社で現場を大切にしないとキレてその会社に反旗を翻した社員が初代社長のはずなので、離反が日常茶飯事の会社なのかもしれない。
はやく悔い改めてほしい。
しかし、そうやって辞めた社員の会社と平然と取引してる時点で、悔い改めることはまったく期待できそうにない。

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