黒という色

黒のイメージはあまり良くないことが多い。黒=暗いとか闇とか使われかたも、白星に対して黒星とか暗黒とか黒塗りとか。でも黒は色の一つの種類であって黒そのもの自体は闇ではないし、暗いというわけでもない。そしてそんな黒という色の範疇のなかでもいろいろな黒がある。絵具の名前でいうと油彩ではアイボリーブラック、ランプブラック、ピーチブラック、ブルーブラックなどがある。そして透明水彩絵の具でもアイボリーブラックやランプブラックなどがある。油彩、水彩いずれの絵具もメーカーによって色が微妙に違ったりすることもある。そして東洋的なものとしては墨であったり日本画で使う絵具も当たる色は岩黒、純黒、純黒朱などの他に松煙墨などなど絵具の種類はいろいろだ。

白黒で描き始めた頃に、どんな黒を使おうか決まってなかったのでそれまで使ったことのあった墨や岩絵具の黒など手元にあったこともあったものから使ってみることにした。頭で考えるよりも使っているうちにどんな黒が自分の表したいものに適当なのか使ってみなければ分からないところもあるので使って絵を描きそれをみて思ったこと考えたことを検証しつつ進める。色は隣に使われた色やその他の状況で見え方が変わったりするのでやってみなければわからないところも大きかったりする。それは予備校や大学で絵の勉強を始めて気がついたことでもあった。そのころは制作と実験は紙一重というかほぼ同一のものと言っても良いくらいの感じで、思い返してみると私に取ってはそんな時期が一番楽しかったりする。色々と使って試した中で、自分のとっての一番しっくりくる黒の像が見え始めた。

色味のない黒、情緒を廃した黒、反射しない黒、そんな黒が制作するときのベースとして黒を考えていた私にとってはとてもふさわしいものに思われた。そしてもう一つの相棒として使っていた白も同様にどんな白が相応しいか黒を探りながら白の素材についてもずっと探ってきた。そして、自分の表したい状況に適した素材が決まり始めたら今度は、それではその素材を使った実験とも言えるような制作が始まった。色々と試しながらやってきた中で自分の納得できるようなものや自分の想像以上のものも生まれてきて。そんな中で自分にとっても失敗が少なくなってきて感じたのがお決まりになってしまってきたのではないかと思われるようになった。

それでは始めた頃にかえってもう一度、白と黒を選んだ頃のことを思い返して、その選択がよかったのかということを改めて考えてみることにした。白と黒を選んだ良さがあったことも事実で思った効果も出てくれた。ただ、今の自分には白と黒がお決まり普通になってしまって今の自分にとってリアルではない感じもしてきた。始めた頃と周りの状況も世界も色々と変わって今の自分にとって求めるものも変わってきたということだろうか。始めた頃に求めたものの根底にあるものは変わってないと思うのだが、前に感じたテーマとしての「光」というもの言葉がなんだか空々しく思うようになってきたこともあっての問題もあると思うのだが、掴んだと思ったものが指の間を抜け落ちる砂のように手の中に残ったものは「空」となってしまったように思えて仕方がなかった。そして掴んだと思ったものが手のひらを広げたらそこにあったものについても考えてみようと思えた。自分にとっての決まりごとというのが、本当にそうなのかということを疑ってみる、そんなことも含めてまずは自分にとっての当たり前ということを今一度考えながら実験、制作して、検証確認してみようと思った。

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