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道立小黒内高校 3年イ組「三銀さんが泣いている」
「三銀さんが泣いている」
道立小黒内高校の校門の脇に、地元の名士じゃないか?と噂される「三宮銀三郎」の銅像がある。歴史も由来もこの人がいったい誰なのかも知らないが、小黒内高校の生徒達は、親しみを込めて彼を「三銀さん」と呼ぶ。
まるで三つ子の「金さん、銀さん、銅さん」三姉妹のようだが、女性では無い。
河合一誠校長は、毎日、三銀さんの掃除から仕事を始める。
今日も、かわいいアヒルの描かれたお気に入りのタオル、アヒル色のバケツ、アヒルモップ(それってなんだか知らないけど)の三種の神器を持って校長は彼の前に立った。
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「あれ?三銀さん。今日は泣いているのかい?」
毎朝、愛情込めて磨く三銀さんが、普段と違う雰囲気を醸し出している。他の誰にもわからない三銀さんの喜怒哀楽を、校長は理解していた。
「泣く時も前を向く、三銀さんらしいね。」
校長は、三銀さんをいつもより丁寧にそして優しくいたわるかのように掃除した。
「さ、今日も一日、かわいい生徒達と遊んじゃうぞ〜!」
三銀さんの前を通る通学中の生徒たち。彼らは三銀さんの前で、くだらない、でも彼らにとってはとても大事な会話を惜しげもなく披露する。三銀さんを気にしてないだけだけど。
本日の体育教師井上の足の臭さ予報、桜子ちゃんのドジランキング、校長のアヒルコレクションを国立博物館が狙っているという噂、どれもこれも彼らにとっては重要で決しておろそかにできない会話である。
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「三銀さんに敬礼ぃ!」
小黒内高校防衛隊隊長と隊員の二人が、三銀さんに敬礼をする。
「さーんぎーんさんっ!ラブ〜(はあと)」
2年ロ組の不思議娘、赤城レミが三銀さんに投げキスをする。
「三銀さん、今日も一日何事も無く無事に過ごせますように。(合掌)」
森田桜子先生がいつものように三銀さんに祈りを捧げた。
そんないつもと変わらぬ朝なのに、三銀さんが泣いている。
三銀さんが泣いている理由を「神」である作者のこの僕が語ろう。
ある日、地元の新聞社が、新たに設置された公共の美術作品を探すコンテストを主催した。最も美しく、地元の人々に愛されている像には、記念の銅板が授与されるという。
「これは三銀さんのことだろう!ちゃんと報じてもらおう。」と、校長は新聞社に連絡を入れた。
その日、校長は三銀さんの前で、どことなく緊張した表情で掃除をしていた。新聞社のカメラマンがやってくることを知っている生徒たちは、どこかはつらつとした様子で三銀さんの周りをうろついていた。
カメラマンが到着。一斉に生徒たちは三銀さんの周りに集まり、カメラマンはその瞬間を撮影した。美しい朝日が三銀さんの銅像を照らし、生徒たちの笑顔が背景に浮かんでいた。その様子を見て、三銀さんの銅像はまるで生きているかのように見え、微笑んでいるようにさえ見えた。
写真が新聞に掲載され、三銀さんは地元の美術作品コンテストに選ばれた。そして、その記念の銅板は三銀さんの台座に取り付けられ、彼の銅像はますます輝きを増していた。
それ以来、三銀さんは一段と生徒たちから尊敬を集めるようになった。三銀さんが泣いている朝の真相を明らかにしよう。彼が泣いていたのは、自分がここまで愛されていることに感動したからだ。
その日以降、彼は毎朝、ただ静かに学校を見守り、生徒たちが楽しい一日を過ごすことを願っている。
彼が座る巨大ミドリガメの辛さに気づくことは無いけれど。
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