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道立小黒内高校 3年イ組「新科目、化学音楽」

「新科目、化学音楽」

「ああ、また始まるな…」。それは「とある底辺高校」の3年イ組の生徒たちが毎日感じていることだった。授業を担当する佐々木竜二先生の独特な特徴、その大食いからくるお腹の音は、生徒たちにとってはお馴染みの"音楽"となっていた。

ある日、佐々木先生が授業を始めた。黒板にチョークを滑らせる彼の動作は落ち着いていたが、クラスの生徒たちはその"音楽"を待ち構えていた。そして、予想通りのことが起こった。佐々木先生のお腹が「ぐ「ぐぅ」と鳴り、その音が聞こえ始めた。

清水一樹がすかさず「お静かに」という札を掲げた。クラスメイトたちはその状況に耐えきれずに笑い出す。佐々木先生は慣れた様子で、苦笑いを浮かべていた。まるでこれが日課のように。

この繰り返しが三度、四度と続く。それからしばらく、佐々木先生のお腹から音が出なくなる。それまでの笑いが一気に消え、緊張が教室を包み込んだ。清水も札を掲げることができず、教室は静まり返っていた。

その静寂の中、突然、清水のお腹から大きな音が鳴り響いた。クラス中が驚き、佐々木先生は清水に向かって微笑んだ。そして、清水が自分で「お静かに」の札を掲げ、クラス全員が爆笑する。

授業はそのまま進んでいった。そして再び、佐々木先生のお腹から予想通りの音が聞こえてきた。清水が札を掲げると、クラスメイトたちは再び笑い、佐々木先生は苦笑いした。

終業のチャイムが鳴った。清水一樹が最後に「お静かに」の札を掲げ、授業は終了した。それは「音楽の授業」であり、生徒たちはその授業を楽しみにしていた。

そして、彼らはまた明日、佐々木先生のの「音楽の授業」を待ち続けるだろう。これは彼らにとって、学校生活の一部となっていた。それは一見するとおかしな事情かもしれないが、彼らにとっては何よりも特別な時間だった。

生徒たちは教室を出て行き、佐々木先生も教室を後にした。残されたのはまだ鳴り響く笑い声と、少し疲れた顔をした清水一樹だけだった。彼は最後に「お静かに」の札をひとりで見つめていた。それは彼にとってもまた、何よりも特別な時間だった。

「明日も、佐々木先生のお腹の音を待つのか…」清水はひとり思った。それは彼にとっての、ちょっとした楽しみでもあり、一種のミッションでもあった。この短い時間の中で、彼は生徒たちの笑い声を集め、自分の役割を果たしていた。

そして、彼は教室を出て行った。明日もまた、この特別な時間が待っている。それは、清水一樹にとっても、3年イ組の生徒たちにとっても、何よりも大切な時間だった。それは「音楽の授業」、それは「とある底辺高校」の日常だった。

「ランチ」

昼休み、森田桜子先生が大きな弁当箱を開けた。中身は、彼女の好きな高級寿司。見た目は美しいが、桜子先生の食べ方は見事におっちょこちょい。寿司を落としたり、醤油をこぼしたり。一方、佐々木竜二先生は巨大なカレーライスを前に苦笑い。「どうやら僕の食べ物も、授業と同じく音楽的だな」と、カレーに混ざったポテトチップスをカリカリと食べる音が職員室に響き渡った。