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道立小黒内高校 3年イ組「守護神、三宮銀三郎・・・を背負ったミドリガメ」

「守護神、三宮銀三郎・・・を背負ったミドリガメ」

世界的ジュエリー専門誌「"ジュエル・トレンド"(Jewel Trend)」の最新号に、河合一誠校長のコレクションの一つが紹介された。


「レア・モーメンツ: エンテングランツの傑作 - 黄金のアヒル」


エンテングランツのアヒルを模した「黄金のアヒル」ネックレス。これは、公国出身の世界的ジュエリーデザイナー、ヨハネス・フォン・グリッツェンによる初期の作品で、彼がまだ未知の若き才能だった時代に制作されたと伝えられています。

細部まで緻密に作り込まれた黄金のアヒルは、エメラルドの瞳とダイヤモンドの羽根が輝きを放ち、その美しさは語り尽くせないものがあります。その世界に6点しか存在しないとされる珍品は、現在、リヒテンシュタインのジュエリーメーカー「ジュエリーシェーファー」が3点、大英博物館、王族、そして日本の学校長である河合一誠氏が1点ずつ所有しています。
(以下略)


エンテングランツジュエリーシリーズの初作、「黄金のアヒル」は、現在の市場価格で数百万ドルもの価値がある。河合校長にとっては、かけがえのない思い出の品であった。彼がまだ小学生だった頃、彼の曾祖母が彼の首に下げて、「拓三、お前の首にこれを下げると私の夢が叶うと神様が言うんだよ」と遠い目をしながら言ったのだという。曾祖母の甥、拓三の存在は不確かだが、その言葉は校長の心に深く刻まれていた。「大婆ちゃん、ボク一誠だよ。」「そうかい。拓三は、かわいい子だね。」

その「黄金のアヒル」は、彼がハマった最初のアヒルコレクションで、小黒内高校でガラス張りの展示台に飾られている。この展示台は校長が特別に作らせたもので、校長室前の廊下に置かれ、生徒たちは自由に見学することができた。これは、彼の情熱を共有し、生徒たちに本物を理解する機会を与えるためのものだった。

また、校長は一度だけ、ハッピーガールとして知られる生徒、長谷川麻里の首に「黄金のアヒル」を飾ることを許したことがある。長谷川は「下げたい、下げたい、下げたい、参鶏湯!」と叫びながら色仕掛けも駆使して校長をたぶらかしておきながら、それを下げて「価値」を知ると、首が重くて震えていた。彼女は、それが数百万ドルもの価値があると知って、その重さに怯えていたのだ。

一方、河合校長の曾祖母がリヒテンシュタイン公爵家の縁戚であるという噂は、全くの根拠のない話だった。それはただの都市伝説に過ぎなかった。

小黒内高校の平成三年度卒業生に、「緒方龍之介」という名前の男がいた。彼は現在、泥棒を生業としていた。三十年程前にこの町を離れ、生活のために都会へ行っていたが、最近、生活に困窮し、再び故郷であるチャバネ町に戻ってきた。彼の実家はとっくに更地となっていて、親戚もいなかったが、あの黄金のアヒルが高額な価値を持つことを彼は偶然知ったのだ。その情報は、彼がコンビニの前で拾ったジュエリー専門誌に載っていた特集から得られたものだった。

それを知った彼は、黄金のアヒルを盗むことを決意し、母校である小黒内高校へ向かった。チャバネ駅の最終列車は午後5時45分に到着し、明日の朝始発は6時20分に出発する。その間に仕事をすればいいと考えていた。木造校舎のノン・セキュリティは、彼にとっては子供の遊びに過ぎなかった。河合校長がまだ在任していることに驚きつつも、彼は母校の門をくぐった。

彼がガラス張りの展示台の前に立つと、黄金のアヒルがそこに安らかに置かれていた。彼は自分の専門の工具を取り出し、それをガラスケースに当ててみた。しかし、その瞬間、彼の心は一瞬で冷たくなった。

校門の脇にある三宮銀三郎を背負ったミドリガメの銅像が突然、動き始めたのだ。それはまるで生命を得たかのように動き、あっという間に彼の前に立ちはだかった。

彼はその銅像を見上げ、息を呑んだ。そして、その銅像が口を開き、信じられないほどの強力な光を放つと、彼は驚愕と恐怖に身を震わせた。

その光は、彼が黄金のアヒルを手に入れることを阻んだ。銅像はその光を放ち続け、黄金のアヒルを強固な防壁で囲んだ。

「くそっ、何だこれは...」彼は困惑と怒りで声を荒らげた。しかし、銅像はただそこに立っていて、黄金のアヒルを見守っていた。

彼は途方に暮れ、その場を去った。三宮銀三郎を背負ったミドリガメの銅像は、まるで守護神のように黄金のアヒルを守り抜いたのだ。

翌朝、河合校長はいつものように三宮銀三郎の銅像の掃除にやってきた。彼は銅像に声をかけながら、手入れを始めた。

「おはよう、三銀さん。今日は少し疲れているようだね。昨夜は大変だったのかい?」

校長は銅像に話しかけながら、優しく微笑んだ。そして、彼は三銀さんを背負うミドリガメに目をやりながら言った。

「おや、ミドリガメもお疲れのようだね。さては二人で夜通し遊び呆けてたんだね?」

校長は独り言のようにつぶやきながら、掃除を続けた。

校長のポケットからはみ出たアヒルのタオルが、朝のそよ風にただなびいていた。


「色気より食い気」

高校のマドンナ先生、森田桜子は、校長室の前を通るたびにため息を突いている。
(黄金のアヒル、一度でいいから身につけてみたいわ。)
「ハセマリさんのように、校長先生を色仕掛けで・・・」
全く、我ながら説得力が無いと思う桜子先生。
体育担当の大輔先生が、「お昼頼みますけど、森田先生はどうします?」と言いてきた。
「鴨南蛮で」と桜子先生。
人の思考の貧困さはこれほどまでかと思う作者であった。