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道立小黒内高校 3年イ組「イ組防衛戦争」

「イ組防衛戦争」

小黒内高校は底辺高校である。学区での成績は下の下。
しかしそんな中、3年イ組の数学の成績に限っては道内でもトップクラスだ。

何故か。彼らは数学の授業に命を賭けている。
一致団結、クラス総動員で、敵である「High Mountain Empire"「高山帝国」と戦っているからにほかならない。
高山帝国の女帝「高山美香」は数学教師、3年イ組のクラス組ができた時に徹底的に分析し、彼らのやる気の根本を発見した。
彼らのやる気は唯一つ「面白い」事につきる。

高山は自らの授業をイ組の生徒たちに「イ組祖国防衛戦争」と呼ばせた。
彼女は初めての授業のとき、

「私は、貴方がたイ国を攻撃する帝国の皇帝です。私は貴方がたに宣戦布告します。」

と言った。祖国防衛戦争はまさにその時始まった。
高山は、黒板に問題を書き終えると「空襲警報!」と言って、空爆を始める。

「はい、佐々木さん。」

空爆目標の佐々木が正答すれば「空爆失敗」、誤答であれば、「空爆成功」となる。
ただ、これでは生徒側不利となるため、席次に番号を付けた。高山は授業前にどの順序で指名するかをリスト化し、封書に入れる。イ組生徒はその高山の番号を予想し、席を決める。
たとえば、高山が「1,2,3,4」とリストを書いたとする。その日の指名は、1番席、2番席、3番席、4番席の潤で空爆される。
イ組生徒が成績優秀者をその席に配置すれば、空爆は失敗するため、当然生徒の勝利となる。逆に、成績不審者をその席に配置すれば、空爆成功となって敗北する。

そんな楽しい話に乗らないイ組の生徒は皆無だ。
数学授業前の戦略作戦会議は、全国民を挙げての一大イベントである。

今日の第7次祖国防衛戦争の戦略作戦会議では、高山の空爆地点を前方席と予想し、成績優秀者を前方に集めた。
そして始業のベルが鳴る。

「我が國の存亡の如何は、諸君らの双肩にのみかかっている。健闘を祈る!」

清水一樹学級委員長の激が飛ぶ。

「イ国万歳!イ国に栄光あれ!」

イ組生徒の時の声。
教室の扉が開き、高山帝国の進撃が始まる。
高山は躊躇すること無く、板書を始めた。そして・・・

「空襲警報!」

イ組生徒たちの顔が引きしまる。高山は封書を取り出し、番号を読み上げる。

「25」

「わ、私?・・・わかりません。」」

安田涼子では無理ゲーだ。明日の新作ゲーム発売にあわせ、ここ数日徹夜で攻略ブログを書いていたのだ。
高山のメガネがキラリと光り、

「我が帝国の前に敵は無し。」

安田涼子は、しぶしぶ敗北を認め、

「みんな、後を頼みます。」

と弱々しく席に座り、空爆成功シールを額に貼り付けた。

そんな高山の授業によって、3年イ組の数学の成績はうなぎのぼり。
どんな授業をしているのかと、教育委員会が「偵察」に来た程だ。もちろん、教育委員会は「不適切!」と太鼓判を推している。

だが、結果は結果である。もはや高山帝国の進軍を止めるものはいない。宿敵「3年イ組」が存続する限り、帝国の威光は北海道の大地に輝き続ける。

「マドンナ、戦場に散る」

「高山先生、あなたはどんな授業をしてらっしゃるのですか?」

森田桜子の口調は高山美香を責めていた。
イ組の生徒たちが言う。
「数学の授業は戦争だ。」「恐ろしい程の高山皇帝の進軍速度」「絨毯爆撃には手がねーよなぁ」
桜子先生にはそれが恐ろしくてたまらない。
美香先生は答える。

「生徒が望むスタイルの授業よ。戦争、進撃、空爆、絨毯爆撃、全て生徒が望むキーワードだわ。なにか問題あって?」

美香先生の全く動じず、ゆるぎのない意見には返す言葉の無い桜子先生だった。
桜子先生の頭の中には、完全武装で生徒を蹂躙する美香先生の姿が妄想されていた。