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道立小黒内高校 3年イ組 「絵梨子の毒怨怪」

「絵梨子の毒怨怪」

今日は嵐が吹き荒れる予報で、学校の廊下は期待感で騒がしかった。なぜなら、岡田絵梨子の伝説的な怪談夜話が久々に開催されるという噂が立っていたからだ。絵梨子の怪談会と言えば、嵐の日に限り開催されるという、実に珍しいイベントである。その日は朝から嵐の予報が出ており、3年イ組の教室には一人欠けることなく全員が出席していた。

時刻は下校制限ギリギリ。ついにその瞬間がやってきた。教室には重たい静けさが広がり、雨の音が窓を叩く音だけが響いていた。絵梨子は端正な浴衣姿に着替え、教壇に上がると、ろうそくを灯し、黒板に大胆な題名「カレイなるカレーのレイ」を書き込んだ。皆はそのお題を見て一瞬、困惑した表情を浮かべるも、すぐに絵梨子が話し始めるのを待つために息を潜めた。

「皆さん、私からのお話を耳にする前に、怖がりすぎないようにしてくださいね。」と絵梨子が声を掛けると、その言葉は期待感として教室中に広がった。一言、彼女が話し始めると、その場は完全に彼女の虜になった。周囲の音は全て消え、唯一彼女の声だけが部屋を支配した。

怪談話はついに佳境へと達した。絵梨子は語る。「ある日の夜、廃屋に泊まった男子生徒がいた。深夜、教室に響き渡る絶叫が・・・。皆さん、何だと思います?それは、その男子生徒が夢の中でカレーの霊に追いかけられていたからなんです。もう、カレーだらけ!気づいた彼は叫んだんです。『カレーのから騒ぎィ!』」

そのオチを聞いた生徒達から怒号が飛び交った。

「なんだよ、それ!」
「払ってないけど、金返せ-。」
「カレーの話なのに渋すぎるぅ」
「次回、晩、瓶、分娩、盆!お楽しみに!」
「来るんじゃなかった。ばあちゃんの葬式蹴ってきたのに」
「帰りに吉田屋の肉まん買って帰ろうぜ!」

彼らは最初から恐怖は期待していない。しかし、「お笑い」としても今日の独演会には裏切られた。最後のオチのために彼らは待っていたのだ。
高まっていた期待は一気に落胆へと急降下。
座布団が舞い、扇子が飛び交い、0点の答案用紙が散っていった。

その教室の外で、一人の人物が別の反応を見せていた。

保健の森田桜子先生が、恐怖に震えながら独り言を呟いている。「もう、どうしよう。今夜怖くて眠れなくなっちゃう…」と。その姿は、絵梨子の話に完全に引き込まれ、生徒たちとは全く異なる反応を示していた。

この日もまた、道立小黒内底辺高校の3年イ組は、絵梨子の怪談夜話で一緒に笑い、一緒に楽しむという、共通の時間を過ごした。ある意味、これこそが彼らの日常であり、彼らだけの特別な時間だったのである。

「マドンナカレー」

その夜、怪談話に震え上がった森田桜子先生は、ホッと一息つくためにお風呂に入ることにした。しかし、怖さに脳が支配されたせいか、湯温を確認することを忘れてしまい、足をつけた瞬間に熱湯に驚き、慌てて水を足した。ようやく適温になったお風呂に入り、ほっと息をついた桜子先生。しかし、シャンプーを取ろうと手を伸ばすと、誤って浴槽に緑の入浴剤を全てこぼしてしまった。一瞬でお風呂はカレー色に。驚きのあまり、「またカレーだ!」と叫んで風呂から飛び出す桜子先生。その日も底辺高校は、思わぬ笑いで一日を終えるのだった。