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いつか完結する話(ある壮大な予告)|Los Lencas#1|Field-note

〈ロス・ネグリートスの踊り〉は、中米はホンジュラス、ラパス県サンタエレナ郡で継承されているカトリック儀礼である。そもそもは宗主国だったスペインの教会祭礼に由来する。

サンタエレナの村々の守護聖人として信仰を集めているサンティアゴは、スペイン国家の守護聖人でもある。この聖人は異教徒討伐のシンボルとしての性格も有している。スペインによる新大陸征服の際にもサンティアゴは政治的に利用され、支配と植民、キリスト教の布教を下支えした。

しかし、このような歴史的経緯は日常場面ではすっかり忘れられている。儀礼は本来の意味を失い、断片だけがかろうじて存続している状態である。

そうしたなか、サンタエレナの人々はこの儀礼に新しい意味を与えようとしている。レンカ族としての出自を強調し、エスニック・アイデンティティをそこに見出そうとしているのだ。

儀礼のさなか、彼らはこう叫んだ。
Viva La Cultura Lenca! (すばらしきレンカの文化よ!)

【出典】Honduras Sus Manos Noticias

差別されないようにインディヘナであることが隠されるこの国で、堂々とこう言い放った彼らの民族意識は敬服されるに値する。

〈ロス・ネグリートスの踊り〉が披露されるサンティアゴの祝祭日には、「グァンカスコ」という儀礼も行われる。マルカラから運ばれる聖人像を迎え、村の役職者たちが饗宴を開くのだが、これはカトリック起源ではない。カトリックと非カトリックの儀礼が同じ日に行われるところに、サンタエレナの民族状況が透けてみえる。また、儀礼の運営資金を貧しい巡礼者からの寄付金に頼っているところも特殊である。

これから私はレンカの民についてときどき書き起こしていくだろう。
サンタエレナの生活環境、儀礼の歴史的背景、踊りの象徴的意味、巡礼の目的、儀礼の社会組織などを考察していくつもりだ。

この報告の「現在」は1993〜94年頃である。資本主義・自由主義に乗り遅れたホンジュラスが今よりもさらに貧しく、だがしかし、殺人など凶悪事件も少なく牧歌的な時間が流れていた頃の話だ。


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