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私が小学4年生の頃の話だ。

その当時は犬や猫はもちろんのこと、ハムスターなどの小動物も大好きで、見かけるたびに撫でたり触ったりしていた。

私の小学校では4年生から委員会に入る決まりがあり、動物好きの私は飼育委員として毎日ウサギや鶏の世話をしていた。

その日は夏が終わり、半袖には少し肌寒く、日の沈む時間が早くなり始めた10月頃だと記憶している。

私は委員会の仕事が終わった放課後、一人でウサギを眺めていた。

気がつくと夕方になっており、急がないと親に怒られるので走って家に帰ることにした。

住宅街を走っていると後方から『ワン』と犬の鳴き声が聞こえ、反射的に足を止めて振り返る。

しかし犬はおろか人っ子一人いない。

あれ?とは思ったが通学でいつも使っている道なので、近所に犬を飼っている家がないのは知っている。

聞き間違いだったのかと首を傾げ、家の方向に向き直った。

すると後方からまた犬の鳴き声が聞こえ、私は振り返る。

しかしそこには先ほどと同じ光景が広がっている。

おかしいなぁと思い、私は睨むよう目付きで周囲を観察し、あることに気が付いた。

住宅の塀に犬のような形をした影があることに。

影のもとになる犬はどこにもいない。

そもそも影は綺麗に犬の形をしており、影はどこからも伸びてきていない。

そこまで気が付くと、途端に怖くなり家に向かって全力で駆け出した。

犬は追いかけて来ているようで、後方から激しい呼吸音と唸り声が聞こえる。

しかも音はどんどん近づいてきていた。

私は泣き叫びながら走っていたと思う。

背後が気になるが振り返る程の余裕はない。

そこで自分の影が移る住宅の塀に目をやる。

ちょうど飛び掛かってきたようで、犬の影が私の影に触れた。

直後、私は大きな衝撃を受け、浮遊感に包まれた。

薄れ行く意識の中、甲高い音が聴こえた気がした。

目が覚めると病院のベッドにいた。

泣き腫らした顔の母の話では、私は交差点に飛び出し、出会い頭にバイクとぶつかったらしい。

私は奇跡的に無傷だったが、意識が半日ほど戻らなかったとのことだ。

飛び出したことへの説教を受けた後に犬の影について聞いたが、母は何も知らないようだ。

バイクの運転手は、私をギリギリで避けた後に何かとぶつかったような衝撃を受けたと言っていたらしいが真相は不明だ。

それ以降、犬の影に遭遇することも噂を聞くこともなかった。

そして私は犬が苦手になった。

見た目は可愛いと感じるが、遠めに見たり、広告や動画で観るだけで震えが、寒気が止まらない。

あの経験がトラウマになっているのだろう。

子供の頃はあの犬の影は私を守ってくれたのだと思っていたが、犬の影が追いかけてこなければ事故は起こらなかったと思う。

何より、私が犬を苦手になることはなかったと思うと、やるせない気分だ。

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