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キッシンジャー氏の死去

 米国ニクソン政権及びフォード政権期で国家安全保障問題担当大統領補佐官、国務長官を勤めたヘンリー・キッシンジャー氏が2023年11月29日に100歳の生涯を閉じた。彼は1970年代の米国の外交政策に大きな影響を与えた政治家であり、学者でもあった。その影響力の大きさとリアリズムに基づく外交政策は、国家の利益と力の均衡を重視し、理想よりも現実を優先することで知られた。

 1973年にはベトナム戦争の停戦交渉への貢献を理由にノーベル平和賞を受賞している一方で、カンボジアやチリにおける米国の介入に関する批判は根強い。また、日本人の視点からすると、彼の対日観は的外れであり、それは生涯改まることがなかったことは実に寂しい限りである。彼の対日観は個人的な経験に深く根ざしていると言われている。ユダヤ人であり、ナチスの迫害から逃れてきたという身上から、ナチスと同盟関係にあった日本という存在を第二次世界大戦後の世界でも色眼鏡でしか見ることができなかったのである。

 フォーリン・アフェアーズ誌において、彼の教え子(のちに同僚)であったジョセフ・ナイ氏が追悼論文を掲載している。ナイ氏の結論は「カンボジア、バングラデシュ、チリ、ベトナムでの失敗はあるが、対中・対ソ外交での成果がより重要である」という趣旨で締めくくっている。

 ナイ氏によるキッシンジャー氏の評価如何に関わらず、彼のリアリズム外交によって多くの人命が失われたことは間違いない。日本の外交政策が盲目的なアメリカ一辺倒になることによって日本人が犠牲になることだけは将来にわたって避けなければならない。


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