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中世の罪と罰①

皆様、こんばんは。
新年になってから歴史系更新1つ目をやっとはじめます。
今回は『中世の罪と罰』網野善彦・石井進・笠松宏至・勝俣鎭夫 をもとにまとめました。
全部で5回の予定で、これを通して中世日本においての価値観をぼんやりと共有できればと考えます。
中世の人々の価値観が分かれば猿楽師への視線、戦や仕事などに対する考え方が現在とどのような違いがあるのか。なぜ差別などが生まれたのか。といった疑問を解決する一助になると思います。
それでは早速、本題へ入りましょう。


「お前の母さん」

いきなり、なんだ?と思われるでしょう。子供の頃、友達とのケンカでこの悪口を言った身に覚えのある方もいるかもしれません。
しかし、これは現代日本では許されるかもしれませんが、中世日本ではどうだったのでしょう?

鎌倉幕府の法律、御成敗式目。この中に、「悪口の罪」がありました。「闘殺の基、悪口より起る」と書き出す式目第十二条が額面通り実行されると「軽い悪口」でも拘禁、「重い悪口」は流罪、法廷内での悪口は当該訴訟「有理」のときは敗訴、「無理」のときは没収刑などが待ちうけていた。
式目以前には「悪口罪」の伝統はなく、式目以後も戦国時代末の「長宗我部氏掟書」や南北朝期の「西大寺規式」などを除いて、「悪口」それ自体をテーマとする成文法はきわめて稀。

悪口罪の判決例で有罪と認定された殆ど凡てが、「乞食非人」、「恩顧の仁」、「若党」、「甲乙人」などの社会身分上の蔑称であり、稀に「自身、本鳥を断つ」、「服薬して訴申す」など中世的現実感にみちた誹謗も含まれている。

その中で母開という悪口がある。これは「開」の字に女性のセックスを意味する「つび」の訓があり、母開は相手の母親の肉体的“欠陥”もしくは“奇形”をいい立てることになる。それだけで「過料」や「狼藉」の原因になり得たのだろうか。
他にも「おやまき」「おやごろし」が並べられるところをみると、「おや(はは)をま(婚・枕)く」の連用形だとみると母子相姦が意味として恐らく妥当だと考えられる。
つまり、「母開」も母子相姦という“行為”のよび名と考えられるだろう。
古代のいわゆる「くにつつみ」の一つに、「己が母犯せる罪」、「己が子犯せる罪」があったことはよく知られている。これは氏族や部族全体に穢れをもたらす「つみ」の名である。

こうしたことから、自身と母の名誉のために争いとなることから狼藉などの原因となり得たのだろう。
また、今日まで残る「お前の母さん」の悪口もこの名残りかもしれない。

家を焼く

荘園領主の刑罰として、最もポピュラーなものは犯人の荘内よりの追放と、犯人の住宅の検封・破却・焼却とを組み合わせたものである。荘園制の成立から消滅まで、戦国時代になって次第に追放が死刑にかえられるケースも多くなるが、一貫してこの二つの処分が基本的なものである。

犯罪の種類は区別されていない。夜討・殺害・刃傷・強盗二盗・博奕・苅田などの重罪から、投擲・過言・虚言などの比較的軽罪と考えられるものまで、どちらかの処分が常とされていた。
国家権力より不入の特権を認められ、独自の刑事裁判権をもつ荘園領主が、二つの刑よりほかの刑罰を行わなかったことは、不思議だ。しかも、追放刑もあくまで荘園内からの追放であり、刑としての実効性を疑わせる側面があった。

住宅検断、つまり犯罪人の住宅検断の三つのありかたである検封・破却・焼却の相互関係をみる。
住人の立入を禁止することを目的とした検封は一時的な手続であることから、検封処置は、破却形態の妥協的・簡易的形態ということができる。
壊(コボツ)と表現される破却もあるが、焼却がより本来的処分形態であった。

なぜか?中世日本では犯罪穢ー「寄宿の咎」は、犯罪をおかしたものなどが居住する家の主人が、犯人とともに責任をとわれて咎とされる。これは「犯罪二穢」観念にもとづくものであり、犯罪の根元である犯人の家を焼いてしまうことにより穢を領内より除去することが目的。
禍の除去ー中世日本の荘園領主は、その領内において発生した犯罪を穢の発生と考え、領主の義務として、犯人の領内からの追放、犯人の住宅の焼却という手段で、正常な状態への回復につとめた。と考えられたが、家を焼いたのはその家から犯罪者がでて穢れてしまった「ご先祖」を追放し、穢れた家をなくしてしまったことでその拡散を防ぐことを目的としていたとされる。

本日のまとめ

悪口も家を焼くもどちらも穢れの思想から産まれた罪と回復方法だとわかる。
今は穢れの思想が薄いため、追放や焼却などの手段をとることや悪口を平然ということに抵抗感が少ないのだろう。
SNSなどをみると、悪口の列挙や、くにつつみとされたことを平然とやる者も見受けられる。

中世日本から人は進歩していないのか、退化したのか、中世日本の罪と罰を見ていると悩んでしまう。

今回はお付き合い頂きありがとうございました。
次回もお付き合いよろしくお願いいたします。

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