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わたしの好きなものもの・22

エピソード22
「ラナ・デル・レイが寄り添う晩夏」

夏が似合うアーティストといえば、みなさんは誰を思い浮かべるだろうか。
定番はやはりTUBEということになるのだろうが、これは(わたしを含む)ある一定の年齢よりも上の世代にとっての定番であって、いまは新定番の夏御用達アーティストというのが存在しているのかもしれない。とまれ、わたしにとっての夏の定番はTUBEでもサザンでも大江千里でも、ORANGE RANGEでもWhiteberryでもMrs. GREEN APPLEでもなく、前回書いたとおりEGO-WRAPPIN'、厳密に言えばEGO-WRAPPIN'の『色彩のブルース』だ。しかしこれは夏の思い出に直結しているだけの曲。夏を歌ったものではない。ただもうひとり、夏に特化した曲を数多く発表し、わたしの夏にずっと寄り添ってくれている正真正銘の夏の定番アーティストが存在している。ラナ・デル・レイである。

「ギャングスタスタイルのナンシー・シナトラ」を自称するラナ・デル・レイは、アメリカのシンガーソングライターだ。夏をテーマにした楽曲が多く、それこそ夏の定番シンガーであるのだが、本人が「サッドコア」と称する、物悲しく憂いを帯びたメロディーは、わたしには夏の終わりから秋にかけての不安定な寂しさを連想させる。まだまだ暑い日が続き、秋に手が届きそうで届かない8月中旬頃から、彼女の曲を聴いて強制的に秋を召喚するのがわたしの毎年の儀式だ。彼女の乾いた歌声に包まれているうちに、どこからか秋風が吹いてくるような気がし始める。彼女の曲はどの季節に聴いても最高だし、実際冬や春にもよく聴くのだが、晩夏の寂しさを体感したくて、肝心の夏のあいだは夏の定番シンガーたる彼女の曲をむしろ遠ざけてしまうという現象も起きている。夏を心待ちにしている人が初夏にTUBEを聴きまくっておなかいっぱいになり、盛夏にはもう聴かなくなっている、みたいなことだ。たぶん。

今年は9月に入っても暑い日が続き、ラナ・デル・レイの歌声をもってしても強制的に夏を秋に塗り替えることは難しい。それでも朝晩の空気や見上げた空にかすかに感じられる秋の気配とともに、わたしはいま思う存分ラナ・デル・レイの声に包まれながら夏の背中を撫でている。


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