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わたしの好きなものもの・7

エピソード7
L'Arc~en~Ciel

出会いは一瞬の衝撃だった。
「こんなに美しい人が世の中にいるのか」
ほんの少し姿を見ただけなのに、声を聞いただけなのに、わたしは彼にすっかり魅了されてしまった。一体誰なのか、名前も素性も知らない美しい彼の虜になってしまった。

それまで、わたしは流行っているからという理由でしか音楽を聴いていなかった。ある歌手のCDが全然レンタルできないと聞けば、別段好きでもないのに週末ごとに近所のレンタル店に出向いて、たまたま一枚だけ棚に並んでいるそれを発見すると、あたかもずっと待ち望んでいたかのように手に取り、勝ち誇ったようにレジに持って行った。聴けばそれなりに良い曲だとは思うし、いまでもその曲を聴けばノスタルジックな気持ちにもなるのだけれど、当時のわたしは流行っているもの、みんなが借りたいのに借りることのできないものを手にできた喜びだけで音楽を聴いていた。好きとか嫌いとかはまた別の話だった。

それがだ。

母のツナおにぎりを食べながら塾通いをしていたあのころ、週間ランキングのようなもので一瞬だけテレビに映ったべらぼうに美しいその人を目にした瞬間に、わたしは人生で初めて芸能人のファンになった。ただそのときはまだそれが何者であるのかわからなかった。とにかく、べらぼうに美しいその人のファンになって、そしてそれから、わたしはそれが誰であるのかを調べた。L'Arc~en~Cielという名のバンドのhydeという人らしいことがわかった。らるくあんしえる、はいど、と読むらしいこともわかった。そしてあのとき一瞬にして心を掴まれた曲はflowerという曲であることもわかった。そうして、わたしは正式にラルクのファンになった。

塾から帰って、寝る前にもう少し勉強をする。深夜、勉強に疲れたわたしはラジオをつける。流れてくるのはラルクの箱番組。それを楽しみに、私は受験勉強に励んだ。母のツナおにぎりとラルクがわたしの受験生活を支えてくれたわけだ。

大学1年くらいまで、わたしはラルクのファンを続けた。ファンクラブにだって入っていた。音楽雑誌を買いあさり、ライブビデオは文字どおり擦り切れるまで繰り返し観た。同時期にラルクのファンになった親友とともに、雑誌の付録だったポスターを持ち込んでツーショット風のプリクラを撮ったこともあった。ラジオの公開録音が行われている場所に行って、この街のどこかにメンバーがいる! と深呼吸をしてみたりもした。hydeさんに憧れるあまり、髪形も真似した。某モデルと熱愛報道が出たとき、親友はひどく落ち込んだ。わたしはそのモデルのファンになった。

なんでラルクから離れてしまったのか、自分でも理由はよくわからない。なにかきっかけがあったわけではない。音楽の好みが変わったからかもしれないし、飽き性であるがゆえかもしれない。わたしの生活におけるラルクの重要度は急激に下がり、やがて消滅した。

このエッセイのテーマは「わたしの好きなもの」であるから、昔数年間ファンだっただけのバンドをここに連ねては趣旨がずれるかもしれないが、実はいまでもときどきラルクの曲を聴いている。聴けばつぶさに思い出すのは、親友と撮ったプリクラ機の明るさと夜の暗さ、親友と行ったライブの帰りに電車の中で気分が悪くなり、優しい女性に席を譲ってもらったこと、親友と行ったラジオの公開録音当日がとても寒かったこと、親友と交換した雑誌記事を定期入れに忍ばせていたこと。ラルクとの思い出にはそのほとんどにひとりの親友が存在する。たぶんわたしは、親友と過ごした、もう二度とかえらない10代の日々が好きなのだと思う。あの頃のわたしたちは、本当に幸せで、無敵で、人生を楽しんでいた。希望に満ちていた自分を思い出したいから、わたしはいまでもラルクを聴くのだと思う。

ちなみに、親友はいまでもラルクのファンを続けていて、そんな親友とわたしの仲も続いていて、会えば10代の頃とたいしてかわらないバカな話ばかりして、首が攣るほど笑っている。

ということで、わたしが好きなものものエピソード7は、
L'Arc~en~Ciel 改め 親友N

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