帯脈処置が著効した症例(同期M①)

主訴:多忙による足の疲れ、右肘屈曲時痛(肘内側)、全身の疲労感

現病歴:Mは同じ会社でアルバイトをしながら柔整国家資格試験の対策のための塾、さらには強豪の社会人バスケチームに所属しながら全国出場を目指している。最近は毎週大会があり身体の疲労がピークに達している。

所見:脈緊浮高、右下腹部に硬さ。陰陵泉、解渓、頭頂部、左右少府、左右解渓に圧痛あり、左胸鎖乳突筋に硬さ

処置内容:
①副腎処置(20分)
②扁桃処置
③腹部瘀血処置(左中封、左手三里)
④陰陵泉、内間、百会、解渓
⑤大腿の張りに対して透刺運動鍼
⑥肘痛に対して透刺運動鍼
⑦帯脈処置

各所見の意義:
①脈緊浮高(実)
浮:病が表層に存在する。左寸口が浮を示す時は風の第1段階(小腸の実)、右寸口(大腸の実)が浮を示すときは風邪の第3段階。また、様々なストレスや加齢に伴う免疫機能低下が根底にある。
実:炎症、熱等を示す
高:脈波が高いと陽が旺盛で陽実、逆に脈波が低いと陰が旺盛で陽虚となる。また、瘀血・水滞・気滞など、陽気の発散を妨げるものがあると、脈波は低くなる。

②右下腹部、頭頂部の圧痛
難経一六難によると「肝脈の内証は臍左に同期あり、心脈の内証は臍上にあり、脾脈の内証は臍にあって動悸あり、肺脈の内証は臍右、腎脈の内証は臍下、これを按ずれば痛む」とある。
 左天枢の圧痛は肝門脈の鬱血とされ、その分岐である痔静脈の鬱血が必ず「左会陽」が圧痛点として現れる。また、アレルギー性胃腸カタルで腎、肝の「火穴」反応点が陽性だと「脾」の異常を意味する臍の按圧痛がみられる。「右天枢」の圧痛は慢性扁桃炎の反応として現れる。臍上の強いときは心因性のもが多く現れる。腹部瘀血は慢性扁桃炎と関連が深い。
 頭部瘀血は知的作業従事者や慢性疼痛のある人、あるいは心療内科的疾患を患っている人などにある。

③胸鎖乳突筋
 この筋は全身的、部分的な筋肉の緊張や強張りが簡便にわかる。

④肩井・陰陵泉
 肩井・陰陵泉の両方の圧痛が強く、ふらつきなど頸から上の症状がある場合は、神経疲労が疑われる。

⑤各火穴の圧痛
 「火穴」の反応はその経に所属するなんらかの臓腑器官に炎症、熱等の病変が認められる。その反対の虚症性の病変、即ち麻痺や痺れ等に反応がは現れない。

各処置の意義:
①副腎処置
 脳について:脳は外胚葉からできていて、この脳になる部分は神経板といい、脳と脊髄の元になる神経管になる。この先端部が太くなって「膨らみ」、脳ができている。残りは脊髄となり中央の管の部分はそのまま残って、脳髄液で満たされた脳室と脊髄の中心腔となる。「膨らみ」は「精が集まって脳を形成する」という中国人独自の考えである。脳を作っている「髄」は「腎」から発生したとされていて、密接な関係がある。
 腎について:腎とは精を蔵することであり、また水分や体液の調節をしている所であり、つまり、身体の成長、調整などの働きがあり、今日でいう泌尿器や内分泌とも関係があると言える。以上のことから副腎も含んでいる。
 副腎処置:内分泌系処置の核となる。内分泌系と自律神経の中枢は、ともに「膨らみ」の最初の、脳の間脳にある視床下部である。このことから自律神経処置との関係も深い。応用範囲が広いのが特徴的、自律神経失調症、全身倦怠、更年期障害(男性を含む)、うつ病、免疫低下等、あらゆる方面に及ぶ。扁桃処置での併用で効果が上がる。副腎皮質の機能低下(脈沈遅)、及び副腎髄質の機能低下、さらに副腎髄質の亢進(交感神経緊張を意味し、腎経の火穴の圧痛が強い)ともに副腎処置が適応される。副腎の機能調節となる。

 自律神経調整処置一覧
⑴副腎処置
⑵手足指間:うつ病にも有効
⑶足底横紋:血圧異常がある場合や首の上の症状によく使う
⑷腰腧:交感神経緊張抑制に必須
⑸外ネーブル4点処置:消化器関連の症状があって、自律神経調整が必要な場合に使う
⑹委中、飛揚、崑崙:椎骨脳底動脈促進処置として使う一方交感神経抑制にも効果がある

②扁桃処置
 人間は精神的ストレス、物理的ストレス、化学的ストレス、生物的ストレスなどあらゆるストレスにさらされている。これらのストレスは人間の身体にあらゆるところに影響を与える。体温や血圧の上昇や低下、血流障害、血流障害、自律神経の過敏症、あるいは鈍化、内分泌異常や自己免疫疾患、アレルギー疾患の増大などである。さらにこれらストレスは最も大切な生体防御の最前線である口蓋扁桃(唯一、外に晒されている免疫臓器)の血管を収縮させたり、炎症を起こしたりして、免疫細胞の機能低下を招く。炎症物質の毒素は血液やリンパを介して、弱体化している臓器・器官・結合組織などにも害を及ぼし、二次的に急性あるいは慢性の症状、疾病を引き起こすことになる。扁桃処置は、免疫強化の中心となる処置になる。
 使用する経穴:
⑴照海:副腎に信号を送り、特に髄質からアドレナリンを放出させて、これが免疫増大につながると考えられる。
⑵天よう、えいめい:「よう」は窓の意味、ここから正気を取り入れる。扁桃炎による患部の血行不良を改善。免疫グロブリン(抗体)産生促進。
⑶大椎:風邪の時などは多壮灸を行う。棘間が非常に狭かったらV字刺鍼もあり。咽頭部の血流を促進
⑷手三里:大腸経で肺経と表裏の関係にあり、肺経の免疫強化と繋がっている。


扁桃について
⑴扁桃は咽頭神経叢(迷走神経、舌咽神経、頸部交感神経など)の支配下にあり肉体や精神の疲労を受けることがある。
⑵さまざまな動脈・静脈が入り込みそこからリンパ球が必要なだけ流入してくる
⑶細胞を上回る数の常在菌が存在していて、外来病原菌の定着を妨げることで身体を守る役割ができている。様々な肉体的、精神的ストレスを原因に、扁桃機能が弱ることで、血中に乗り全身に回った病原菌と常在細菌との戦いがあちこちで起こり、運動器や内臓器を傷つける。扁桃の二次感染、扁桃病因論。

扁桃の診察
脉状診:軟脈や浮脈
脈差診:右寸口の沈
火穴診:魚際
局所診:天ヨウ、エイ名
腹診:右天枢

③気水穴処置
 気の流動性を前面的に押し出した処置。火穴の反応は、圧痛や張りがあれば充血、炎症性、実証等を意味するとかんがられている。これを気(金)・水穴で押さえ込んでいく。
 肺金穴は外呼吸を取り入れると考えられており、これが組織細胞呼吸も活性化していくと推測される。「血流、水分の代謝、配分、順行せしむる」。水穴はこれをさらに強化していく。
 基本的には火穴に圧痛反応がある時に使うがその病変の関わっている経絡の気水穴を使うことでヘルペスの症状が衰退していく。

④帯脈処置
 数多くある処置の中で、最も即効を発揮するのがこの帯脈処置。
⑴体幹伸筋と体幹屈筋の調整ポイント
 人間のさまざまな動きができるのは筋、腱、靱帯であり、その身体の中心軸は体幹である。体幹には脊柱起立筋、大臀筋、大腿四頭筋など体幹伸筋群と、腹筋、大腿二頭筋などの体幹屈筋群が拮抗的に存在する。これらの筋群の中心に帯脈が存在する。正確には内腹斜筋・外腹斜筋・腹横筋の起始中央にあたる。腹筋の緩んでいる人や、肥満体型、婦人科の手術をした人などは、腹筋の後面や脊柱起立筋が緊張もしくは硬化している場合が多いので、通常の帯脈よりも2〜3寸後方にとる。この部の緊張や硬化をとると、先ほどあげた数々の症状が軽減される。

⑵解剖上の意義
 帯脈には内腹斜筋、外腹斜筋、腹横筋、広背筋が関わっている。血管では鎖骨下動脈や外腸骨動脈と繋がっている下腹壁動脈、そして胸大動脈、腹大動脈から起こり内腹斜筋、腹横筋の間を通って腹壁に分布している肋間動脈が近くにある。神経では肋間神経や腸骨鼠径神経が分布している。つまり、解剖学的には頸部から胸部・腹部・背部・腰部・下肢と広範囲に関わっている事になる。

⑶古典的意味
 帯脈は胆経であり、奇経である。この処置では奇経としての意味合いが強い。「諸経を束ねる」

この症例について:
副腎処置から透刺運動鍼までで症状は大幅に減った。しかし足の方にまだ点のようなつまりが残るという。このつまりは今までも治療してきたが取りきれないもである。最後に思い出したように帯脈処置をした。すると術者、同期Mともに感嘆をあげるほど症状が改善した。帯脈の「諸経を束ねる」この奇経の重要性を体感した症例であった。また屈筋、伸筋のバランスは身体全体に大きく影響すのを痛感した症例である。




 

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