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キノコと建築 -オーガニックな建築材”マイセリウム•ブリック”について-

最近、キノコにはまっている。

正確に言うと、キノコを構成する”菌糸”が、知れば知るほど奥が深くて面白い。そして、サスティナブルな材料として建築やファッションなど色々な分野で注目を集めている。

題名にある“マイセリウム”とは、菌糸が集まってできた”菌糸体”のこと。これを使って服に使う布のような生地から、建築に使うようなボードやブロック型のものなど、様々な形を作ることができるため、建築資材のみならず、レザーやプラスチックの代替材料となるオーガニックでサスティナブルな素材として期待されている。

例えば、2014年にはマイセリウム・ブリックを使って作ったタワーがMoMAの別館で展示されたり、イギリスのデザイナーと家具メーカーがマイセリウムを使ってランプシェードや椅子をデザインしたり、欧米の国々では色々な実験が進められている。


100%オーガニックな素材

マイセリウムは、籾殻やおがくず、コーヒー豆やフルーツの皮などを栄養源として、胞子を作り出し、繁殖していく。だから、材料は全てオーガニックのものでまかなうことができる。そして、100%生分解できるので使わなくなった時は自然に還すことができ、自然界を循環できる究極のサスティナブルな素材。

必要な材料は、下記の通り。

基質(Substrates)・・・籾殻やおがくず、段ボール、コーヒー豆、フルーツの皮など農業廃棄物や食品廃棄物で、マイセリウムの栄養源になる。

添加剤(Additives)・・・コーンスターチや砂糖など。基質に栄養を補填して、菌糸の成長を促す。

菌糸(Mycelium spawn)・・・ブロックの元となる菌糸の種。

実は最近、マイセリウムについて学んで、身の回りにある材料を使って菌糸体を育ててみた。


マイセリウム・ブリックを作ってみた

今回は、数種類のオーガニックな材料からマイセリウム・ブリックの実験をした。

マイセリウムはとても繊細な生き物なので、実験をするときは器具や手、使う材料などあらゆるものを殺菌・消毒する必要があって、この作業が結構大変だった。準備が整ったあとは、日の当たらない暗い場所で保管するだけ。でも、温度や湿度を適切に保つこともマイセリウムの成長には欠かせない。

私は一度、日本で途中まで試してみたけれど、冬の気温があまりにも低すぎて、成長が遅く、ブリックになる前にポルトガルへ発つことになってしまった。

その時の写真がこちら。

時間の経過とともに、少しずつ、胞子が繁殖していった。1日1回、状態を確認するだけなのに、まるでペットを飼っているかのような気分になって、マイセリウムたち、大丈夫かな、と日中出かけている時も何かと心配になる。だから、胞子が段々と増えていく様子は、なんだか胞子たちが頑張って成長しているようで、けっこう感動した。

ポルトガルに来て、友人と、再チャレンジ。日本よりも少し温暖だったこともあって、運よく5種類のうちの一つが、ブロックになるまで成長してくれた。コーヒーの粉と段ボールを使って作ったもの。他のものは、カビが生えて上手く成長しなかったり、虫が沸いてしまったり、残念ながら上手く繁殖しなかった。完成したものを触ってみると、想像していたよりも、硬くて、重さも少しあった。

もちろん、これがこのまま建材として使えるわけではなくて、今、オランダやアメリカなどの会社で実験が進められている。


建築材料としての可能性

建材として、今一番有力な使用方法は、断熱材としての使用。

マイセリウムは、断熱効果があることが証明されている。また、耐火性・耐久性もあって、ポリスチレンと比べて、点火した時は熱や煙や二酸化炭素を出す割合も少ないことが分かっている。

型があれば、コンクリートみたいにどんな形でも自由自在に作ることもできることも魅力の一つではあるけれど、構造体としての耐久性はまだまだ不十分であるから、今後の技術の発展を楽しみにしたい。


最後に、マイセリウムの一番のメリットでありデメリットである点は、オーガニックであること。オーガニックであるから、人にも地球にも優しい反面、繊細で温度や湿度などの環境によって左右されるから、効率的な生産方法はまだまだ発展途上であるらしい。だけど、将来、この100%オーガニックな材料が当たり前のように世の中の建物で使われるようになったら、まだ見たことのない世界が広がっているような気がして、とてもわくわくしている。

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