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For how can S do...?の読み方【ジョージ・オーウェル『1984』の英文法】

※全文無料でお読みいただけます。

The past, he reflected, had not merely been altered, it had been actually destroyed. For how could you establish even the most obvious fact when there existed no record outside your memory?
(引用: ジョージ・オーウェル, 『1984』原文)

上記の文は、イギリスの有名な作家であるジョージ・オーウェルの代表作『1984』の原文から抜き出した文です。第1部の3章終わりあたりに含まれています。今回検討するのは、後半の"For how could you..."から始まる部分です。

読み方

まず文の頭にあるforは、理由を表す「接続詞」のforです。普段よく見かけるforのほとんどは「前置詞」のforですが、実は今回問題となっているforは接続詞なんです。この接続詞のforは、becauseやsinceなどと同じように「理由」を表すのに用いられます。

(例文)
I trusted him, for he had been my friend for over twenty years.
私は彼を信頼していた. それというのも20年以上の友人だったからだ.
(引用: ウィズダム英和辞典 第4版)

文頭の"for"が理由を表す接続詞であるとしても、まだ問題が残っています。forより下の部分を見てみると、"how could you...?"という疑問文になっています。これは奇妙です。なぜなら、普通は接続詞の中に入っている文は疑問文の形をしていないからです。たとえば、上に挙げた例文のforより下の部分も疑問文ではありません。

では、この疑問文をどう考えればいいのでしょうか。実は、これは「修辞疑問文」なのです。わざと疑問文の形で話し、普通の言い方をした場合よりも表現を強める言葉の用法です。例えば、「果たしてこんなひどい事をしていいのだろうか」という文があれば、「こんなひどい事は断じてするべきではない」という意味で捉えることができます。このような文のことを修辞疑問文と言います。下記は英語の修辞疑問文の例です。

(例文)
How can you say you don't love me?
私を愛してないなんてよく言えるわね.
(引用: ウィズダム英和辞典 第4版)

いま問題となっている"For how could you establish even the most obvious fact when there existed no record outside your memory?"という文の、forより下の部分を疑問文のまま訳してみると、「人間の記憶の外になんの記録もない時、明白な事実でさえどうやって実証することができるというのか」となります。そして、これが修辞疑問文であるということを考慮して訳してみると、「人間の記憶の外になんの記録もない時、明白な事実でさえも実証することはできない!」となります。

まとめ

ここまでで、冒頭の文の意味を理解するのに必要なピースが揃いました。文の頭にあるforは理由を表す接続詞でした。そして、そのforの中にある文は修辞疑問文です。これらをまとめて、冒頭にあげた文を訳してみると、下のような意味になります。

過去は変えられてしまっただけではなく、実際には破壊されてしまったのだと、彼は考えた。なぜなら、人間の記憶の他になんの記録も存在しない時、どれだけ明白な事実であったとしても実証することはできないからだ。

ビッグブラザーはその権力によって、自分たちに都合の悪い過去の記録を改変・消去することができます。そういう状況下で、主人公のウィンストン(ひいてはオーウェル自身)の理想と過酷な現実との葛藤を描写している場面なのです。

あとがき

最後までお読みいただき、ありがとうございました!名文学の英文法シリーズの記念すべき初記事は、あまりにも有名なジョージ・オーウェルの『1984』でした。オーウェルの書く文は簡潔な文体であるとよく言われます。『1984』もその例にもれず全体的には易しい文体で書かれていると思いますが、所々このように読みづらい文が混ざっているのも事実です。もし、この記事で読み方が分かってスッキリされた方がおられるのであれば、すごく嬉しいです。

記事に100円の設定をしていますが、もちろん、気が向いて払ってもいいと思っていただけた時だけで結構です。頂いた分はおそらく本代になります笑

利用した図書リスト

・George Orwell.『1984』
・『ウィズダム英和辞典』第4版
・安藤貞雄.『現代英文法講義』
・上田勤, 行方昭夫.『英語の読み方、味わい方』

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