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発達障害学会2021に参加してみた。 実行委員会企画シンポジウム③「発達特性を持つ児童の就職、就労」

講演情報

実行委員会企画シンポジウム③
「発達特性を持つ児童の就職、就労」
コーディネーター 吉田   巌(医療法人敬愛会 玉里病院)
シンポジスト           森山 千恵(保護者)
                                 向井 扶美(社会福祉法人三環舎 理事長)
                                 白鳥 浄子(鹿児島県児童養護協議会研修局長)
                                 海江田 宏(鹿児島県立武岡台養護学校)

森山 千恵 「就労についての苦悩」

・お子さんは地図や数字などに関心があり,かけ算も早くに覚えた。フラッシュ暗算の有段者。通っていた珠算教室に就職。
不安が強いこと,変化に弱いこと,自分で意思を伝えられないことが苦労した。対人関係でも自分から話せなかった。徐々に自分からの発信ができるようになった。
・小中学校は支援学級。高校は通信制。高校では一番平和だった。医療支援は18才まで延長してもらえた。しかし,高校からの就労支援は全くなく,卒業資格を取得する高校だった。高校在学中から珠算教室でお手伝いしており,卒業後は就労に。
・障害者基幹センターと連携し,就労移行支援の事業所に通所。免許を取得し,自分で運転して通所や通院できるようになった。事業所でパソコン検定を取得するも退所。年齢層が高かったこと,統合失調症患者ばかりだったこと,が原因。予定があいまいで変更が多く,本人にとって苦痛だった。結局就職につながらなかった。
・本人の希望で珠算教室への就労をめざした。雇用条件の調整をハローワークに依頼したが,雇用者側の立場となることが多かった。ハローワークを仲介者としたが,本人の特性を理解した支援はなかった。何を提案しても言い返されるため,「どうせわかってくれない」と就労支援サービスと決裂した。
・「就労移行支援事業所」と「生活支援センター」によるサポートを期待したが,がんばって気持ちを伝えるも望むような対応はなし。不信感からやりとりがストレスになり,体調不良を訴えた。不安だけが残った。
・珠算教室との雇用契約にいたったが,1日2時間程度。当日まで時間はわからず,途中空き時間の時給はなし。給与明細もない。経済的自立できないため,珠算教室は副業とし,在宅ワークなどを現在探している。
・予定をあらかじめ教えてくれることを望むが,実際はその日にならないとわからない。パソコンや簿記などの資格を取得でき,真面目で一生懸命なのにどうしてこんな状態なのか。どうしたらいいの向井先生

社会福祉法人三環舎 向井先生「奄美大島における就労支援の取り組み」

・鹿児島市から360km離れている。人口約6万人。世界自然遺産に登録。離島で社会資源が少ない。
・先生は元保健師。専業主婦をしていたが,横のつながりを作るため,1993年に奄美療育研究会を設立。当時は肢体不自由の子どもが多かった。小児発達外来や心身障害児通園事業などの療育をはじめたが,鹿児島県の中でも早かった方と思う。
・2000年頃から発達障害の相談が目立つようになった。保健師・保育士などと連携し乳幼児期からの支援システムをつくった。成人期の支援もするようになり,大人の支援のために2006年に三環舎を設立し就労移行支援を開始。奄美群島全体の支援も実施中。就労継続支援B型,就労定着支援もはじめた。

・日々のトレーニング。なるべく自己肯定感を高める。立ち仕事が多いが,1ヶ月もすれば慣れる。店舗業務(接客/袋詰め/陳列/レジ),パン工房,喫茶(片付け/食器洗い),厨房(弁当準備/調理/片付け),清掃,レトルト製造,菓子製造など。
・就労のための勉強会。
①Job Skill Training勉強会(月2回):あいさつ/報告/質問の仕方/謝るなどの対人技能トレーニング。
②勉強会(月1回):身だしなみ,金銭管理,ネットのマナー,男女関係のエチケット,ストレスマネジメントなど
③個別学習:車やバイクの免許の勉強。パソコン練習。履歴書や面接練習
④クールダウンの部屋を準備
・就労トレーニングで力がついたら実習。色んな所を実習してマッチング。最長3年の就労定着支援。現状把握,企業などとの連絡調整,指導・助言を実施。企業+保護者+本人+就業生活支援センター+就労定着支援員+相談支援専門員で月1回面談&事業所訪問する。離島なので大企業は少ないが,顔が見える関係構築ができている。

・将来の一人暮らし支援として,ライフログクリエイターのアプリを活用。生活チェック機能とイベント機能があり,本人が支援者や保護者とつながっている。
・高校移行の支援をしていて感じることは,乳幼児期の早期支援と,通級指導/特別学級などで自己肯定感を身につけること。何も支援を受けないと就労支援などの事業所につながりにくく,就労継続できず本当に困ってから相談に来る人がいる。「障害」という言葉が良くないのか。早い時期に福祉とつながることが重要
・就労を継続するために重要なこと。
①自己肯定感を育てる支援(療育や就労トレーニングの中で),②マッチング(作業内容が本人に合っていること),③困ったときに相談できる場所があること,④職場が暖かいこと,⑤家族のサポートがあること,⑥余暇白鳥先生

慈光園 白鳥先生「発達特性を持つ児童の就職,就労」

・慈光園は児童養護施設。児童福祉法で定められた措置施設。概ね2-18才の子どもたちがおり,6-7割が虐待経験をもっている。家庭に復帰させることが目標だが,家族の再統合は容易ではない。保護者支援も必要。
・子どもの発達特性からくる育てにくさ。発達特性を持つ子どもが増加傾向にある。本来の養育者から虐待をうけた子どもは,人との適切なかかわりが苦手。とても警戒するか,誰にでも距離感なく寄っていくか,どちらか。

・事例。母親の病死で入所することになった子ども。次第に本人の発達特性があきらかに。入所前の関係者からヒアリングすると,地域で身体的/心理的虐待が問題になっていた。兄弟になじめず,本人のみ入所。成績は上位のため特別支援にはならず普通高校に進学。
臨機応変に対応することは困難。一人の時間を好む。進路指導で一般就労を目指すが,適性試験で本人はやれたと思ってもとても合格できる状況でなかった。一般就労は難しいことが身をもって分かり職業訓練校に変更。
・訓練校にいく時点で施設から退所。事業所に就職が決まったが,社員寮なし。一人暮らしも難しく,高齢者介護施設に併設されたシェアハウスがたまたまできたので入居。共同生活でのトラブル多発。その都度元の担当者が駆けつけで対処。これが5-6年続いた。
・トラブル例:
①季節に合わせた衣替えや衣類購入が苦手。ボロボロでも買い替えない。
②整理整頓が苦手。日用品と食品をおなじカゴでしまうなど。
③食事のコントロールできない。コンビニでお菓子や惣菜を買い込み,1日4-5食たべる。体重の大幅な増加。
④極端なダイエット。他の利用者が入れないくらい長時間の入浴。
⑤仕事中のイライラ(自分に対する)でパニック
・地域の障害者就業生活支援センターとの連携で,多岐に渡る継続的な支援をうける。シェアハウスや事業所との定期的な支援会議を実施。自動車免許の取得が,本人の自信になった。高校卒業後,数年かかったがゆるやかに自立への道を探る。

・児童養護施設に入所してる子どもたちは,家庭に戻って就労や進学することはなく,ひとりで立ち向かう。特に発達特性がある場合は困難多い。卒園までに社会で生きる力を身につけることが望ましいが,時間的に難しい。ほかの支援者へのバトンをつなぐことが重要。
心配してくれる家族や親がいない場合は,それ以外の大人で支援していく必要がある。

武岡台養護学校 海江田先生「発達特性を持つ児童生徒の就労について」

・武岡台養護学校は,県内でも一番大きい特別支援学校。先生は養護学校の進路指導を担当している。
・特別支援学校を卒業したら,,,
①一般就労:企業の障害者専用求人。就労継続支援A型,障害者職業能力開発校
②福祉就労:就労移行支援,就労継続支援B型,生活保護など。福祉型専攻科も含む
③進学
④そのた(家事手伝い,自宅療養)
企業就職は2-3割
・卒業後の人生の方が長い。18才での選択は一生のものではなく,行き来する。日中の活動と生活の場をわけて考える。親が支援できなくなる時期を考えて,誰にどんなことをささえてもらうかコーディネイトする。
・卒業後1年以内の離職率が8~12%。職業適性や対人関係も重要だが,働きたいという気持ちが一番大事。

知的障害のある子どもに対する支援のポイント10
①見通しを持たせる
②相手の注意がこちらに向いたときに説明する
③全体への指示のあと,個別の指示を行う
④指示はまとめて出さず,1回にひとつずつ行う
⑤ゆっくりとわかりやすい言葉で話す
⑥言葉と合わせて視覚情報も提供する
⑦指示が理解できたか行動で確認する
⑧抽象的な表現ではなく,具体的に話す
⑨子どもの行動を確認しながら支援する
⑩子どものがんばりを具体的にほめる
・学びのプロセスを経験し定着させることが重要。
動機・意欲 ⇒ 指導・援助 ⇒ 努力 ⇒ 喜び(自己評価) ⇒ 賞賛(他者評価)

・企業への就職をする場合,学卒求人と仕組みが違う。まずハローワーク窓口で一般求人の障害者専用求人に応募する。障害者求職登録をして紹介をまつ。面接,職場実習の後に採用面接・内定となる。
・特別支援学校は就職につよい。高等部では,校内や現場で職場実習を1-2年生で行い,3年生でも就職を見据えて実施している。
卒業生は,スーパーとの陳列,ホテルでの布団敷き・宴会場設営,市役所の環境整備,食品加工などで働いている。
各機関のそれぞれの役割。支援をうける側も認識している必要がある。
①ハローワーク:障害者求職登録と紹介,トライアル雇用
②障害者職業センター:重度知的障害判定,ジョブコーチによる支援(2-4ヶ月)
③障害者就業・生活支援センター:生活と就業の一体的な支援(障害者基幹相談支援センター,相談支援事業所),福祉的援護の活用(就労移行支援事業所,就労定着支援事業所,就労継続支援事業所)
色々な機関をコーディネイトする必要がある。障害者就業・生活支援センター,相談支援事業所,学校のいずれか。本人が長く関わった機関に依頼するのがよい。顔がみえるつながりをなるべく作ること。

・就職準備のチェックリスト
①毎日決まった時間に寝たり起きたりする
②休まず遅刻せずに学校に通う
③電車やバスに一人で乗る
④あいさつや返事ができる
⑤教えてもらったときに「ありがとう」と言える
⑥失敗したときに「ごめんなさい」と言える
⑦みんなと仲良くする
⑧分からないときに質問する
できないことはどんな支援をうけたらできるようになるかを考える。チェックを本人/家族/支援者で行い,ずれを確認する。

・事業所の実習をしたら,情報や体験の見える化をする。
仕事内容,通勤方法,昼食,一緒に働く人(近い年齢の人がいるなど),教えてくれる人,職場の雰囲気,休憩時間の過ごし方,などを本人の言葉で引き出す。
・支援にあたって,遠慮は不要,配慮は必要。

ディスカッション

・高校卒業までに嫌な経験を積み重ねてトラウマになっている子がいる。色んな状況でフラッシュバックする。同僚がひそひそ話ししているだけでフラッシュバックして嫌という子も。
・母親がしっかりしろという場合,子どもが気負いすぎていることも。真面目で勉強ができる場合,なおさら。そのままでいいんだよと言葉をかけるだけで寛解することがある。(向井先生)

・養護学校を利用することにかなり抵抗があるが,就労支援の厚みが違う。成功モデルとなる生徒もいるし,先生方のかかわり方がちがう。ぎりぎりで普通の高校いくよりも手厚いケースも経験した。(白鳥先生)

・小児科から精神科への移行をどうスムーズにするかが医療の課題(吉田先生)

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