絶景とハクモクレンのこと(岡部町、朝比奈川)
早春の光に包まれた巨石の森公園(藤枝市岡部町)を歩いた。朝比奈川の流れは穏やかだが、ねずみ色に濁っている。川沿いを進み岡部若宮八幡宮を越えて左に曲がっていくと、ハイキングコースの看板が見えてきた。
有名な観光地でなくとも、絶景はある。階段を登り終えると同時に夕方のチャイムが鳴り響いた。山の日没は早く、17時を過ぎれば帰りの道が真っ暗になってしまうこともあるが、三月に入ってからは日一日と、日が長くなっていることを実感する。空気は冷たいが、やわらかな西日が早春の山肌を暖めていた。
道なりに進んで萬松院(ばんしょういん)と常願寺を抜けると住宅街に出た。この時期に庭木・街路樹として一際存在感を放っているのは、真っ白な花を咲かすハクモクレンの木だ。
ハクモクレンのまるっと膨らんだシルエット、肉厚な花弁はチョウや小鳥、風船にたとえられることがある。
近づいてみると、控えめな甘さの上品な香りに包まれた。意識したことはなかったが、ハクモクレンの花はわずか3〜4日ほどで散ってしまうらしい。タイミングに左右される早春散歩は、咲と散の万華鏡だ。さまざまな花が咲き、あっという間に散り、そうして新緑の季節へと移ってゆく。
帰宅してから写真を眺める。ハクモクレンとばかり思っていた花はコブシの可能性もありそうだ。あの白い花はまだ咲いているのか、街路樹にまかれる品種説明のプレートを欲する日が来るとは。