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【泣ける話】ひぃばぁちゃんの形見に命を救われた件



これはまだ、私が小学生ぐらいの時です。

多分、3年生か、4年生。

そのころ、まだひいばあちゃんが生きてて、
ばあちゃんちで、じいちゃんとばあちゃんと一緒に暮らしていました。
そのひいばあちゃんはすごい活発な人というか。

とにかく山登りが大好きな人でした。
毎日朝早くに近所の山に登っては、山菜と、それから枯れ木を拾って来ていました。

お母さんは、ひいばあちゃんが採ってくる山菜が大好きでした。

ばあちゃんは

「山で倒れたって探さんからね」

が口癖で、90を超えても毎日山に登るひいばあちゃんの事を心配していました。

私は、ひいばあちゃんが拾ってくる枯れ木が好きでした。

朝ごはんが終わると、私は一目散にひいばあちゃんの部屋に遊びに行きました。

そこはひいばあちゃんの工房みたいになっていて。
ひいばあちゃんは拾ってきた枯れ木から、木彫りの人形を作るのが趣味でした。

あれですよ? 
木彫りの人形といっても、雑い感じの怨念とかがこもってそうなやつじゃなくて。ホントに人形。

それも、こけしみたいなのももちろんあるんですけど、猫とか犬とか。
そういうかわいい動物の人形も、のこぎりとか彫刻刀とか、やすりとかできれいにピカピカに磨いてあって。

私にとってのシルバニアファミリーは、全部ひいばあちゃんの手作りのものでした。

ひいばあちゃんの部屋に行くと、私は

「今日は猫作って!」

とか

「今日はアンパンマン!」

とか、本当に好き勝手自分が思いつくまま、ひいばあちゃんに発注をかけていました。
ひいばあちゃんはどんなものを言っても、

「はいよ」

って言ってなんでも作ってくれました。
ひいばあちゃんがわからないものは私が写真を持って行ったり
画像を見せたりして。

ひいばあちゃんはその写真をじっと見ると、軽くうなずいて、腕まくりをする。
それが開始の合図で、しるしも何もつけず、豪快にのこぎりで枯れ木を切り始めました。

私はそんなかっこいいひいばあちゃんが大好きで、ずっとその作業を眺めていました。
まあ、もちろん子供の集中力なんてそんなもつわけもなく、
完成までほぼひいばあちゃん手作りのシルバニアファミリーで遊んでたんですけどね。

それでも、私はお母さんやばあちゃんが出かけて帰ってくるまで全く気が付かないぐらい、
ひいばあちゃんとずっと一緒でした。

私はとにかくひいばあちゃんが大好きで、
夏休みや冬休みはもちろん、3連休がある度に、
家族でどこかにお出かけするとなると必ずと言っていいほどばあちゃんちに行きたがりました。

ところがある時。

ひいばあちゃんは、山でけがをしてしまったんです。

幸い、命にかかわるような大きなけがではありませんでした。
それでも、それ以来、手に小さな後遺症が残ってしまいました。

細かい作業をしようとすると、どうしても手が震えるようになってしまったんです。

ひいばあちゃんはそんな中でも一生懸命私に変わらず人形をつくろうとしてくれました。
でも、やっぱり器用なことが出来なくなってしまったひいばあちゃんが作る人形は、雑い怨念系のそれみたいでした。

幼い私は、ひいばあちゃんが一生懸命作ってくれてるにも関わらず、相変わらず

「プリキュア作って」

とか

「クーピーちゃん(飼っていた犬)作って」

とか、好き勝手な発注をしては、その不格好な人形を見て

「これは違う」

「こんなのいらない」

と突き返してしまいました。

それで

私はとうとうひいばあちゃんの部屋に行かなくなりました。
ひいばあちゃんのシルバニアファミリーの事もすっかり忘れ、
誕生日には本物のシルバニアファミリーをおねだりしました。

それから、3連休は旅行に行く機会が増えました。
夏は海に行って、冬はスキーに行ったり。

少しずつ、ばあちゃんの家にもいかなくなっていました。

それから一年も経たないうちに。

ひいばあちゃんが亡くなりました。

ひいばあちゃんの遺品整理の時。

「ひいばあちゃんの人形、いるかい?」

ばあちゃんにそう聞かれた私は、「いらない」と答えました。

でも、お葬式の時。
棺桶の中で眠るひいばあちゃんの手を見て、私は泣き崩れました。
ひいばあちゃんの手が、たくさんの切り傷でボロボロだったんです。

「ごめんなさい。ごめんなさい」

そうやって泣き続ける私に、
ばあちゃんはごみ袋いっぱいの人形を全部私にくれました。

そこには、見たことのないクーピーちゃんの人形がいっぱいありました。

もちろん、どんな順番で作ってたかはわかりません。
でも並べてみると、それは少しずつ上手に、昔のかわいい人形に近づいているようにも見えました。
それでも、不格好には変わりなかったですけど。

私はその一番かわいいクーピーちゃんを、学校にもお出かけにも、とにかくどこへでも連れて行くようになりました。
手で持っているとなくしちゃうから。
お母さんがその子を鈴付きのキーホルダーにしてくれました。
学校に行くときにはランドセルに。
お出かけの時はお財布に。つけるところがなければズボンにつけたり。
とにかくどこへでも。

学校で、「なんでそんな気持ち悪いもの持ってるの?」
とバカにされたことも何度もありました。
でも、私はその優しい鈴の音と、不格好なクーピーちゃんが大好きでした。

そんなある日のことです。
私は学校から帰ってくると、ランドセルを背負ったまま、クーピーちゃんのお散歩に出かけました。

すると突然。
クーピーちゃんが交差点の向こうに仲良しのお友達犬を見つけて、駆けだして行ってしまいました。
突然の事で、私はリードを放してしまいました。

走っていくクーピーちゃん。
私も必死に追いかけます。

リンッ

私の背中で鈴の音が響き、クーピーちゃんも私も立ち止まって後ろを振り返りました。

「あーーーー!」

ひいばあちゃんが作ってくれたクーピーちゃんの人形が、地面で真っ二つに割れていました。

その直後。
ものすごい勢いのトラックが交差点を横切っていきました。

あの時、そのまま走っていたら。

あの時、クーピーちゃんの人形が壊れていなかったら。

雑い怨念系の人形には、ひいばあちゃんの愛情が込められていて、
私はそんなひいばあちゃんの念に守られたのかもしれない。


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