ゾウ流 建築探訪の作法
さあ、今日は一日じゅう建築を見るぞ! とスケジュールを建てると、午前午後で2作品か、3作品だ。多くても4つが僕の限界だと思う。
在りし学生の頃は、一日10作品見るのもざらだった。貧乏学生がなけなしのお金をはたいて建築旅行に来たわけだから、いっぱい見尽くそうという魂胆。せわしなく移動しては見て、移動しては見て、1作品に30分しか滞在できない、というのもよくあった。
設計業に就いて数年たった時以来、一日のあいだに見れるのは2つか3つになってしまった。
老いたか、ゾウよ。と言われるかもしれない。
。。でも違うんだ、建築を見る「作法」が。
学生生活を終えて、実作をつくりだすと、様々なものが見える。コンセプトから出たデザインのシステム、ゾーニングなどの空間構成といった大まかなものから、天井と壁の取り合いや樋のデザインといった細部まで、全部気になるのだ。
ぼくの建築をみる「作法」は、少なくとも2度みることだ。
1度目は、建築を感じること。ファサードがかっこいいなとか、素材がいい感じとか、吹き抜けの空間が気持ちいいなとか、光の感じが美しいな、とか。
建築を五感で感じることだ。そこには考察はなく、ただ建築空間に身を委ね、そこから出てくる感情を味わう。
そう、学生の時に建築を訪れるにあたり見ていた方法だ。
2度目は、同じ空間をゆっくり歩きながら、ときおり測定し、つねに考察することだ。
測定といっても、すべてにメジャーをあてて測ることはない、ゾウとはいえ人目が怖いし、日が暮れるので。
メジャーのほかにも、自分の手を使ったり、足を使ったり、身長を使ったり、壁材のサブロク板サイズなどのモジュールから、そこから天井高さを推定することなど、おおざっぱな方法も使う。
いくつかゾウの、測定ツールを紹介します。
メジャー、僕はコンベックスと呼んでいる。
コンベックスを片手に持って美術館の柱なんかを計っていると、他の来場者から怪訝な顔をして見られる。警備員なんかは何かイヤホンで誰かと話し、人を呼ばれるそぶりをするので、ある種危険なツールである。
しかし、ぴたっとミリレベルまで計測できる便利ツールのため、ここぞ!いったところに測りたい。
僕の手は便利だ。手を目いっぱい広げてちょうど20センチ。
壁材の割付寸法を手のひらを伸ばして測り、一つの壁材のサイズを測ることで、時に空間全体の寸法を知ることさえできるかなり便利なツールである。サッシの見付寸法を測るのにも便利。
僕の足のサイズは26センチだが、靴はだいたい30センチ。
左足と右足をぴたりとつけて歩くと、床などの概算の寸法をあたることができる。また、私の大またの一歩は1メートルだ。5 ~ 6 メートルのモデュールならば、足だけで図ることができる。
しかも、歩いているだけなので、怪しまれないという特徴も持つ。ここすごく大事!
ゾウのモンタージュ。僕の身長は174 センチである。天井高さなどの計測に役に立つ。
天井高さも、いっかい私の身長がどこにあるか計ってしまえば、後は比で大体の寸法も推定できるツールなのである。
また、僕は身長に対してすこし腕が長い。両手広げれば、約1.8メートルになる。大体の場合、90センチのモデュールの材料を使った空間が多いため便利な測定器具だ。
測定が済んだら、空間を鉛筆で簡単に描写して、寸法を記入していく。そして、特によかったところをスケッチする。その場でスケッチすることもあるし、後でメモを見ながらスケッチを完成させることもある。
1度目で感じた建築体験を思い出し、その空間が素晴らしく良かった要因は何かを見つけ出すために、メモを取り、スケッチする。空間を感じつつ、物質をなめるように見て、分析する。
廻りから見れば、変態! という目で見られることもしばしばである。美術館に来たのに、美術品ではなく、空間を物質を見るような目で眺めて、ぶつぶついったり、なにやらメモをとっているのだから。連れがいたら迷惑だから、建築の旅はできるだけ一人で行くことにしている。
建築を骨までしゃぶりつくすように(ごへいあり!)、堪能する。その目的は、素晴らしいデザインを解剖し、分析し、設計知識にするためだ。僕の今あるいは将来のプロジェクトに大いに参考になっている、と思う。
とにかく、建築はささっとみるより、ゆっくりじっくり見ると、いろんなことが見えてきて楽しいよ、ってことかな。それと、せっかく建築家が一生懸命デザインした作品を、わずか30分で見るのはとてももったいないしね。
ではでは~
ぱなおとぱなこ
建築のことをだらだらとマガジンで述べています↓
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