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内外の格子天井 熊本県立美術館(建築物語7)

今回は、日本近代建築作家で僕が一番好きな、前川國男(1905-1986)さんという、日本近代建築を語るにあたり欠かすことのできない建築家の美術館を紹介していきます。

前川國男は、ル・コルビュジエ、アントニン・レーモンドが師匠であり、あの丹下健三が弟子という、名実ともに日本近代建築巨匠なのです。


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場所は、熊本県熊本市。熊本城、二の丸広場から西に外れた木立の中にひっそりと建っています。

(熊本城は2016年の大地震により、復旧中です。)

2階建てとなっていますが、公園から道路の高低差を利用して、公園側は1階建ての外観、道路側は2階建てに見えるように工夫されています。

二の丸広場や熊本城の景観に配慮して、樹木より高さが抑えられています。


(なおこの建築は本館です。別の場所に別館がありますがお間違いなく!)


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前川國男の空間構成は、機能主義といった単なる均質空間ではありません。

高さや平面の違うシンプルに四角いヴォリューム(塊)を配置し、その隙間にできた開口からいかに光を取り入れるか、空間をドラマティックに見せるか、そういう意図が空間に表現されています。



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エントランス前のポーチです。存在感のある鉄筋コンクリートの格子梁の構造そのままのデザインが目に飛び込んできます。うーん重厚ですね。



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エントランスのガラスを貫くように、内部まで格子が入り込んでいくデザイン。1977年竣工の案件ですが、40年前から内外空間の連続性というデザイン言語はあったのですね。



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エントランスホールです。格子の圧倒的存在感!

この格子梁による構造は、ワッフルスラブといいますが、通常はスラブ(床や屋根など鉄筋コンクリートの水平面の部位)の受けとして2~3m毎に梁や小梁が必要です。

ですがワッフルスラブはデザインとして当ピッチで梁を設けているため、面の剛性(色々説明ありますが、ここでは強さといいましょうか)が高められています。しかも上の空間は屋根だけですので、スパン(柱間)を飛ばすことができ、無柱空間が実現できます。

格子の間に照明を仕込んでいますが、それ以外の設備は見当たりません。なお、空調設備は壁からの模様です。


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僕だったら、もう少しコンセプチュアルに空調設備と格子を絡めて収めたかったかな、と訪れた時考えていました。

しかし、大空間においては天井からの空調吹き出しよりも壁吹き出しの方が温熱空間が快適となることと、天井の上部は屋根であることから、空調機を格子に無理に仕込むことはないと、思い直しました。


ワッフルスラブは、外の空間(庇まで)連なっており、内外の連続性が感じられ、自分が外にいるのか、中にいるのかあいまいになってくる空間体験ができます。

サッシは梁の部分に収められているため、機能的にかつ空間の内外の連続性を損なわないディテールになっています。



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柱も、プロポーションが細くて美しいですね。

ワッフルスラブと併せて、レンガタイルの壁も内外にわたって設えられています。床も同色のタイルが使われていますので、空間にはタイル・コンクリートの2種使いで、非常にミニマルな素材構成となっています。

だから、色々な素材を使うなどして余計な情報がないので、ダイナミックな空間が浮き上がってくる。


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エントランスと展示室を繋ぐブリッジです。先端同士をスラブで連結し、中間部を柱から出した金物で止めている、力学的に緊張感のあるブリッジです。


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ブリッジそのものも柱につながっていますが、加えて上部のロッドとブレースからなる部材で吊り、2点で支えています。

ブリッジのスラブは、下向きに湾曲しており、そのツルリとした質感は、外からの光を反射させています。


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型鋼のサッシです。この年代のものは、現代のように商品としてのサッシが少なかったため、造作となっています。金物がかっこいいですね。

つぶし枠などにすることによりサッシを壁の中に消し、より内外の連続感をつくりだすことができますが、これはサッシをちゃんと見せています。



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レンガの塊に、打たれた正方形の開口部が美しいです。彫の深いサッシもよいですね。


レンガと格子梁の重厚な建築でした!

ヴォリュームの重ね合わせにより、できた開口部をそのままサッシにする。彫の深い開口部は、外観として深い影を落とすことだけでなく、内部にシャープな光を落とします。


この熊本県立美術館は、前川國男の晩年の作品ですが、これと近い年代、近い場所に建てられた福岡市立美術館もすごくいい建築なので、またの機会に、紹介したいと思います。


ぱなおとぱなこ


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