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小宇宙の店舗 虎屋京都一条店 (建築物語20)

今回は、小さなお店建築です。雨の京都、お茶をいただきながらスケッチを描いてきたのでぜひご覧ください。小さな店舗ながら、内藤廣さんの丹念につくりこまれたデザインを感じることができる建築となっています。


虎屋京都一条店は、地下鉄烏丸線『今出川』が最寄駅です。京都御所を眺めながら南下して、西に入った一条通りにあります。


虎屋は、その歴史を辿ると寛永5年(1628)以前に発祥したとされる和菓子の老舗です。その京都一条店は、和菓子を販売する店舗と、店でゆっくりといただける菓寮からなり、今回は菓寮を訪ねてきました。


店舗の建築・内装設計は、内藤廣さんです。”海の博物館”や、”島根県立芸術文化センター(グラントワ)”など、公共建築の設計をイメージされる方も多いと思います。一方で、自邸が有名で僕も大好きですが、小さな住宅や店舗も多く手掛けられています。僕が建築設計の道を目指したきっかけも、内藤さんの作品でした。


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手前に蔵のようなギャラリーと、奥に低い軒のお店という構成となっています。設計担当者によると、「一条通りは無個性な景観が残ってしまった。ここはかつて土蔵や庭、稲荷神社があったとされ、我々の提案は大きな屋根をかけることだった」そうです。切妻屋根のつくるスカイラインや、羽目板張りの木の壁が、京都らしさというか、虎屋の歴史を表象するかのようです。


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ギャラリーの外壁は白いタイルが張られています。彫の深い開口部がファサードのアクセントになっています。屋根と壁の取り合い部は木の羽目板張りとなって屋根・木の壁、タイル壁の水平ラインが強調されています。取り合い部を奥に凹ませるというデザインコードは、建築をよりシャープに美しく見せる基本的なテクニックです。


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かど丸の小さなタイル。縦線の入ったタイルがランダムに配置されています。よく見ないと気づかないような、細やかなこだわりです。和菓子を模した特注のタイルだそうで、ころころと可愛らしい和菓子のようで、おいしそうに見えますね。少しR面になったタイルのつくりだす陰影も美しいですね。


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水をたたえたアプローチになっており、涼しげですね。縁側のようなテラス席に惹かれて、こちらの席に案内してもらいました。垂木のような木ルーバーは、ホームベースのようなかたちとなっています。



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通り側のテラス席の様子です。天井のルーバーから、すりガラスの木製建具から、ほのかな光が入ってきます。ホームベース型の断面形状をしている木ルーバーは、先端がとがっているので内部空間側からはシャープに見えます。また奥にいくほど太くなっていくため、天井内部が見えにくくなります。そんな風に、インテリア側からはすっきりして見えるけど、屋根を支える部材や設備配管等、見せたくないものを隠すデザインとなっています。


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天井のルーバーの上部はガラスとなっており、間接光を内部空間に照らします。テラスのルーバーは店内に入り込むデザインとなっています。ルーバーが入っていくところのサッシはルーバー上部に隠されており、透明性が高いので内外の区別がつきません。

木製建具は、鴨居(建具上部の枠)が天井の鉄骨から吊られており、鴨居がテラス周りをぐるっと囲んでいます。鴨居の吊材はフラットバー(平鋼)の組み合わせでできており、ルーバーの隙間に配置されています。内藤さんの建築はフラットバーやアングル(L字金物)など規格部材で魅せるデザインが見どころのひとつと僕は思っています。

ルーバーの隙間に照明器具や、のれんを吊るす材が納められています。照明器具は、虎屋のマークになった形状になっており、きめこまやかな配慮がされています。



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水盤は、見た目が涼やかになることや、植栽を映し出す機能だけではありません。雨水は屋根から落ちた雨水がそのまま水盤に落ち、砕石下の側溝に流す、自然な計画となっています。

ちょうど雨だったので、切った縦樋から水盤に落ちた水が、側溝に流れていく、一連の流れが良く見えますね。


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ルーバーが入り込んでいくところのガラスが、あなたにはみえますか?

店内側のサッシは、十字のかたちの柱から金物を持ち出して支持されています。内藤さんの建築には、そんな力点が見られるからいつも勉強になります。

すだれが埋め込まれた戸によって、和の風情が感じられます。




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生菓子と抹茶ドリンクのセットで1,350円。ちょっと高いけど、上質な空間で頂く和菓子のひとときは格別です。

店内にお客さんがたくさんいて、内部の写真撮影はやめておきました。店内のRの効いたルーバーと間接照明の天井はとても美しいのでぜひ実際訪れて見てください。一見の価値ありです。ギャラリーのサッシレスの窓なども必見です。

トイレの床は、グラントワで使われていたウリン材でした。フローリングにしては少しクセのある赤見の強い材なんですが。過去作で使った材を使うなんて、なんか遊び心あるなーと。ちょっとにやっとしました、マスクの下で。


虎屋京都一条店「菓寮」は、内藤廣さんの丹念なディテール・デザインがちりばめられていました。屋根の軒先のシャープな納まりや、内外にわたるルーバーなど、内藤さんが今まで設計してきたテクニックをふんだんに感じることができます。小さな店舗ながら、文章が長くなってしまうほど、ぎゅっとつまった建築です。

一方で、虎屋のマークになっている照明や、壁のタイルなど、よく見ないと気づかないような細部にまでこだわりが見られ、きめこまやかなデザインは店舗ならではだな、と思いました。公共建築で見せるダイナミックな建築ではないですが、1分の1よりも拡大してものをみてつくったような、解像度の高い建築です。


ぱなおとぱなこ



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