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日本の美学を感じる 福岡市立美術館(建築物語16)

福岡市郊外の、豊かな水をたたえる大濠公園のほとりに佇む美術館です。高齢者がジョギングしたり、子供たちが遊んでいたり、鳥がさえずり、のどかな日常風景の中にある建築です。

設計は前川國男さん(1905-1986)。若いころにル・コルビュジエに師事した、日本のモダニズム建築界の代表的な建築家です。以前紹介した熊本県立美術館は1976年竣工で、この福岡市立美術館は3年後の1979年竣工です。


お城公園の中というのも、熊本県立美術館と似ています。熊本は大空間を実現する格子梁の天井の建築でしたが、福岡のそれは信楽焼と常滑焼の風合い豊かなタイルの外装と、アーチ状のPCで構成された内外空間ともに要になっている構造体が美しい建築です。

PC・・・プレキャストコンクリート。あらかじめ工場でつくられたコンクリート。型をつくって製造するため、同じカタチのピースがコストの観点から望ましい。


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水辺からみたファサード。熊本でもそうでしたが、前川さんの公共建築は、周辺環境に溶け込んでいますね。木々が成長して、木に隠れるようにそっと佇んでいるファサードです。モダニズム建築っていうと、例えば丹下健三の東京カテドラルなど、街のシンボルというか、何か彫刻作品のようで威風堂々としています。対して前川さんの建築は、周囲に溶け込むよう、そっと置かれるようなイメージです。ヴォリュームの在り方が、奥ゆかしいというか、一周回って現代的なコンセプトを持っています。

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2種類のサイズの違うタイルがコンクリートを下地にして張られています。正方形を45度回転した斜めに割り付けられているタイルはあまり見たことがないので、思わずスケッチしました。

タイルの色彩は不均一で、色ムラがあります。これも前川さんが設計上こだわったそうです。タイル一枚はとても小さなもので、この建築には気の遠くなるほどの枚数が使われています。そんな細部にまでこだわったこだわりを感じることができます。


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1階と2階でタイルのサイズ・割付を変えています。よく見ると、2階のバルコニーの上部のデザインの切り替えのところでもタイルの割付を変えています。


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出隅部分のディテール。特別に作った役物タイル(コーナー部のタイル)は入隅の形状(引っ込んでいる)をしており、角に陰影を落とすことにより建築のかたちのラインを強調しています。

ここで建築概要を。

所在地:福岡県福岡市中央区大濠公園1-16
竣工:1979年
設計:前川國男
施工:戸田建設
規模:地上2階建て
構造:鉄筋コンクリート(PC)造
のべ面積:14,723㎡

結構大きめの美術館ですね。その大きさをあまり感じませんでした。むしろ、ヒューマンスケールでよく細部までデザインされているので、こじんまりとした建築だな、と訪ねたときは思っていました。


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PCは、構造躯体そのままのカタチをファサードに表しながら、内部まで貫通しています。アーチの一つ一つがPCのピースになっていて、連続したアーチがファサードの印象を決定しています。

このアーチの部分が構造部材でいうところの梁にあたるわけですが、梁の中間部は応力(躯体の荷重や、地震や雪などによる力)が小さいので、本来は梁の中間部は小さい部材でよいのです。だから、アーチ状の梁は、力学的に理にかなっているんですね。

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内部ではアーチに向かって上向きに照明器具が取り付けられ、光が円弧にあたり、拡散することによって、内部空間に均質な照度を提供しています。アーチがそのまま庇になるデザインは、現代の建築でも大いに取り入れられています。いや、それにしてもレトロでなんとなく懐かしいような風情を感じますね。

ちなみに2019年に大規模改修がされたとか。前川さんのコンセプトを引き継ぎながらも内外装にわたって改修されたと聞きます。改修後のこの美術館に行ってみたいですね。どこが改修されたかを見つけて、もとの建築との比較がしたいです。

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窓回りのスケッチです。形が曲面だけに、特別にオーダーしたサッシが取り付けられています。なるべくサッシ方立の見付(正面から見た幅)を小さくして、中と外の連続感を際立たせています。

サッシを均等に割り付けるのではなく、中央に大きくとることによって、外の景色の視認性を確保しています。柱にサッシをそのままぶつけるのではなく、スリット窓になっているのも細かいデザインですね。

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中庭と吹き抜け空間。内部にいるのに、外のような、気持ちの良い空間でしたね。スラブの部分の仕上げがそのまま外に飛び出していくのも良いですね。今日、建築家の空間づくりの手法として常識になっているデザインです。まさにお手本。


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無造作に草間彌生の作品が展示されています。茶で統一されたエスプラナー度(前川が好んで使っている、なにもない広場の空間)に黄色が良く映えています。


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きっと、竣工当初は鋭利な刃物のようなシャープさが美しい建築だったのでしょう。40年経ち、いささか古くてレトロ感はありますが、もっとポジティブな印象です。

建築が本来持っていたエッジはまるくなり、PCの肌はすすけ、色むらのあるタイル、樹木の高さに負けた建築。僕はこれはこれでとても美しいと思いました。

経年変化により醸成された表面の、また内なる美しさを「わび、さび」というそうですが、この福岡市立美術館はそんな美学を感じます。僕も日本人ですね~。前川さんはこんな40年後の姿を想像して設計していたのでしょうか。その熱気で満ちたであろう前川さんのアトリエ風景を想像すると、ロマンを感じています。


ぱなおとぱなこ


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