特論72.水分補給について

◯レッスンで水を飲むということ

思えば、一昔前は、飲食物をスタジオ内に持ち込むことを禁じられていました。また、空気清浄機や加湿器などもありませんでした。30年以上前のことですが、まだ運動部などでは、お腹が痛くなるから水を飲まないとして過ごしてきた人も多く、ようやく、その頃から、水分補給の必要が注意されてきたのです。
スタジオや舞台などは、乾燥していることが多く、そういったところでの活動に対して、日ごろからある程度慣れておかなくてはいけないこともありました。
特にホテルの乾燥がひどく、まず多くのアーティストが対策したのは、ホテルの部屋で喉を痛めないことでした。
 
今では、スタジオや舞台には、必ず飲み物を用意するようになっています。加湿器どころか吸入器なども使われ、喉の乾燥などに、とても気を遣うようになってきたといえます。
それはよいことですが、いろんな状況に対応するためには、自分自身を鍛えておき、悪条件でも力が発揮できるようにしておくことが基本です。さらにいろんなことを知った上で、対策を取れるようにしていくことが不可欠です。
 
時々、レッスン中に何口も水を飲む人がいて、注意することがあります。ちょっと調子が悪いとすぐに水を口にする人も増えました。そういう癖がつくことはあまりよくないからです。
もちろん、体調や状況にもよりますが、調子の悪いときはともかく、できるだけ、他のものに頼らないようにして、実力を発揮できるような能力をつけることは、活動の上でとても大切なことです。レッスンは、そういうことを試行錯誤して自分を知っていく場でもあります。
それとともに、基本的なことで勘違いをしている人も多いので、知っておく方がよいことを述べておきます。
 
 
◯身体と水分
 
水を適量飲むことは、とても重要なことです。まずは、脱水症の予防としてです。
 
私たちは毎日、尿や便、汗や呼吸などによって、1日に約2.5ℓの水分を排泄します。
(一般的な成人の安静状態で)。
つまり、摂取する量は、この排出量と同じだけ、必要ということです。
でなければ、体内に水分量が不足して、脱水症になります。
しかし、水分は、飲む水からだけ摂っているのではありません。
 
1日の水分摂取量 は、
食べ物・・・ 1.0ℓ
体内でつくられる水分(代謝水)・・・0.3ℓ
となると、必要な飲み水は、1.2ℓです。
これは最小限、必要な量といえます。
 
1日の水分排出量は、
尿、便・・・ 1.6ℓ
汗、呼吸・・・ 0.9ℓ
この汗、呼吸での排出量が、活動や練習で、増えるわけです。
 
 
◯脱水症の症状
 
まずは、水分の不足時の危険性からです。
 
体重の何パーセントかの水分が減少すると、次のように症状が悪化していきます。
2% ーのどの渇き、運動能力が低下し始める
3%──強いのどの渇き、ボンヤリ感、食欲不振
5%──疲労感、頭痛、めまい、熱中症の症状
10%──筋肉の痙攣、意識障害
20%──死亡の危険性
 
発汗、下痢、嘔吐などで血液中の水分量が減少すると、体内では細胞外液と細胞内液の移動によって、体液を維持するための調整が行われます。しかし、水分補給を行わず、脱水が進むと、細胞外液の1つである血液が濃縮され、循環機能の不全を起こします。それにより酸素や栄養素の運搬や体温調節に障害を起こしてしまうことがあります。
 
 
◯水を飲み過ぎない
 
次に、水分の過剰摂取での危険性について、です。
それによって身体にあらわれる症状を水中毒といいます。
その原因は、腎臓の処理能力を超えた水分量を急激に摂取することで、細胞がむくんだり、血液が希釈されることにあります。
血液中のナトリウム濃度が減少する低ナトリウム血症が、主な原因として知られています。ナトリウムは、塩分のことで、血液や細胞内外の体液バランス(浸透圧)を調節したり、神経内で情報を伝達する働きをします。
水中毒では、軽い疲労から、頭痛、嘔吐、錯乱、痙攣、昏睡状態、 呼吸困難などの重度になります。
(多飲症というのもあります。)
 
 
◯水分の正しい摂り方
 
適度な量の水分を適切なタイミングで摂取することが大切です。その水分量は、人によって状況によって違います。
年齢・性別・身長・肥満度・健康状態・運動量などによっても違いますし、気候・湿度、生活や職場の環境などにも関係します。
 
一般的な成人で安静状態にある場合、どれくらいの水分量をどのようにして飲むとよいかは、およそ示されています。
飲み水による水分摂取は1日1.2~2ℓまでに留める。
一度に飲む量をコップ1杯以下にして、ゆっくり飲みます。
ガブ飲み、一気飲みは、しないことです。低ナトリウム血症を引き起こすリスクがあります。
 
起床から就寝までの間で、7~8回に分けて飲みましょう。
脱水の対策としては、起床後・入浴前・入浴後・就寝前に給水するとよいでしょう。
消化の促進もあるので、朝食・昼食・夕食の時にも忘れないことです。
となると、それ以外のときには、さほど必要ないともいえるのです。運動や練習の前後に補うくらいでよいでしょう。
 
 
◯飲み過ぎを防ぐために
 
飲み過ぎを防いだり、不必要に飲みすぎないことが大切です。
メモリ表示がついたポットを利用するなど。
多くを補給する必要のあるときには、水でなく、経口補水液やスポーツドリンク、塩アメや梅干しなどにする、
 
経口補水液は、市販されていますが、簡単につくれます。(500mlなら、砂糖大さじ2杯20g、塩ひとつまみ1.5g、レモン汁を加えるとよいでしょう。)
熱中症予防にもなります。
高血圧や糖尿病など、塩分糖分の制限のある人は、注意が必要です。
ポカリスエットなどスポーツドリンクと同じで、スポーツなどで汗をかくことがない普通の人の普通の生活では、常用しないことです。それらは水で薄めて飲むことをお勧めします。
 
 
◯発声での対処法
 
のどの渇きでなく、口内の渇き程度であれば、飲水をせずにうがい、あるいは口内に水を含ませて、しばらくして飲むか吐き出してすませてもよいのです。
発声との関連では、飲んでもすぐに声帯にまで水分が回るわけではありません。体内をその水分が回るには20分ほどはかかります。ということは、そのタイムラグをふまえて対処することとなりますが、あまり神経質にならないことです。
 
 
以上、一般論で述べましたが、こうしたことは、個人差や状況での違いが、相当にあります。健康に関わることですから、こうしたアドバイスは参考に留め、自分自身の把握とその都度、対策を考えていくことが大切です。心配な人は、医者などの専門家に相談ください。
 また、論点23「「ウーロン茶は喉に悪い」について」もお読みいただくと、飲食物について、参考になると思います。

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