論23.「ウーロン茶は喉に悪い」について

このところ、ウーロン茶と発声についての問い合わせが続けて届きました。ヴォイトレにおいて、「ウーロン茶害悪論」というのか、ウーロン茶は、よく悪玉にされています。悩んでいる人や悩ませている人がいるので、この機会に詳しく説明しておこうと思います。指導者で「絶対に禁止」といっている人も多いようなので…。

この質問は、結構、何回も取り上げて、長い答えとなっているので、最新のショートヴァージョンを最初に出しておきます。


◯トレーナーが、ウーロン茶はダメと言うんですが、本当ですか。☆

なんとなく、日本ではそれが常識のようになってきたようで怖いものですね。

トレーナに言われたために、喉がカラカラでもウーロン茶が飲めない、飲んだら悪くなると思うと、本当に悪い結果になりかねません。

私自身は、ウーロン茶であれ、水であれ、かまわず、少し喉が乾いたら補給します。声を出す直前でも、その合間に出されても全く影響はありません。

「そんなことでプロができますか」というよりも、禁じる理由に科学的所見などありません。

ウーロン茶は油分を落とす、そのために喉の動きが悪くなる、という人が、広げたのでしょうね。中華料理の後、ウーロン茶を飲んで、さっぱりした経験からでしょうか。発声の仕組みは、機械のように油分で動いてるわけではありません。

誰かから、そう教えられると、自分の体感として実感していってしまうので、それは1つの制限になってしまいます。まして、トレーナーであれば尚更です。そうなったら飲むのを避けるしかありません。できるだけ、活動上に、そういう制限をつけないようにした方がよいと思ってください。

でも、「いやほんとに、自分は、ウーロン茶で歌いにくくなったり声が出にくくなるんです」と体感した人もいると思います。それは個人差として、その人が気をつければよいことです。

もし、私がそう感じたなら、自分でウーロン茶を水で薄めていくと何%になれば、その影響が出なくなるかぐらいは追求しますが。  

ついでに、水分補給について、

「毎日2リットル以上、水を飲まなければいけない」などというトレーナがいて、びっくりしました。個人差はありますが、2リットルは、ほぼマックスです。

ステージなどでひどく汗をかいたなら、水分補給がそれを超えてもよいと思います。が、ヴォイトレは、そこまでハードではありません。まして、そうでない日も毎日となると。

その場合では、水だけではよくありません。塩分や糖分を同時に補給することです。

なんであれ、少しずつ飲む分にはよいのですが、一気にたくさん飲むのはよくありません。

喉が渇いたと思う前に、ひと口、飲む習慣づけが、お勧めです。

人にもよりますが、水を大量に飲むことは、水毒症など、命に関わることもあるので気をつけましょう。

もとい、以下は、詳細説明です。

〇ウーロン茶が害とされた理由の検討

よくないという人の論拠は、「ウーロン茶は中華料理で口内が脂っぽくなるのをさっぱりと流す働きがある」、つまり、「喉の粘膜やねばりけをなくすからいけない」ということのようです。その状態で発声すると喉を痛めてしまうという感覚、イメージです。

たしかに、声楽家やヴォイストレーナーにはそのようにアドバイスする人もいます。なかには、そのことばを信じている人もいるし、自らの失敗談として、伝える人もいます。あるいは、実際に試してみたらそうなったという人もいます。

まあ、試せるのですから、「試してみて、自分で考えればよい」と思うのですね。別にウーロン茶しかないわけでありませんから、プーアル茶とかルイボスティとかすべて試してみるとよいと思います。

私には、どうでもよいことで、気にしていませんが、他の人に説明しなくてはいけない立場なので、できるだけていねいに伝えたいと思います。本気で調べるなら、飲料を何十種類か研究室へ持ち込めばよいのです。しかし、そこで、何を基準に発声との関連を決めるかを定める方が困難でしょう。

いくつかの前提となる指摘をしておきます。まず、喉というのが声帯の状態を指す場合、潤っていて発声によいということと飲料との関係なら、まったく論拠になりません。声帯の間(声門)を水は通らないからです。声門から入ると誤嚥になります。健康な人ならむせて咳で出してしまうので、そこでよくないということです。これは飲料の種類と関係ありません。

声は、声帯の粘膜部の開閉での振動によって生じます。ここに声を出しやすくする?油分があって、それをウーロン茶が流すとガサついてしまうというのは、イメージかもしれません。水分は食道へ流れ、気管には入りません。

喉というので咽頭、口から食道までの間のところをさすのであれば、口内が乾いているのを、ウーロン茶がより乾かしたりガサつかせることはありません。

では、体験としてどうして、そのように感じる人がいるかというと、そのときのイメージ、(人に聞いたことによる暗示と、スッキリ感による感覚)と、もう一つ、飲んだすぐあとに、ということによるのでしょう。

先にもっとも理想的な状態を説明しておくと対比しやすいでしょう。体内に充分に水分が入っている結果として、声帯は潤います。口内は適度に唾液でみたされていて、乾燥していないのが望ましいでしょう。つまり、口内なら最良の状態は、分泌した唾液によって覆われているのです。それに反するのがドライマウス状態で、緊張などでも起きます。

ウーロン茶でなくとも、水っぽいものを飲むと、そのときに乾燥していた喉(口内や咽頭)はしめらされて、喉の渇きはおさまります。このとき、唾液も流されているのです。これは発声に必ずしもよい状態とはいえません。何分もしないうちに唾液で再びしめらされた喉は、よい状態に戻ります。飲んで、それを待たずに声を出すのがあまりよいとはいえないのです。


〇レッスンで思い込みをなくす

思い込みというのは難しいもので、それを信じるとその方向へ感じるようになります。自分で感じたから正しいとなります。「緑茶、プーアルはよいけど、ウーロン茶はよくない。」そこで「絶対だめ」って決めつけた人は、控え室にウーロン茶があっても飲まないでしょう。近くに水を求めにいくとか、がまんしてメンタル的にロスがでてしまうでしょう。

美空ひばりは30曲くらいのステージで水は一滴も飲まなかったといいます。ステージは照明で乾燥するし、昔は、ほこりやたばこの煙で喉に悪いことがたくさんありました。ハードでタフネスな天才と比べても仕方ないと思いますが、時代や環境が違ってきていても、私としては、あえて不利な条件を増やさないようにすることが、対処の基本と考えています。

いろんな知識を得て、さまざまな防止策をとりつつも、自らの喉を強くしていきましょう。ちょっとしたことくらいで不調にならないように、また不調も経験して、そのなかでも、より悪くしないだけのタフさも身につけておくことです。

本番中、こまごまと水分補給をしているとけっこうな量になり、胃に負担になることもあります。早めに給水しておき、よい状態で本番を迎えることです。本番中はあまり水や他のものに頼らないことです。トイレなど、いろんなリスクが生じるからです。

レッスンでも同じことです。そういうことを身をもって試すためにレッスンがあるともいえます。

昔の人は声がよくなる食べもの、声によくない食べもの(飲みものも含む)などを経験から出しました。偉い人のいったことは伝承されていきました。そういう人がいったからと信じるのもよいのですが、こればかりは個人差があります。

「私には、ウーロン茶はよくない、よくなかった」というのはわかります。しかし、どれだけの検証をしているのか。たかだか何回の失敗であったとしても、それは本当にウーロン茶のせいでしょうか。まして、発声のしくみからは、おかしな説明で他の人を暗示にかけるのはよくないと思うのです。そう体験した人は「私自身は飲まない」でよいと思うのです。

「水を2リットル飲むとよい」というのも、似たロジックで語られることが多いです。

一気に飲むのはよくありません。体内の水分をきちんと補給するのは、発声以前に健康であるためにもあたりまえのことです。

水分補給ばかりは、年齢とともに準備が必要となります。保水力が落ちるからです。

若いときにできた無理や無茶は、通じにくくなります。ケガと同じで早急に回復しにくくなります。リスクが大きくなるのです。

30代以降の発声の問題はそれによって生じることも多いです。


〇甘やかさない

レッスン室やスタジオは、今や空気清浄機に加湿器、除湿機で発声に最適な状態に整えられています。しかし、プロには意図的にハードな環境で歌うことに喉をならしている人もいます。そこは、アスリートと同じでしょう。 

人間、親切すぎるトレーナーが思っているよりもずっと強いものです。大丈夫と思えば何でもないことも多いのです。

あまり知識を蓄えて、メンタル的なことに弱点や注意点をたくさん集めない方がよいです。知るのはよいのですが、もし自分にはそうであっても、トレーニングで克服していくくらいであってほしいものです。飲料に限りませんが、レッスンこそが、その実験場であり克服の場になるはずです。

ウーロン茶を飲んだあとでも飲みながらでも、同じように声が出るし、何ら喉の状態を損ねないのは、私にとってはあたりまえです。

飲料は飲みすぎないこと、頼りすぎないこと、飲んだら、一呼吸おきましょう。それですむようにしていきましょう。

喉にオリーブオイルやハチミツがよいなどという人もいます。(このまえ、TVで歌唱の直前にハチミツをビンから直接飲んでいる来日外国人をみました。)

これもイメージからでしょう。健康によいものなら、まわりまわって発声によいといえば何でもよくなりますが。

飲食の場合、時間を考えずに云々してもだめでしょう。冷たいもの、熱いものの方が筋肉には直に影響を与えるものです。刺激物、むせやすいもの、糖分の多いもの、胃に負担になったり、炭酸のようにゲップの出そうなものは、別の原因でNG。

スポーツドリング、ハチミツレモンなどは糖分やベタつきに注意。ハッカやメンソール系や喉の水気を奪うようなものは、勧められないといえるでしょう。利尿作用のあるもの、アルコールやカフェイン、乾きもの、乳製品など痰が出やすいものも避けましょう。

あと、水道水を否定する人が多いですが、今の日本では、大丈夫です。本人がイメージ操作されていなければですが。

以下の回答は、飲食も含めた、私の著書(「人は『のど』から老いる『のど」から若返る』)からの編纂です。

喉の油分(この場合、油でなく適度な潤滑油の意味と思われる)をとるのにウーロン茶がよいとか、油分がとれるからよくないと言う人もいます。声帯に届かないので、むしろ、冷たすぎるもの、熱すぎるものに注意することです。

ジンクスとしては、本人の感じることに従うことは、メンタル的に効用があります。しかし、間違った根拠づけはよくありませんし、他の人に通じるとは限りません。

ウーロン茶で声が出にくくなるのではありません。

すぐに唾液で口内が潤うならよいのです。唾液こそが一番と思ってください。

緑茶に関しては、カテキンでの抗菌作用がよいという人もいます。
声帯やそのまわりは、乾燥せず潤っているのが理想的です。

発声の原理から、声帯やその周辺を乾燥させるとハイリスクになるからです。

こまめに水分を摂り全身に水を回しておくことが大切と考えておくとよいでしょう。

ただし、声を出す直前や声を使っているときは、抑えた方がよいでしょう。水を飲んでは、発声したり歌唱している人もいますが、あまりに何回もの過度な摂取はよくありません。


〇お茶と水

熱いお茶をすするのは誤嚥しやすいので、ぬるめにするのがよいでしょう。蕎麦でもラーメンでも、すするものには気をつけましょう。

唾液の量が減って口内乾燥(ドライマウス)するのは、よくありません。薬もそういう成分がよく入っています。 

唾液には口内を潤滑にし、自浄,抗菌、乾燥を防ぐ粘膜の保護、酸性に偏らせないで緩衝します。溶解、消化作用などの働きもあります。

水を急に飲むと血液が薄まりバランスが崩れることもあります。疲労やこむら返りを引き起こします。

水分補給は大切ですが、少しずつ摂ることです。

ここからは年配の人への注意です。身近にお年寄りがいる人も知っておいてください。

飲み込んだ後、息を少し吐くことです。「プハーッ」と吐く息を鍛えましょう。息を吸うときに誤嚥しやすいからです。食べる前も少し声や息を出すと安全です。

汁物よりはとろみのあるもの、あんかけがよいでしょう。中華にはとろみのあるものが多いので、お勧めです。

かつて、おかゆがよいと言われていましたが、今は、おかゆの方が危ないと言われています。誤嚥しやすいのと熱くても流れ込むからです。

注意するべき食べ物(窒息を引き起こす危険で)は、モチ、パン、おにぎり、アメ、ダンゴ、ゼリーなどです。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?