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ゼロのカラダからゼロのマインドを捉える



1、コンタクトインプロヴィゼーションとの出会い

私は今から20年前、大学の舞踊学専攻の学生でした。ダンスというものを深めたいという思いが強く、学校の授業だけでは物足りず、外部のワークショップを積極的に受けていました。19歳の頃、国際的なダンスワークショップフェスティバルの中でコンタクトインプロヴィゼーションというダンスに出会いました。

コンタクトインプロヴィゼーションは自分に触れている相手のカラダの重さや、力の方向性を細かく感じ取り、その情報を全身に送り、その情報に動かされるままに動いていくダンスのメソッドです。バレエやモダンダンスという重力と反対に動くことばかりやっていた私からしたら、結構な衝撃。一週間の集中ワークショップの中で「できない」ことの連続でした。飛んだり回ったり、難しいことをしなければいけないわけではないのだけれど、ただ人と背中を合わせて歩くとか、手を合わせて動くとか、そんなシンプルな動きの中で、マインドと肉体が思い通りに動かないのです。

マインド今思うと「できない」と気付けることは一つの技術だったと思います。日頃のバレエの修練で「自身の動きを観察する」ということに慣れていたから、コンタクトインプロヴィゼーションのワークの中での自分の動きが、外部からの情報と矛盾していることにきがつけたのです。修練好きの私は「できない」ことが不思議で仕方がなくて、その後散々コンタクトインプロヴィゼーションのワークショップを探しては参加するようになりました。


2、ゼロのカラダの発見

何年かコンタクトインプロヴィゼーションと関わっていくうちに、「できた!」という瞬間が増えてきました。自分のカラダと相手のカラダの境目がなくなったような感覚があったり、自分がなんの意思を発動させなくとも、外側の情報に反応して肉体が勝手に動かされているという状態に入ることが多くなっていったのです。この時何が起こっているかというと、力が入りすぎもせず、抜きすぎもせず、すっと大地と繋がって立つことができていて、受け取った情報の分だけ動かされている状態です。力が入りすぎていると、受け取った情報に反発して止まってしまうし、力が抜けすぎていると、情報を肉体で受け取りきれずにふわふわと風のように飛ばされたような状態になってしまいます。マインドが動きすぎていると、情報以上に動いて自分の演出や創造が入ってしまいます。そのような情報の行き違いや、マインドの発動のしすぎのない状態、ニュートラルで立ち、受け取った情報をそのままに動きに伝えられる状態、その感覚をわたしは「ゼロのカラダ」と呼んでいます。


3、直感教育との繋がり

そんな風に十年くらいかけてコンタクトインプロビゼーションというワークを身につけていったのですが、そんな中でヨガや瞑想に出会いました。その中で今まで意識してこなかったけれど、自分には直感力があるということを知っていきました。

そして先日、シュタイナー教育の講義の中で直感教育という言葉に出会いました。

直感教育で言っているのは、人は「ゼロ地点」というところに至った時、直感力が高まり自分が今何をすべきか自然とわかる状態になるということです。

ここで言っている「ゼロ地点」とは、リラックスして、力みがなく、最大限の力が発揮できる状態のことです。「こうしよう」「ああしよう」とマインドが動き回っている状態ではなく、子どもが無心で遊んでいるような状態。こんな状態な時、人はすっと手が出たり、足が出たり、必要なことが力みなしに最大限にできるというのです。そしてシュタイナー教育では、子どもは遊びや暮らしの中で直感力を育て、自由に生きられる状態、つまり自立していくことを目指し、オトナはそのために何かを与えたり教えたりするのではなく、そのための環境を整えるというのです。

私がダンスのワークの中で発見していった「ゼロのカラダ」と言うのは、マインドを超えて直感を優位にし、リラックスして自分の力を最大限に発揮できる状態を作るためのトレーニングになっていたのです。


4,ゼロマインドとは

このロジックに気がついた時、ゼロのマインドというのに思い当たりました。肉体が自らをコントロールしようとせず、必要な情報の分だけ動くというゼロの状態である。その感覚をマインドに置き換えて感じてみるのです。

「考える」「想像する」という意思を捨てて、今肉体が受けている情報を感じている状態。これが「ゼロのマインド」なのではないでしょうか?こんな時、実は「感情」は静かになります。「感じる」という仕事をしている時、それをアウトプットするという仕事はできないのです。

「感覚に意識を向ける」ということはいろんな分野で言われることだと思います。その時に起こっていることはつまり、「感じる」という機能を発動させるということです。感じている時に、私たちのマインドはゼロとなり、そこから閃きやアイディアが直感的に現れてくるのだと思います。


5,多次元的に自分という環境を整える

   / コンタクトインプロヴィゼーションや瞑想が処方になる

ここから導かれてくる一つのメソッドがあります。悲しくて、辛くて、モヤモヤして、怒っちゃって、どうしたらいいのかわからない時、「感じる」ということをしてみるのです。ただ寝転んで背中を感じる。心臓の音を聞く。自分の熱を感じる。悲しみをどこで感じているのか、その悲しみがもたらしている痛みをよくよく感じる。もし少し元気だったら、コンタクトインプロヴィゼーションのワークなどでゼロのカラダを作る作業をしてみるのです。すると私たちはゼロのカラダ、ゼロのマインドに入ってきます。「感じる」深さによって、ゼロからは少し遠くなってしまうかと思いますが、練習していくうちに必ずゼロに近くなってきます。

そうなった時、ふと探していた答えが自分の中に浮かんできます。あるべきカラダの状態に自然と導かれて行きます。

何か問題が現れた時に、なにかを直したり、排除したりするのではなくて、本来の状態に戻っていく機能が発動するように、多次元的に自分という環境(ゼロのカラダとゼロのマインドの状態に持っていくこと)を整えてあげればいいのです。

こんな風に、精神的な問題、脳の問題は、薬に頼る前に、コンタクトインプロヴィゼーションや瞑想が処方になる。そんなことが当たり前になっていく時代も近いのではないかなと感じています。



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