いらっしゃいませ。まずは、こちらの契約書にどうぞ。

Noteを書いていて楽しいのですが、長くなってしまう傾向があるので、あらてめて構成を考えてみました。読みやすく、かつ自分が書きやすい型式として、カフェの食事のような三部構成はどうかな、と思ってます。

そこで、今日はこんなメニューで書いてみます。

前菜:会社の受付NDA(Non-Disclosure Agreement/守秘義務契約)

メイン:受付NDAって、必要?何に使う?契約的に有効?

デザート:NDAと一緒にnon-solicitation(引き抜き禁止)条項が入ってるケースがありました。

ではまず、前菜。

シリコンバレーの会社に訪問すると大抵、ロビー受付で「ビジター・サインイン」のプロセスがあります。一昔前は氏名・所属先・日時・訪問者・訪問理由を記入する紙や「Guest Book」があったのですが、今はほとんどデジタル化されています。オンラインで規約に「同意」するように、「I accept」ボタンにクリックして、終了。

セルフ・サービスのキオスク方式になってる所では名札ステッカーが印刷されるので、洋服のどこかに付けます。同時に訪問相手に内部で「お客様が到着しました」通知が行きます。

有人受付の場合は名札ステッカーを手渡ししてくれたり、サイン・インした後で身分証を見せて、本人確認をするところもあります。

最近よく目にするようになったのが「Envoy」という受付NDAシステム。受付専用のiPadが設置されて、必要情報を記入した後で顔写真が撮られます。最後にNDAにサインして、終わり。「Powered by Envoy」と表示され、後でメールでNDAのコピーが送られてきます。

Envoyは2013年設立のサンフランシスコのスタートアップ。Founderはまだ28歳(若い!)、でもすでにGoogle、Twitterでも経験を積んだエンジニア。どこに行っても受付NDAがあるのを見て、これはいいビジネスチャンス!と思ったらしい。すでに$16million (15億円+)を集めています。

このNDA、受付でぽっと出されて、99%以上の人は読まずにサインしますが、立派な契約です。契約の個別内容で問題な条項もあるかもしれないですが、契約形態としての有効性は一応OK、とされています。

サインはしたものの、何が書かれてたんだろう?
違反すると、どうなるの?
NDAにサイン拒否するとどうなるの?

そんな諸々を考える人は少ないかもしれないですが。。。

次に、メイン・コース。

NDAってそもそも必要なんでしょうか? なんで入館者全員に契約サインを求めるの? 

オフィスの「玄関チェックリスト」項目に入るほど一般化してはいると思います。(ちなみにシリコンバレー外でも一般的なのでしょうか?)

表玄関、会社の看板、受付机、ロビー家具、受付NDA、という感じに。玄関の 下駄箱まわりが整頓されて、靴がきちんと並んでて、花が生けてあったりする「きちんとした」お家と同じような印象になります。

会社側にとって、受付NDAはどういう役割を果たすのでしょう?

1)訪問者のログが取れる。これは意外に重要な情報。

2)昔の紙の「Guest Book」方式だと、ビジターログが丸見えで、他の訪問者の情報が漏れる可能性あり

3)NDAがあることでIPとか機密情報の扱いに注意している企業体制を見せれる。(下請け企業の場合(とくに政府からの契約受注)、「ビジター管理」を義務付けられている場合もあります。)

なので、Envoyのように簡単に展開できる受付システムは結構重宝されるんだと思います。

ちなみに受付NDAにサインしないオプションはもちろん、あります。名札ステッカーに「No NDA」と表示され、入れない場所とか、会話の内容が制限されたりもします。(NDAサインしてないから、この話はできないね〜)とか)。入館お断りされるケースもあるとは思いますが、かなり稀だと思います。

「受付NDAに違反」がもとになった訴訟は私の調べたところまだないようです。ただ、会社間の訴訟や争いの過程で、立件材料として役に立つ状況は多いにあると思います。「何月何日に◯◯さんが△△さんと会ってました、その時にこんな問題なことが話されていました」みたいなくだりで。

受付NDAのシステムで、まだきれいに整理されてない点もあります。その一つは、受付でサインする個人が所属する会社が、すでにNDAを結んでいる場合。会社間ですでにNDAが存在して(しかも複数あるケースもあり)、その会社の人間が(これまた複数で)ミーティングに来ます。ミーティング参加者はそれぞれ受付NDAにサインするので、ではどのNDAがその日の話し合いに適用されるのか?実際には大きな問題にはなってないため、誰も気にせず曖昧なまま放置されているんだと思いますが。

最後に、デザート。

最近訪問した会社でのNDAがEnvoyを通じてメールされてきて、何となく興味がそそられて改めて目通ししてみました。(職業病)

NDAとしては普通の内容なのですが、最後の方に、「non-solicitation」(引き抜き禁止)の条項が含まれていました。多数のサンプルを検証してはいないのですが、受付NDAでこれを入れるのは珍しい感じがします。

人の動きは情報の動きよりもトラッキングしやすいので、この点の違反は分かりやすいですよね。しかも比較的小さな組織であればなお、分かりやすいかと。

知人とランチに来ただけなのに、「引き抜き禁止」にサインさせられるのはどうなんでしょう。たとえば、こんな状況が想像できます。

私がA社のお友達、花子さんとA社カフェテリアでランチ。A社の受付NDAに、私の所属会社名も入れてサイン。(引き抜き禁止条項入り) 普通にお喋りして、その日はおしまい。

後日、私とは関係ない 紆余曲折を経て花子さんが私の会社に転職。

A社は花子さんが我が社に来ることに怒る。(競業会社なので)花子さんがA社在職時の訪問者記録を見たところ、私の名前がある。

私が 花子さんを引き抜いたのではないか、そしてそれはNDA契約違反だとクレームする。

実際には起こり得ないシナリオかもしれませんが。。。理論的にはあり得ますよね。

何事にもオープンなシリコンバレー、ネットワーキングとか友達関係とか、いろいろな理由でお互いの会社を訪問してランチやハッピーアワーやイベントに参加し合いますが、個人の話と会社間の話を上手に分ける、コミュニケーション・プロトコールに気を使えるようになるのもプロの流儀の一つなんでしょうね。

今日も読んでいただき、ありがとうございました。

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